出席株主から巨額赤字の責任を追及されたシャープ経営陣(記者撮影)

「大幅な当期純損失、無配を深くお詫び申し上げます。まことに申し訳ございません」――。

6月27日午前10時、シャープの株主総会が始まった。冒頭「おはようございます」と日本語で挨拶した呉柏勲(ご・はくくん)CEOは、経営成績の説明に入る前に業績悪化について陳謝した。

シャープは2023年3月期決算で2608億円もの最終赤字を計上した。直接的な原因は2022年6月に“再”連結化した液晶パネル製造会社、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の業績不振だ。これによってディスプレー事業などで総額2205億円の減損損失を計上した。

巨額の最終赤字について株主にどう説明するのか。また、取締役の選任や報酬の増額、ストックオプションの付与などの議案について、株主がどう判断するかが総会の焦点となっていた。

「いったい誰が責任を取るのか」

160人の株主が出席し、昨年の1.5倍となる98分を費やした株主総会は、批判的な質問が拍手を集め、一度終了した質疑を再開せざるをえなくなるなど、張り詰めた空気の中で行われた。なかでも質問が集中したのは、やはりSDPの買い戻しについてだった。

「プロセスがあまりにも不明瞭。買収を決めたのは戴さんと野村さんの時か、それとも呉さんと沖津さんなのか。責任の所在は? いったい誰が責任を取るのか!」(株主)

株主が名前を挙げた「戴さんと野村さん」は前経営トップの2人だ。大株主である鴻海(ホンハイ)精密工業出身の戴正呉(たい・せいご)会長と、シャープのプロパー出身である野村勝明社長のコンビだった。

シャープがSDPを完全売却するとしていた方針を180度転換させ、完全子会社化すると発表したのは2022年2月。SDPを買い戻したのは6月27日だった。呉柏勲社長、沖津雅浩副社長の現体制が発足したのは同年6月23日。株主が責任の所在を問うのは当然のことだ。

「SDPの買収は法的に問題なかったと言っているが、結果として巨額の減損につながった。経営判断としては誤りだったのは間違いない。今後どのように改善していくつもりなのか」(別の株主)

こうした質問に対し、会社側は従来どおりの説明を繰り返した。買い戻しのプロセスについては「外部の専門家の意見を求めつつ、取締役会で決議した」(呉CEO)と釈明。

当時の経営判断についても「地政学的なリスク、サプライチェーンリスクが高まっており、中米の対立を発端とした調達の困難性もある。当時の状況から考えても不合理とは言えない」(呉CEO)とかわした。

株価下落に悲痛な叫び

業績や株価に関する質問も多く出た。

「6年前に4000円台だった株価は下落する一方だ。何ですか?このざまは! 日経平均株価が33年ぶりの水準に高騰しているというのに、シャープの株価はなぜ下がる一方なのか。私たちのシャープを壊さないでほしい」(シャープOBだという株主)

総会終了後に開かれた経営説明会で質問に立った株主には「買ったときの値段から5分の1になった」という人もいた。


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実際、シャープの株価は2007年頃から右肩下がりの状況が続いている。鴻海による資本参加後は一時上昇に転じた局面もあったが、足元では上場来安値付近を低空飛行している状態だ。

呉CEOはこれらの声に、「昨年CEOに就任してから非常に懸命に働いてきた。グローバルテックカンパニーにしていくために勤勉に働いている。(今後は)新規事業をどんどん推進していく」と応じた。また、各ビジネスユニットに新規事業を推進する部門を設置し、「開源節流」を徹底する方針も改めて強調した。

総会後の経営説明会ではセグメントの再編やディスプレー事業における新製品について、各担当役員から追加で説明があった。11月11日には創業111周年を記念した大規模展示会を東京で開催するという。

鴻海関連以外の株主は3割超が再任に反対

「開源節流などのスローガンはわかったが、業績改善に向けた具体的な説明が乏しかった。シャープに対する鴻海の関心が薄れているのではないか心配だ」。総会終了後に東洋経済の取材に応じた大阪府在住の60代の株主はそう語った。


黒字必達を改めて訴えた呉社長(記者撮影)

経営陣に対する不信感は、取締役選任議案の決議結果に如実に表れている。すべての議案が賛成多数で可決されたものの、昨年は5%未満だった呉社長への反対票は10%超へと倍増したことが、6月30日に開示された臨時報告書で明らかになった。

シャープの株式は親会社の鴻海やその関係者が約57%を保有しているとみられる(2023年3月末時点)。鴻海関連以外の株主で考えると、3割超が再任に反対した格好だ。

しかし、少数株主からの信任を回復する手段は限定的だ。2023年3月期の巨額減損で自己資本比率が大幅に低下しており、配当や自己株買いといった株主還元施策を実行することはほぼ不可能。

呉CEOも認めるとおり、株価を回復させるためには業績を改善するほかないが、足元のディスプレー市況は低水準が続く。新規事業創出にも時間がかかる見込みで、今期業績は黒字化すら危うい。

株主・経営陣の双方にとって我慢の時間がしばらく続きそうだ。

(梅垣 勇人 : 東洋経済 記者)