子どもの頃から多様性を知るZ世代だからこその「迷い」(写真:takeuchi masato/PIXTA)

マーケティングの最⼤の⽬的は、商品やサービスを広く知ってもらうことです。今、そのカギになるのが、「Z世代」。注目すべきいちばんの理由は、その拡散⼒です。

Z世代は⽇常的にSNSを使うことが当たり前の環境で育っています。彼らが商品やサービスについてシェアする。それを知った⼈たちが、また周囲にシェアする。そうして世代を超えて拡散していきます。

では、どんなことを伝えれば彼らがシェアしてくれるのか。『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』の著者、今瀧健登氏は、「商品の魅力を伝えても、Z世代には刺さらない」と話します。彼らが求めているのは、商品やサービスを通して得ることのできる世界観。「エモ」=「ハッピーな共感」を訴求することで、共感の輪が広がっていきます。

「幸せ」の数が無限にある世の中

多くの人に商品やサービスを知ってもらうためには、Z世代に刺さる発信をして、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ。ここでは報酬やインセンティブが発生しない口コミやレビューを指す)を拡散してもらえばいい。

ただし、ここに壁が現れます。それは、Z世代は「多様性を好む」ということです。

Z世代は、SNSを通していろいろな人の生き方を見ています。「大企業に入った」「お金持ちになった」といった画一的な成功ではなく、「お金がなくてもこんなに幸せな生活がある」といった人の姿も知っています。

これまでもテレビなどでそうした発信はありましたが、「北海道の大自然の中で自給自足の暮らしをしています」といったような、極端な例でした。珍しいものでなければ人の注目を集めないからです。

それがいまは、どんな場所でどんな生活をしている人でも、SNSで自分たちの生活を発信しています。情報の受け手としては、聞いたこともないような地域で住んでいる人の「今日はタケノコを採りました」「雪が積もりました」といった、飾りのない日常を知ることができます。都会の人が地方に住む人の発信を見れば、「2LDKで家賃4万円ってどういうこと?」といった気付きも出てきます。

もちろん住んでいる場所だけではなく、仕事やライフスタイルなど、さまざまな人の多様な姿を見ることができます。そうして、「こういう生き方もあるんだ」「お金をたくさん稼いでいなくても幸せそうだな」という感覚が広がっています。

子どもの頃からいろいろな「幸せ」を知ることで、Z世代は他人に対して優劣を付けるという意識をあまり持たなくなっています。「この人は大企業に勤めているけれど、残業ばかりでしんどそう」「あの人は何の仕事をしているかよくわからないけど、楽しそうだな」といった、両方の姿を見ている。大企業に就職している人、地方で暮らしている人という区別があるだけで、上下の差はありません。

いろいろな幸せの姿があって、それぞれに上下も感じない。そうすると、自分がどうやって生きるのかを、とても選びづらくなります。

これまでは、自分より上の年代の人を見れば「ああいう進路を目指すべきなんだよね」といった共通認識があったのだと思います。しかし、Z世代は普段目にする幸せのかたちが多様化していて、どれを軸にしたらいいかわかりません。職業も生き方も、「正解」が数限りなくあります。

それに、自分が「こんな生き方がいいな」と思える人がいても、他人はその人を知らないということもあります。昔にはなかった職業や生き方も増えています。

仮にユーチューバーになりたいと思っても、上の世代には見本になる人がいません。相談すれば「何それ」「そんな仕事をしても駄目だ」と言われてしまいます。そうしてどんどん自分の生き方がわからなくなっていきます。

これは、教育が時代に追い付いていないという側面もあるように思います。日本の教育システムの中では、自分のキャリアについて考える時間があまりありません。そうして大学に入り、就職活動の時期に急に人生の選択を迫られます。そこで初めて、「どう生きるかを考えていなかった」と気付きます。

自分がどう生きるか、しっかりと固まった上であれば、多様な人の価値観を見ることで参考になる部分がたくさんあります。しかしそうでなければ、見る姿の数が多ければ多いほど迷いが出てきます。

それでも選ばなければいけないから、何か1つを選びます。社会に出てみて、自分にピッタリ合った仕事であればいいですが、どう生きるかを考えずに決めた進路が自分に合う確率は高いとは言えないでしょう。そうして、「この人生でいいのか?」「ほかに楽しい道があるんじゃないか?」「挑戦してみてもいいんじゃないか?」と考えながら暮らしています。

「自分らしさ」や「個性」大事に

Z世代は「生き方」に迷いを抱える一方で、終身雇用は崩壊し、同じ企業の中でずっと働き続けるのは無理だとわかっています。転職は当たり前で、フリーランスになったり、起業したりする人も増えています。僕の同年代の知人から、「ずっと同じ会社で勤めようと考えている」と聞いたことなんてほとんどありません。

それぞれの生き方がバラバラの中で、ずっと同じ場所にいることもできません。加えて、時代とともに人の寿命は長くなっています。これまで80歳までの人生設計をすればよかったのが、100歳まで考えなければいけません。

そうした背景から、「個人としての力を持たなければ、これから先は生きていけない」と考えるようになります。そこまで明確に意識を持っていなくても、「自分らしさ」や「個性」を大事にし、多様性を好む傾向があります。

以前、「日本人は同調圧力が強いといわれるけれど、Z世代は自分らしさを大事にしたがる。そこに矛盾を感じることはありますか?」と聞かれたことがあります。

僕なりの答えとしては、同調圧力と個性を大事にする意識が混在しているのが、現在の日本だと考えています。

上の世代が昔ながらの同調圧力を持っていて、その子どもが個性を大事にするZ世代だという構図です。職業を選ぶときに、大人たちは「大企業に入りなさい」と言い、子どもたちは「起業したい」と考えます。だからわかり合えない部分が出てきます。

これはどちらがいい、悪いという問題ではないと思います。単純な意識の違いであり、人によって考え方も違います。ただ、傾向として、Z世代と上の世代にはこうした違いがあるということは踏まえておくべきです。

Z世代は「自分らしさ」や「個性」を大事に考えている人が多い。ただ、生き方としてそれを体現できる人は少なく、だけどボンヤリと「ほかの人とは別でいたい」と考えています。

そうした意識から、Z世代は何かを買うときにも人とは違うものを選ぶ傾向があります。例えば服を買うときに、周りの人たちが赤色を持っているから、自分は青を選ぶ。誰かが同じものを持っているということが、「買わない理由」になるわけです。

これには、「シェア」が当たり前になったことも影響しているように思います。

例えばみんなでカフェに行って「これがおいしそう」「これもおいしそう」となれば、それぞれが別のものを頼んで、「ひと口ちょうだい」とシェアします。それに、ネット上でも商品やサービスの感想がすぐにわかります。流行っているものは試したいけれど、自分で購入しなくても、どんなものかを知ることはできるわけです。

こうした意識から、「みんなが買っている」ということが、自分の買う理由ではなくなりました。しかし実際問題、自分しか買っていないものなんてありません。だからたくさんあるものの中で、自分にとっての「買う理由」を見つけようとします。「人が買っているから」ではなくて、「○○だからこれを買うんだ」という意味付けです。

Z世代が「ユニクロ」を着る理由

自分にとっての「買う理由」を言語化できている人もいます。例えば、Z世代はSDGsに対する意識の高い人が多い傾向があります。そうした人たちは、「地球環境のために」「サスティナブルなものを」という理由で商品を選びます。


ただ、そこまで「買う理由」を明確にできていない人のほうが多い。なんとなく「人と同じは嫌だ」と思っているけれど、はっきりした基準がない。

だから「あなたに合わせた色です」「あなたの生活に合わせて」といったパーソナルマーケティングが流行っているのだと思います。

ある人にこの話をしたときに「Z世代は個性が大事と言いながら、みんなユニクロを着てるよね」と言われました。また、Z世代はSDGsの意識が強いけれど、全体を見たときにあまり消費行動につながっていないということもいわれます。

これがなぜかを考えると、単純にZ世代はお金を持っていないからです。個性を大事にしたいけれど、安さも大事。Z世代の年齢が上がっていけば、「人とは違うものを選ぶ」という意識が消費行動の主軸になっていくはずです。

(今瀧 健登 : 僕と私と株式会社CEO、一般社団法人Z世代代表、Z世代の企画屋)