東急グループ向けの賠償責任保険をめぐり、損保ジャパンは保険料の具体的な水準について調整するような行為はなかったと金融庁に報告していた(記者撮影)

私鉄大手・東急グループをめぐる大手損害保険会社の価格カルテル問題で、損害保険ジャパンの矛盾が露呈した。

火災保険のみならず賠償責任保険でもカルテル

東急グループと取引のある大手損保4社のうち3社が、火災保険のみならず賠償責任保険においても価格カルテルを結んでいたと金融庁に報告していた。

賠償責任保険とは、自社の施設や工事などで事故が発生した場合に、その損害賠償費用を補償する仕組みの商品だ。東急グループ向けの賠償責任保険では損保ジャパンが幹事会社を務めている。

カルテル問題をめぐっては、金融庁が大手4社に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、2023年6月23日までに各社が経緯や調査の状況などについて報告している。

その報告の中で、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の3社は、東急グループ向けの火災保険と賠償責任保険について保険料の調整行為(価格カルテル)があったとしている。


東京海上日動は6月20日、カルテル行為を主導していたことを認めた(記者撮影)

6月30日の日本損害保険協会の記者会見においても、協会長を務めるあいおいの新納啓介社長は「(個社として)賠償責任保険についても、保険料調整を実施してしまっているという認識だ」と述べている。

その一方で、損保ジャパンは、契約更改における実務上の「やり取りは各社の担当者間であったものの、(現場の営業担当者からは)提示する具体的な保険料水準について話し合ったとは聞いていない」としており、金融庁にもその旨を報告したようだ。

つまり、幹事会社である損保ジャパンだけ言い分が食い違ってしまっているわけだ。

罰金処分が科される可能性も

主張が異なることについて、損保ジャパンは「保険料の調整行為については現在調査中」としている。もし意図的に隠して金融庁に報告していたとなれば、法人に対して保険業法(321条1項2号)に基づく罰金処分が科される可能性がある。

現在、大手4社はカルテル問題について、調査委員会を設置して同種の事案がほかにないかなど調べを進めている。業界としてウミを出し切れるのか。金融庁への報告段階から主張の食い違いが露呈するようでは、先が思いやられる。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)