桃花台新交通の廃線跡に沿って走るピーチバス(筆者撮影)

ローカル鉄道の廃止反対理由として、「鉄道がなくなると町がさびれてしまう」としばしば述べられる。しかし現実には鉄道の乗客が高齢者と高校生だけとなり、利用客数が極端に減少してしまったからこそ廃止論議が起こる。消えた鉄道の沿線地域と、鉄道を代替した公共交通機関は今、どうなっているのか。

今回は鉄道が消えても住宅地として充実した公共交通が提供されている桃花台ニュータウンの「今」を取り上げる。

桃花台ニュータウンは、愛知県小牧市東部の丘陵地に建設された住宅地だ。開発の主体は愛知県で、都市計画の発表は1971年。1980年に入居が始まり、最終的に計画人口は4万人とされた。現在の居住人口は2万人あまり。緩やかに減少が続いている。高度経済成長期に計画され、同時期に同世代が一斉に入居したニュータウンの例に漏れず、住民の高齢化が進む。

新交通システムは短期間で廃止

このニュータウンへの交通手段として整備されたのが桃花台新交通だ。愛知県が最大の株主となって小牧市や名鉄も出資した第三セクター鉄道で、いわゆる「新交通システム」を採用した。当初は名鉄小牧線小牧駅―桃花台東間7.4kmを第1段階、桃花台東―国鉄(当時)中央線高蔵寺駅間を第2段階として整備する方針であった。

第1段階の開業は1991年3月25日。しかし高蔵寺への延伸は行われることなく、運転を始めた区間も業績不振により2004年頃より存廃問題が浮上。結局、2006年9月30日限りで廃止されてしまった。全線高架(一部地下)構造の線路や駅は放置されていたが、2015年になってようやく解体撤去工事が始まっている。

桃花台新交通が営業していた当時から、名古屋市内への公共交通機関は、隣接する春日井市内にある高蔵寺駅へバスで出てJR中央本線に乗り継ぐルートが主流となっていた。その要因としては、名鉄小牧線は2003年の名古屋市営地下鉄上飯田線の開業まで、ターミナル駅の上飯田が他の鉄道と接続しない孤立駅だったことも大きい。そして上飯田線開業で地下鉄網と結ばれても、小牧線へ流れる動きは予想ほどには増えなかった。

現在、桃花台ニュータウンから利用できるバス路線は、主に5種類もある。桃花台新交通の廃止代替路線バスは小牧市内に本社があるあおい交通が運行。「ピーチバス」との愛称が付けられている。

起点は小牧駅前(一部は小牧市役所前)で小牧原駅前を経由し、桃花台新交通が走っていたルートを忠実にたどって、ニュータウンの中心地である桃花台センターへ至る。そしてニュータウン内(光ヶ丘地区・城山地区)を一周して、再び桃花台センターから小牧駅へと戻る。

朝は15〜20分間隔、それ以降は30分間隔運転が基本だ。廃止時の桃花台新交通が約20分間隔だったことを思えば、輸送力としては小さい。朝夕は混雑が見られるが、途中にある三菱重工などの事業所への通勤客の利用が目立つ。小牧駅―桃花台センター間の所要時間は約20分。運賃は300円である。


名鉄小牧駅前で発車を待つ各種路線バス(筆者撮影)


小牧駅付近を走るピーチバス(筆者撮影)

新交通の代替ルートの利便性

「桃花台バス」は、それまでニュータウンと距離的にはいちばん近いJR春日井駅を結ぶバスがなかった不便を解消するため、会員制自主運行バスとして2002年にあおい交通へ委託する形で営業を開始した。その後の規制緩和により、ピーチバスと同様の路線バスに変更されて今に続いている。

桃花台新交通廃止に伴って新設された名鉄バスの春日井・桃花台線とは、途中経路を変えて共存しており、朝、昼、夜と時間帯によってもルートを変えて、需要に応じている。平日朝の春日井駅前行きは6〜8時台に9本、夜の春日井駅前発は17〜21時台に11本の設定。桃花台内―春日井駅の運賃は300円だ。

JR春日井駅から桃花台センターを通って、やはり光ヶ丘地区・城山地区を一回りして、桃花台新交通の終点であった桃花台東を終点とする名鉄バス春日井・桃花台線30・31系統も、2006年の桃花台新交通廃止により設定された代替ルートだ。幹線道路をほぼ一直線に進む。桃花台センター―JR春日井駅間の所要時間は23分で、運賃は320円。春日井からはJRで、大曽根、金山、名古屋などへ乗り換えなしで行ける。

現在は朝7時台にはJR春日井駅行きが5〜6分間隔で運転され、日中も桃花台の住民の利用が多いとされる春日井市民病院を経由する便が30分間隔で走る、ニュータウンの基幹的な公共交通機関となっている。お昼前の春日井駅行きに乗ってみたが、若い人が多く乗ってきて、活気があった。春日井駅では駅舎のすぐ前のバス停に着き、雨の日でも楽に乗り換えられる。


春日井駅前に到着した桃花台バス(筆者撮影)


春日井駅前の名鉄バス降り場(筆者撮影)

一方、かつての主力だったJR高蔵寺駅―桃花台センター間の73系統は現在、朝6・7時台こそ毎時3本が走るが、その後は毎時1本程度の運転。サブルートの感が強い。ニュータウンから駅までの所要時間では春日井へ出る場合とほぼ同等なのだが、運賃が440円と高く、名古屋市内方面へは高蔵寺経由だと、やや遠回りとなるためと思われる。

同じ名鉄バスで見逃してはならないのが「近距離高速バス」。名古屋駅前の名鉄バスセンターを起点に栄などを通り、自動車専用道路経由で近郊の住宅地との間を走る高速バスだ。そのうち名古屋・桃花台線が桃花台センター、桃花台東などニュータウン内の各所と名古屋市中心部を直結する。途中は小牧市役所前、小牧駅を経由。上末からはピーチバスとほぼ同じ経路をたどる。小牧市内のバス停相互間の利用も可能で、ピーチバスと補完しあう関係にある。


名古屋と桃花台ニュータウンを直結する名鉄の近距離高速バス(筆者撮影)

名古屋中心部と直結するバス

名古屋・桃花台線は、平日朝の上り名古屋行きを6〜8時台に6本を運転。以後も上りは5本が設定されている。平日の下りは午後〜夜間を中心に14本が桃花台センターを通り、通勤需要に対応する。ピーチバスが夜の運行を終了した後の、小牧駅発23時台にも2本が設定されており、深夜バスの役割も兼ねる。

桃花台センター―名鉄バスセンター間は1時間10〜20分程度で、運賃は790円。鉄道利用ルートより所要時間面でも運賃面でも若干、不利ではあるが、自宅近くから名古屋市中心部まで乗り換えなしで行き来できるのは便利だ。実際に乗ってみても高齢者の利用が多く見られた。段差が大きいハイデッカー車の、バリアフリー化が今後、課題になってくるであろう。

同じ高速バスでも、ニュータウン内を通っている中央自動車道経由の長距離便のうち、桃花台東バス停近くの桃花台バスストップに停車する系統の一部(名古屋多治見線、名古屋飯田線など)は、空席があれば名古屋バスセンター―桃花台間のみの利用も可能だ。所要時間は約30分と速く、運賃も790円にそろえられている。ただ、自宅などから乗り場までの距離があると使いづらくはある。


ニュータウン内にある中央道桃花台バスストップ(筆者撮影)

ユニークな存在なのが、こまき巡回バス「こまくる」だ。小牧市が運行するコミュニティーバスで、あおい交通に委託されている。小型バスを使用し、桃花台ニュータウンのみならず、小牧市内のかなり細い生活道路まで入り込んで、まさに網の目のように路線を広げている。

名鉄バスやピーチバスとは連携、補完関係にあり、これらのバスの定期券を持っていれば無料で利用可能。運賃は200円だが、1度支払えば、当日中は乗り降り自由となる制度が面白い。ピーチバスからこまくるへ乗り継ぐとこまくるが無料になり、こまくるからピーチバスへ乗り継ぐ場合も、ピーチバスの運賃が2回乗車分、50円引きになる。


桃花台センター上バス停に到着する「こまくる」。背後は旧桃花台センター駅の駅舎(筆者撮影)

桃花台新交通はニュータウンの中央部を横断していただけであったが、現在のバス路線網は高速バスからコミュニティーバスまで、ニュータウン内を巡回して、随所で乗降が可能になっている。

バスの機動力を生かして自宅や用務先近くを経由させることで、いったん鉄道駅へ出向かせて乗り換えさせ、多数を集約して運ぶ方式から、人口減少、高齢化時代にふさわしい、細かく分散した需要にできるだけ直通で対応する輸送方式に転換したのだと見て取れた。

丘陵地に建設されたニュータウンは、歩道と車道の分離が意識された設計になってはいるものの、坂道も多いため、自家用車社会の愛知県であっても、こまめに走る路線バスの存在はありがたいだろう。

課題はバリアフリー化か

大規模商業施設「ピアーレ」「ピエスタ」や行政施設が集まる桃花台センターはすべてのバス系統が経由。惜しむらくは、こまくるを除いて、乗り場が周辺の幹線道路上に分散しており、停留所へ到達するのに階段を使うルートも多く、バリアフリー化が十分ではないことか。

こまくるだけは、ピアーレの目の前にある桃花台新交通旧桃花台センター駅前の「桃花台センター上」バス停にも入りこむ。小規模なバス専用のロータリーがあるが、駅施設を撤去して、この位置に大規模なバスターミナルを設け、すべてのバス系統が集約されればよいのにと思う。


桃花台東に到着した近距離高速バス(筆者撮影)


桃花台東駅跡のピーチバスのバス停は地域名の大城を名乗る(筆者撮影)

小牧市役所で入手した、こまくるの路線図・時刻表が優れものであった点は付記しておきたい。1枚ものの紙やPDFで提供されており、名鉄バスやあおい交通の路線バスも明記。これまで、さまざまな市町村営バスの案内を見てきたが、小牧市の公共交通機関への力の入れようは、この路線図や、市の公式サイトのこまくるの案内の情報量の多さ、丁寧さを見れば出色だとわかる。桃花台新交通は失敗だったかもしれないが、決して地域の交通を軽視しているわけではないのだ。


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(土屋 武之 : 鉄道ジャーナリスト)