来る秋冬に向けてのコロナワクチン接種がどうなるか解説します(写真:Graphs/PIXTA)

本格的ポストコロナ1年目の夏は、やはりコロナ感染者が増えているのと、ヘルパンギーナやインフルエンザなど、例年であれば冬にはやる感染症と夏かぜが混在して増加しており、医療現場は混沌としている。私が院長を務めるナビタスクリニック川崎でも、小児科、内科ともかぜ症状での受診者が多い状況だ。

その間には、6回目のコロナワクチン接種で来院された方に接種を行っている。そのときにしばしば尋ねられるのは、「次はどうなりますか?」と来る秋冬に向けてのコロナワクチンについての質問だ。ここでは世界でのワクチン推奨の状況と国内外のワクチンメーカーの開発状況を説明しながら、日本でのワクチン接種がどうなるか、解説する。

XBB株は、従来のウイルスと何が違うのか?

XBB株は、オミクロン系統の新たな変異ウイルスであり、最新のオミクロンBA.4-5に対するワクチンや、オミクロンBA.5に罹ったことで得た免疫をすり抜けることが研究報告されている。

いま日本では多い人で6回目のワクチン接種を受けている。そのワクチンはBA.1やBA.4-5対応のワクチンであり、それらのワクチンを受けてもXBB株の感染を防ぐ能力は極めて低い。ウイルスがスパイク蛋白を介してヒトの細胞表面にあるACE2タンパクに結合し、細胞内に侵入する。スパイクと、ACE2タンパクの結合力の強さも感染に影響するが、これには大きな差が認められていない。よって、現在のXBB株の流行は、免疫回避能力に起因すると考えられる。

XBB株は、従来のオミクロン株と比較して同様の重症化率と報告されている。症状は発熱、咳、鼻出血、体の痛み、倦怠感など、とされている。コロナで気になる嗅覚や味覚障害の頻度は、これまでのオミクロン株と同様、非常に低い。遺伝子配列からみても、とくに重症化を招くような変化は認められていない。もちろん、一部の方は重症化したり、亡くなることもあるだろうが、一般的には大きく心配する必要はない。

では治療薬の効果はどうだろうか? モノクローナル抗体は、XBB.1.5株に対しては、ほとんど効果が期待できない。一方で、パキロビッドパックなどの抗ウイルス薬は、これまでのオミクロン株に対する効果と変わらぬ効果が報告されており、重症化が予防され、入院したり、亡くなったりするリスクを低くできると期待されている。

世界で流行しているウイルスについて見てみよう。

6月22日付けのWHOデータでは、XBB.1.5が最多だ。一方、XBB.1.16やXBB.1.9.2が増加傾向にある。


オレンジ色が増加傾向の株、緑色が減少傾向の株(図版:WHOのサイトを参照し、筆者作成)

日本ではXBB.1.5は継続して減少する傾向にあり、XBB.1.16が増加傾向にある。いずれにせよXBB系統が多くを占めているので、しばらく優位は揺るがないと予想される。

次のワクチンはXBB株で決まり

ヨーロッパでは、ECDCの会議によりXBB株での単抗原のワクチン製造を推奨する旨が発表された。また、アメリカのFDAでも、XBB.1.5株に対するワクチン製造を推奨する方針が発表された。これまで世界のワクチン供給を担ってきた中心は欧米のビオンテックとファイザー連合、およびモデルナであり、供給チェーンの大きさからしても、今後もこれらのワクチンメーカーの方針がデファクトスタンダードとなることは変わりがあるまい。メッセンジャーRNAを使わない、タンパク質を使ったワクチンを作っているノババックスも、XBB.1.5株に対するワクチンを作る方針を表明している。

日本国内では、厚生労働省がXBB株に対してワクチンを製造し、秋以降の次回の接種に用いる方向性が発表された。XBB.1系統のワクチンを製造するようだが、世界の潮流に合わせて XBB.1.5のワクチンにするのか、それとも日本は独自にXBB.1.16についてワクチンを国内製造するのだろうか?

SARS-CoV-2は進化を続けているが、XBB.1.5、XBB.1.16、XBB.2.3株のスパイクタンパク質を構成するアミノ酸の違いはほとんどなく、スパイクタンパク質の形は、ほぼ同じだ。基礎研究および動物実験でも、XBB.1.5と比較して、XBB.1.16に対するXBB.1.5用ワクチンの効果は同等とされている。よって、XBB.1.16用のワクチンを製造する必要性は低い。よって、日本でもXBB.1.5株のワクチン製造で良いと考えられる。

すでにファイザーやモデルナは、XBB.1.5対応の単価ワクチンを開発し、アメリカの当局に製造承認申請済みだ。ノババックスも準備が整っており、近々承認申請するものと思われる。

一方、日本国内でもメッセンジャーRNAワクチンの製造はなされている。しかしながら、現時点ではオミクロンBA.4-5など、すでに流行の終わった変異株に対するワクチン開発が行われているにすぎず、XBB.1.5など、これから必要とされるワクチンの開発は始まっていない。9月に接種開始するとなると、7月中くらいにアメリカで承認された新しいワクチンが、2カ月遅れくらいで日本でも承認され、10月頃供給されるスケジュールが現実的だ。国産ワクチンは、またしても国民の感染症予防には間に合わないことになろう。

(久住 英二 : ナビタスクリニック川崎院長、内科医師)