『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は6月30日(金)に公開©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

1981年に始まった人気シリーズが、6月30日公開の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で終わりを迎える。ハリソン・フォード演じる冒険好きの考古学者が暴れ回るのをビッグスクリーンで見られるのは、これが最後だ。

8年前には、もうひとつの代表的な役である『スター・ウォーズ』のハン・ソロにも、さよならを告げたフォード。今月半ばに行われた記者会見で、「その時と気分は違うか」と聞かれると、「違うとは言わないが、このさよならは良い気持ちで言えた。観客に満足を与えられると感じたから。ジェームズ・マンゴールド監督が作ってくれたストーリーのおかげで、僕らはすばらしい形でインディにさよならを言えるんだ」と語っている。

今作は、スティーブン・スピルバーグが監督をしなかった初の『インディ・ジョーンズ』ながら、“らしさ”は百点満点。フォードは、来月で81歳になるとは信じられない激しいアクションをこなしているだけでなく、インディの魅力であるユーモア、チャーミングさをたっぷりと見せる。


今作でも激しいアクションシーンを演じるハリソン・フォード©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

マンゴールド監督も筆者とのインタビューで語っていたが、シリーズがこれほど長く人気を誇ってきたのは、キャラクターが持つ面白い側面を、フォードが全部見事に引き出すことにあるのだ。

だが、意外にも、フォードはインディ役の第一候補ではなかった。それどころか、生みの親であるジョージ・ルーカスは、フォードの起用に反対だったのである。

そもそもこのプロジェクトが生まれたのは、ルーカスとスピルバーグがそれぞれに休暇で訪れていたハワイ。ふたりは友人だったが、一緒に仕事をしたことはなかった。『1941』(1979)の撮影を終えたところだったスピルバーグは、ルーカスに「世界を駆け巡る冒険映画を作りたいんだよね。ジェームズ・ボンドのような」と言った。

スピルバーグに具体的な構想はなかったのだが、それを聞いたルーカスは、彼が以前から持っていた『The Adventure of Indiana Smith』の構想を話す。フィリップ・カウフマンと脚本を書き始めていたのだが、カウフマンが別のプロジェクトに取られて、そこで止まっていたものだ。

スピルバーグはそのアイデアを気に入り、ルーカスと、まだこの業界に入って1カ月だったローレンス・カスダンとの3人で、3日間かけてストーリーを話し合う。それをもとにカスダンが脚本を書くと、スピルバーグとルーカスは「まさにこれだ」と興奮した。

次の重要な問題は、このキャラクターを誰に演じさせるのかだ。いろいろな俳優を検討した揚げ句、ふたりはトム・セレックが良いだろうと合意。しかし、セレックはテレビドラマ『私立探偵マグナム』の主演にも決まっており、スケジュールの問題で、最終的に断念せざるをえなかった。

そんな中で、ルーカスから『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)の映像を見せてもらうと、スピルバーグは「ここにインディ・ジョーンズがいるじゃないか」と言ったのだ。


宿敵を演じるのはマッツ・ミケルセン©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

『アメリカン・グラフィティ』(1973)にもフォードを使ったルーカスは、自分の映画にまた同じ俳優を出すのを良しとしなかった。フォードにはハン・ソロのイメージがつきすぎたというのも懸念材料だ。しかし、良く考えれば考えるほど彼はぴったりかもしれないと思うようになり、フォードに声をかけてみると、彼も乗り気だった。

しかも、『スター・ウォーズ』では3本契約を結ぶのを嫌がり、その都度の契約だったのに、『インディ・ジョーンズ』に関しては、脚本を読むとすぐに承諾したのである。「僕たちは絶対に3本作ることになると確信したんだ。そこに疑問はなかった」と、フォードは2021年、「Empire」へのインタビューで振り返っている。

そして、映画は3本では終わらなかった。3作目『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)がまたヒットした後、スピルバーグとフォードはもう1本作りたいと言ったのだ。それで、次はインディに何を追いかけさせるのかを考えたが、頑固者でこだわりの強い3人は、なかなか意見が合わない。途中、ルーカスは、「もともと三部作だったのだから、もう終わりでいいだろう」と思ったという。

しかし、ようやくみんなが納得するストーリーが決まり、3作目から19年後の2008年、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が、カンヌ国際映画祭で世界プレミアとなった。

この4作目には、インディが存在を知らなかった息子の役で、シャイア・ラブーフが出演する。ラブーフはスピルバーグ製作の『トランスフォーマー』の主役にも抜擢された若手俳優で、『インディ・ジョーンズ』シリーズは、ラブーフに代替わりして続くのではないかとの憶測も出た。

だが、その後、私生活でのトラブルのせいでラブーフのキャリアは大きな浮き沈みをたどることに。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』にラブーフは出演せず、息子がどうなったのかについては映画中のせりふで説明される。

今回の5作目も、前作から15年かかった。ルーカスフィルムが5作目の企画を発表したのは、2016年のこと。公開予定日は2019年7月だった。当初、脚本家に雇われたのは、『ジュラシック・パーク』(1993)、『ミッション:インポッシブル』(1996)などを手がけたデヴィッド・コープだった。

だが、その脚本にはゴーサインが出ず、ジョナサン・カスダンが新たな脚本家に雇われるも、降板。2019年にコープが再び戻ってきたが、2020年2月、スピルバーグは、「新鮮な視点から見つめてもらうために」と、監督を降板した。そこで白羽の矢が立ったのが、『野性の呼び声』(2020)でプロデューサーとしてフォードと組んだところだったジェームズ・マンゴールドだ。


ヒロインを演じるのはフィービー・ウォーラ―=ブリッジ©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

脚本家でもあるマンゴールドは、その時点であった脚本に満足せず、ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワースと一緒に、新たな話を書く。この記事の冒頭でも触れたとおり、その脚本を、フォードは大いに気に入った。「インディがキャリアの最後、人生の終わりに近づく様子を見ることで(長く続いてきた)話をきちんとまとめたいと、ずっと思ってきたんだ」とも、フォードは会見で語っている。

彼の言うとおり、この最終章は、まさにそれをやる。この映画のはじめで、インディは学者生活を引退し、刺激のない毎日を送っている。そこへ、思わぬ形で冒険が訪れるのだ。そして、最後には、シリーズを締め括るのにふさわしいラストが待っているのである。

それにしても、この役をフォード以外の人が演じていたかもしれないということは、想像もできない。映画を見ながら、誰もがそう感じることだろう。42年も夢を与えてくれたフォード、スピルバーグ、ルーカスに、あらためて感謝を送りたい。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)