(左)村井國夫(右)ハリソン・フォード(写真:写真:AP/アフロ)

映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグと「スター・ウォーズ」シリーズのルーカスフィルムの超豪華制作陣がタッグを組んだアドベンチャー・シリーズ『インディ・ジョーンズ』。

その最新作にして、インディ最後の冒険となる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』がついに6月30日(金)より全世界同時公開となる。巨匠ジョン・ウィリアムズのおなじみのテーマ曲「レイダース・マーチ」に乗せて、“人類の歴史を変える力”を持つ究極の秘宝を巡り、インディの因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラーと争奪戦を繰り広げるアクション・アドベンチャーだ。

1980年代からハリソン・フォード演じる主人公インディ・ジョーンズ役の日本版声優を務め、最新作でも日本版声優を務めることとなったのは俳優の村井國夫(78)。テレビ放送などを通じて村井版吹き替えに慣れ親しんできた大勢のファンからは、今回のインディの吹き替え復帰に歓迎の声が多く寄せられている。

そこで今回は村井に『インディ・ジョーンズ』への思い、そしてハリソン・フォードとともに“生涯現役”を貫くことへの思いなどについて聞いた。

インディはスーパーヒーローではない

――インディ最後の冒険となる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』がついに公開を迎えますが、最新作をご覧になった感想はいかがでしたか。

拝見して、いろいろと俳優として感じることがありました。老いということへの向かい方です。ハリソンは大スターですよね。格好よくいたいはずです。

でも、このハリソンは老いを見せ、だらしない裸も出しています。その中から、立ち上がるハリソン、素敵です。

インディはスーパーヒーローではないのです。私生活では女性に弱く、だらしない日常があります。その表現に、ハリソンの覚悟があり、同世代の俳優として感動をしました。映画としても、ヒヤヒヤの連続で、心から楽しめました。

――村井さんといえばハリソン・フォードの吹き替えをイメージする人が多いと思うのですが。

自分の本業は舞台役者だと思っていたので、そこはまったく意識してなかったんですが、でも今回は本当に反響が大きくて。あらためて多くの方がインディ・ジョーンズは村井國夫だと思ってくださっていたんだなと。それはすごく感激しましたね。

――かつてはテレビのゴールデンタイムでしょっちゅう映画が放送されていたので。そのときに村井さんの吹き替え版を観ていた世代も多いと思います。

『インディ・ジョーンズ』が公開された80年代なんかは特にそうでしたよね。それで育った人たちが、映画好きになってくれて。今でも覚えていてくださるのは本当にうれしいことです。

――村井さんは舞台俳優が本業ではありますが、かつては舞台俳優の方がテレビで吹き替え声優をやられるケースは多かったですよね。

そう、舞台役者は多かったですね。それこそ僕らがテレビで見ていた昭和30年から40年代ごろは、近藤洋介さんや滝田裕介さんといった新劇の俳優さんたちがアテレコをやっていましたからね。

やはり皆さん、上手だったんですよ。でも僕はほとんどハリソン・フォードだけで、あとはそんなにやってなかったから。でもそれがかえってよかったのかもしれませんね。

何十年かぶりのオーディションに

――やはり村井さんの声質がハリソン・フォードに合っていましたよね。

4作目の吹き替えをやれなかったというのがずっと心残りだったんですよ。だから今回、最新作と、(最新作公開日と同日に)テレビで放送される『クリスタル・スカルの王国』を担当することになってイッツ・コンプリート! それは僕もそうだし、ファンの皆さまにもそう思っていただけた。それはうれしかったですね。


『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 (C)2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.6月30日(金)劇場公開

――今回の最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』では特に、80歳を超えたハリソン・フォードが現役でインディを演じているということが感動的なわけですが、その吹き替えを、同時代を生きた村井國夫さんが担当されている。そこがさらに感動的です。

これは絶対にやりたいと思っていたんですよ。でも特にオファーもなかったから、事務所の人間に、とにかくディズニーに話を持ちかけてくれとお願いして。そうしたら先方から声を聞きたい、テストをしたいとおっしゃっていただいたんで。もう喜んでテストに行きましたよ。

この歳になると、なかなかオーディションを受けることもないですからね。それこそ何十年ぶりかのオーディションだったんですよ。ミュージカルの『レ・ミゼラブル』以来だったと思います。それで今回やることができたんで、すごく喜んでいます。

――ハリソン・フォードが現役で俳優を続けているというのがすごいことですよね。

最近の彼の芝居はすごくいいんですよ。『42〜世界を変えた男〜』でも球団オーナーの役をやっていましたけど、あれを観て、「へえ、こういう芝居をするんだ」「うまくなったな」と感心してね。あれはすてきでしたね。やっぱりいい歳の取り方をしてるんだなと思いましたね。


『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』はディズニープラス「スター」で見放題配信中 (C) & TM 2023 Lucasfilm Ltd.

――ハリソン・フォードは『インディ・ジョーンズ』だけでなく、『スター・ウォーズ』のハン・ソロなど、当たり役が多いですね。

とにかく僕は彼の邪魔にならないように心がけていました。最初は生意気にも、俺が助けてやるみたいな気持ちでやっていたんですが……というのは冗談ですけど(笑)。

でもハリソンの芝居を邪魔してはいけない。ハリソンのイメージを壊してはいけないと思っていましたね。

ただ最近、初期作品の日本語吹替版をあらためて観る機会があったんですけど、恥ずかしいんですよね、30代の時の声ですから。でも映像自体は今観ても本当にすごいなと思いましたね。

ウォーキングとボイトレが日課

――働く人間として、今でもインディを演じているハリソン・フォードや村井さんのように“生涯現役”で活躍されている方にあこがれがあります。村井さんが仕事をするうえで普段から心がけていることはあるんですか?

やはりこの歳になると、今までの2倍、3倍の努力が必要です。やはり今でもお客さんの前に立つわけなので、みっともない姿は見せられないなという思いがあるわけです。

だから、いつもウォーキングをしています。それから今は声楽を2つのところで習っています。ボイストレーニングですね。そうしないとすぐに弱々しい声になっちゃうんですよ。

――今、お話をさせていただいても、ものすごく声に張りと色気があって。若い頃と遜色ないなと思ったのですが。

いやいや、そんなことはないんですけど。でもこの歳になるとやっぱり今までの努力じゃ本当に駄目なんです。先日、テレビのドキュメンタリーで(坂東)玉三郎さんがコメントをなさっていたんですが、やはり努力をしなきゃ駄目だと。

その努力は、死ぬか死なないかぐらいまでやらなきゃ駄目だと。そこまで突き詰めてはじめてそれが努力だというんですね。それを聞いて、なるほどなぁと。僕なんかまだまだだなと思いましたよ(笑)。

――背筋が伸びる思いですね。

でもそれと同時に、何かを達成するためには、楽しみがなくちゃ駄目。苦しいだけじゃ駄目なんですよ。少しでも達成感があれば楽しめるかなと思ってね。今、サックスの練習を始めたんですよ。あれは肺にいいんです。

僕は心筋梗塞で倒れてるから、血液の循環をよくしようと思ってね。ただむちゃくちゃ下手ですよ(笑)。まったく才能はないんですけども、楽しい。だからまだまだ毎日が日曜日というわけにはいかないですね。来年も何本か芝居が決まってるから、どうしても元気でなきゃいけないんです。

――インタビューなどを拝見させていただくと、後輩の俳優さんたちとのコミュニケーションも良好なようですが、そうした後輩たちとの交流はどうされているんですか?

若手の才能はすごいですからね。だからこいつはスターになるなと思った人をかわいがったり、メシを食わせたりしても損はないでしょ。だって後々、使ってもらわなきゃいけないんだから(笑)。最近はコロナ禍だったから、なかなかメシにも行けなくてつまらないですけどね。

でも本当にみんな、すぐにスターになっていくんですよ。だから彼らを見ていると楽しいですよ。だってデビューの頃に会って、すごいなと思っていたら、いつの間にかどんどんその世界の真ん中に来ちゃうわけですから。そういうのを見てると刺激になります。

ハリソン・フォードへの感謝

――最後に、村井さんにとってのハリソン・フォードとはどんな存在ですか?

とにかく大スターですよね。そして何と言っても「インディ・ジョーンズ」をやるのは十何年ぶりでしょ。その吹き替えを担当することになって、本当にありがたいなと思ているんですよ。ハリソン、ありがとう! という気持ちです。よくやってくれたなと思って、一字一句無駄にせずに、一生懸命吹き替えをやりました。

――やっぱり同じ世代を生きてきたという思いがあるのでは?

そうですね。彼は2つ違いの兄貴なんですよ。だけどいまだに色っぽいしね。本当にすごい人だなと思いますよ。

村井國夫 むらいくにお
1944年生まれ、佐賀県出身。1963年、劇団俳優座養成所に第15期生として入所。卒業後、1966年に俳優デビュー。そして同年に串田和美らと劇団・自由劇場の旗揚げに参加する。その後は舞台やテレビ、映画など幅広く活動している。

(壬生 智裕 : 映画ライター)