マツモトキヨシ店舗(写真:時事)

首都圏住民にとって「マツキヨ」として馴染みがあるドラッグストアのマツモトキヨシは現在、ココカラファインと経営統合して、マツキヨココカラ&カンパニーとなっている。

かつて、ドラッグストア業界の圧倒的なトップ企業として長年君臨していたマツキヨは、近年は業界大手の再編が相次ぐ中で、トップの座を奪われて久しいが、経営統合によって、トップレベルの売上規模を回復することに成功した。

医薬品、化粧品の売り上げが大きいマツキヨココカラ

5月に発表されたマツキヨココカラとしての通年業績(2023年3月期)を見ると、売上規模では3位レベルながら、実質的な業界トップを奪還したように思われる。

ドラッグストア業界の大手企業は、1位ウエルシア、2位ツルハ、3位マツキヨココカラ、4位コスモス薬品、5位サンドラッグ、6位スギ薬局といったところが上位企業になる。

これら大手の収益率を比較してみると、マツキヨココカラの売上高経常利益率は他社と比べてかなり高い。これはマツキヨココカラが医薬品、化粧品を主力商品としているドラッグストアとして「正統派」だから、というのが背景である。開示されている商品別の粗利率を見ると、医薬品、化粧品の粗利率が高く、食品の粗利率は低い。


この傾向は同業他社でも同様であり、医薬品、化粧品の売り上げが大きいほど利益を稼ぐということになる。大手を比較すると、マツキヨココカラは医薬品、化粧品の売り上げでは業界のトップシェアであることがわかる。利幅の高い商品を最も売る企業であるため、収益力が高くなるというわけだ。

こうした話を聞けば、だったら他社も食品の比率を下げて、医薬品や化粧品を売ればいいと思うかもしれない。しかし、業界のトレンドとしては、その逆の方向に進んでいる。次の図は経済産業省の商業動態統計によるドラッグストアの市場規模と売上構成に関するデータである。順調に拡大を続ける市場規模、売り上げに占める医薬品や化粧品の比率が低下し、食品の比率が上昇していることがわかるだろう。


なぜ、そうなるかといえば、今も増えるドラッグストアの店舗の多くが大都市部ではなく、地方、郊外のロードサイドにあり、こうした立地の場合、集客材としての食品の品揃えが必要になるからだ。

大都市の駅前や繁華街ならば、人流が集まっているので、そこに出店すれば前を通る人が自然と店に入ってきやすい。しかし、地方や郊外の道路沿いに出店する場合、クルマはたくさん走っているが、歩いている人は少なく、クルマを停めて店に入ってもらう動機が必要になる。

安売り食品で顧客をつかむコスモス薬品

そのため、ドラッグストアではあるが、購買頻度の高い食品を安売りすることで来店動機をつくるという手法が一般的である。数ある競合店の中から選んでもらうため、安売り食品の売場が拡大していき、食品売上の比率も上がってきたというわけだ。それを究めたのがコスモス薬品であり、「フード&ドラッグ」という店舗スタイルを確立して、食品売上比率は6割程度にまでなっている。

このスタイルは地方の消費者の支持を得て、コスモス薬品はこの業界では当たり前のM&Aをせずとも、自前出店だけで業界4位まで成長した。しかし、その売り上げのうち、医薬品や化粧品というドラッグストアとしての主力商品だけをとってみれば、トップのマツキヨココカラの半分にも及ばない。

人流が自然と集まる大都市部を押さえるほうがドラッグストアとしては有利で、この点でもマツキヨココカラはドラッグストア最良の店舗網を築いているといえる。首都圏、京阪神における圧倒的なシェアを確立しているからだ。

ドラッグストア大手の首都圏、京阪神における店舗数を見ると、マツキヨココカラは首都圏において圧倒的、京阪神でもトップとなる店舗網を築いていることは一目瞭然だ。


(出所:各社HP等)

ライバルも新規出店すればいいだろう、と思うかもしれないが、国内有数の人口密集地である首都圏、京阪神の中心地には空き地などはほとんどない。優良立地は異業種も含めた取り合いで、取ったり取られたりの競争になる。追いかけようにも簡単には追いつきようがないため、マツキヨココカラの優位は当面揺らぐことはなさそうだ。

マツキヨとココカラファインという大都市に強い企業同士の統合が決定する前に、スギ薬局が「待った」をかけたことがあった。スギ薬局はこうなることを十分にわかっていたからこそ、最後までこの統合を阻止しようとしていたのだろう。

九州発祥のコスモス薬品の進撃

では、ウエルシア、ツルハなどの大手企業はこれからどう出るのか。大都市部へは可能な限り出店やM&Aによって店舗網を強化しながら、地方におけるシェアアップで激しい競争を展開せねばならない、というのが一般的な見方となろう。

しかし、そこで台風の目となるのはコスモス薬品である。出店力、成長力で競合他社を圧倒しており、M&Aの手を緩めると売り上げでは抜かれてしまう。

九州から発祥して、中四国、近畿、中部と物流網を整えながらドミナントをひたすらに東に広げていくコスモス薬品は、一度上陸するとそのエリアシェアを確実に増やし続けてきた。チェーンストア理論の権化のような効率性を誇り、その結果実現された損益分岐点の低さから、現状ではコスモス薬品を止める手立ては確立されていない。

したがって、ドラッグ大手各社はコスモス薬品との接近戦を行いつつ、残存している地場ドラッグストアのM&Aを続けるしかない、というのが現状かもしれない。

最近、イオングループの一員であるウエルシアがグループのスーパー運営企業イオン九州と組んで、スーパー並みの生鮮、総菜を含めたフード&ドラッグを九州に投入し、今後大量出店していくことを公表した。

この目的は、コスモス薬品の本拠地である九州エリアにおいて、同社にはない生鮮、惣菜の品揃えを持ったフード&ドラッグをぶつけることで、収益基盤である九州を切り崩すことを狙ったものであろう。

すでに九州最大規模の小売業となったコスモス薬品は、この本拠地で安定収益の基盤を確立して、その稼ぎを東進の投資へと注ぎ込んでいる。全国制覇を進めるウエルシアにとって、この新業態の成否は将来を大きく左右する課題かもしれない。

大都市商圏を確実に押さえることにほぼ成功したマツキヨココカラは、地方ロードサイド店舗(駅前、繁華街はあるが)がほとんどなく、地方での大手同士の激しい競争に巻き込まれる心配はない。

これから急速に進行する人口減少によって縮小する地方マーケットを奪い合う大手同士の厳しい競争から離れて、その影響から生まれてくるM&A案件を是々非々でピックアップするということも可能なのだ。

中部地方のシェア変動が注目される

しかし、大手各社は今後必ず来るコスモスとの郊外決戦を踏まえた経営判断を行うことになるが、この点でツルハは大手の中でも最も有利な環境にあるかもしれない。

ツルハの本拠地である北海道、東北はコスモスとの本格対決は最後であり、西の同盟者(ハーティーウォンツ、レディ、杏林堂など)を支援することで対抗することが可能だからだ。

こうした考え方からすれば、コスモスが今後急速に増殖し、また、フード&ドラッグ(クスリのアオキ、ゲンキーなど)が急成長し始めている中部地方のシェアの変動が注目される。

複数のフード&ドラッグ(コスモス、ドラッグストアモリ、ダイレックスなど)に席巻されている九州では、多くのドラッグストアが姿を消した。強力な基盤を持つ大手スギ薬局やリージョナルトップであるバローグループ(中部薬品)がどのような作戦で対抗するか、業界では大きな関心事になっているはずだ。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)