「PBR1倍割れ銘柄」の物色など、日本国内の支援材料は相当織り込まれた。日経平均がさらに上がるためには何が必要か(撮影:尾形文繁)

日経平均株価は平成バブル崩壊後の高値を更新し、一気に3万3000円台まで水準を切り上げた。今後さらなる上昇を遂げるにはどんな条件が必要になるか考えてみたい。

結論を先取りすると、筆者は「内需の底堅さ」「企業の資本効率改善」などといった日本固有の要因もさることながら、今後は海外要因が重要だと考えている。

4月以降の日本株押し上げに寄与してきた日本固有の要因は株価に相当程度織り込まれたと考えられるいっぽう、アメリカを筆頭に海外経済は改善の兆候が散見されるようになってきた。以下、現状を整理すると共に先行きを展望する。

街角景気と株式市場はどう関係しているのか

これまで日本株の押し上げに貢献してきた材料としては、国内景気の方向感が欧米対比で良いことがあった。世界景気を見渡すと、欧米経済はコロナ期の挽回消費出尽くしに加え、なおインフレの混乱に直面しており方向感が良いとは言い難い。

それに対してコロナ禍からの立ち上がりが鈍かった日本経済はいわゆるリベンジ消費の余力が豊富にある。実際、景気ウォッチャー調査や消費者態度指数など複数の景況感指標は改善傾向にあった。そうした方向感の良さが海外投資家の目にとまった可能性は高い。

ただし、5月の景気ウォッチャー調査では、3カ月先の景気見通しを問う先行き判断DIが54.4 へと 1.3ポイント 低下した。景気に敏感な立場で事業を展開する人々の肌感覚としては、これ以上の改善が期待しにくい状況にあるのだろう。

ここで、街角景気と株式市場がどう関係してくるのかという疑問が湧いてくるが、実は景気ウォッチャー調査と株価の連動性は広く知られている。筆者がとくに注目するのは、景気ウォッチャー調査が改善傾向にあるとき、日本株がアメリカ株に対して優位になるという関係だ。これは2023年入り後の日本株優位を説明してきたように思える。

株価と景気ウォッチャー調査の方向感が多くの局面で一致していることを踏まえると、株価が景況感に影響を与えているという、逆の因果関係の存在の否定はできない。

それでも 2022 年以降の日本経済がアメリカ対比で方向感が良いのは事実であり、そうした景気認識に基づいて日本株が選好されてきた可能性は高いと筆者は考えている。先行き判断DIが5月にわずかながらとはいえ低下したことは、株式市場にとって要注意であろう。

また「追加的」なという視点では今回の株高に大きく貢献したPBR1倍割れの解消が”進んでしまった”ことに注目したい。東証がPBR1倍割れとなっている企業に対して資本効率の改善を要請したことに企業側が呼応し、2023年3月期決算では即効性のある改善策として多くの自己株買いが発表された。

この間、株式市場で物色対象になったのはPBR(株価純資産倍率)0.8〜0.9倍など1倍の一歩手前にいる企業群だ。これらの株価上昇が日経平均株価の上昇に大きく貢献したのは周知の事実である。今や、日経平均採用銘柄に占めるPBR1倍割れの企業数は2023年以降約20社も減少しており、直近では110社程度となっている。

今、市場参加者が期待する展開とは?

依然として約半数の企業がPBR1倍割れの状態ではあるが、PBRが1倍手前で、かつ業績の安心感を兼ね備えている銘柄となると、物色対象はあまり多くはないように思える。また短期筋からすると、PBR1倍回復は利益確定売りのきっかけにもなりうる。

他方、ここへ来て明るい兆候が散見されるようになったのはアメリカだ。現在の状況を端的に言えば「景気の急減速を回避し、なおかつインフレ沈静化に成功する」というFED(アメリカの中央銀行)を含む、多くの市場参加者が渇望していた展開が到来しつつある。

直近の6月FOMC(連邦公開市場委員会)では、利上げ休止を決定すると同時に、政策金利見通し(ドットチャートの中央値)は5.75%(誘導目標レンジ上限)に引き上げられた。だが、インフレ率が鈍化している現状に鑑みれば、実際にそこまでの利上げが実施される可能性は低いだろう。現実的には5.25%あるいは5.5%が利上げの最終到達になると筆者は判断している。

インフレが沈静化に向かい、FRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締め終了が近づく中、製造業に関しては最悪期脱出の兆候が強まっている。

確かに、株式市場で注目度の高いISM製造業景気指数は5月に46.9と、依然として好不況の分かれ目となる50を下回っている。それでも3月からは小幅に改善し、先行きも緩やかな回復が見込まれる状況になりつつある。というのもISM製造業景況指数の調査項目である「在庫」指数が過去10年程度のボトム付近まで低下しているためだ。

もちろん、新規受注が停滞する中、過剰在庫が残存している可能性はある。だが在庫調整が一段と進展すれば、次は在庫を積み増す、つまり生産を増やす局面に入ると考えられる。そうなれば、S&P500のEPS(予想1株当たり利益)は過去の経験に沿って増加を遂げる可能性が高い。

また、アメリカはテック企業などサービス業の存在感が増し、製造業の存在感が低下していることは確かである。だが、株価との関係が深いのは相変わらず製造業であり、実際、現在もISM製造業景気指数とEPSの連動性は維持されている。

経済構造は変化しても、製造業が景気の波を作り出す構図に大きな変化はみられないということだ。今後、製造業のサイクルが上向き、それに伴ってEPSが増加に転じれば、アメリカ株は持続的な上昇が期待でき、それは言うまでもなく日本株を押し上げる要因になる。

日本株高を支える半導体にも明るい兆し

最後に、今回の日本株高の重要テーマの1つであった「半導体」に関して明るい兆しがあることにも触れておきたい。それは、半導体を中心とするIT関連財の生産集積地である台湾の輸出が持ち直していることである。

台湾経済部が6月20日に発表した5月の輸出受注は前年比マイナス17.6%と、3月のマイナス25.7%を底に2カ月連続で下落率が縮小した。

主因は輸出全体の6割強を占める電子製品と情報通信技術製品(ICT製品)の改善であり、電子製品はマイナス16.6%と3月のマイナス29.4%から持ち直し、情報通信技術製品もマイナス9.5%と3月のマイナス26.3%から改善した。こうした台湾の輸出底打ちは世界的なIT関連財の需給引き締まりを通じて日本企業にも恩恵を与えると考えられる。

これらを踏まえると、当面の日経平均は3万2000〜3万3000円が中心レンジとなりそうだが、FRBの金融引き締め終了とアメリカ経済の再加速、そして世界的な半導体市況の改善が重なれば3万4000円も見えてくるだろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(藤代 宏一 : 第一生命経済研究所 主席エコノミスト)