赤城乳業の看板商品の1つ、「ガリガリ君」は1981年の発売以来、これまで160種類以上フレーバーが登場している(写真:赤城乳業提供)

「ガリガリ君」「ガツン、とみかん」「BLACK」などの定番品に加え、「カスタード好きのための至福のカスタード」や「あんこチョコレート」など年間100種類以上の新作アイスを出している赤城乳業。売り上げも右肩上がりで、2022年は500億円を超え、前年比約7%伸びた。競争が激しい食品業界において、新商品を出し続け、ファンを増やす戦略とはどんなものか。

「ガリガリ君」を約20年ぶりにリニューアル

赤城乳業は今年3月、発売当初の1981年からある「ガリガリ君」のソーダ味、コーラ味、グレープフルーツ味を約20年ぶりにリニューアルした。2022年6月に消費者調査を実施したところ、ファンは多いのに、素材や製法へのこだわりは意外に理解されていないことが判明したのがきっかけだという。

同社マーケティング部の岡本秀幸課長は、「ガリガリ君は、アイスキャンディーの中にシロップを混ぜた純氷を詰めているのですが、味がついた氷を入れていると思っている方が多かった。ガリガリ君は後味がさっぱりしているので、口直しがいらない。それは、ゆっくりと固まり不純物が入っていない純氷が、お口の中で最後に溶けるからなんです」と説明する。

純氷の魅力を伝えようと、岡本課長は工場の冷凍庫内で自ら試作するなどして開発し、大きい氷の割合を増やしてさらに爽やかな後味にした。

開発した商品を携え、全国主要都市13施設で合計10万本の無料サンプリングを実施したところ、前のほうがよかったという人はわずか4%で、7割以上の人が新商品のほうがいい、との高評価を得た。「リニューアルは、どこまで変えればいいのか、どこまで変えてはいけないのかの線引きは大変ですが、やっただけのことはあります」と岡本課長は話す。

ガリガリ君は、1964年の同社躍進のきっかけとなった、かき氷アイスの「赤城しぐれ」に続く新しい看板商品を求めて誕生した。『ガリガリ君の秘密』によると、2度のオイルショックの影響で、同社は当時、低収益にあえいでいた。ちなみに、赤城乳業の前身は1931年に創業した天然氷を販売する広瀬屋商店で、1961年に赤城乳業を設立した。

ガリガリ君の開発に当たって井上秀樹専務(現会長)から出された条件は、かき氷を使う、当時一般的だったアイスの1.5倍サイズにする、当たりつき、斬新な名前にするなどで、子どもが遊びながら片手で食べられるバー付きかき氷として開発した。

ガリガリ君は、次々に登場するフレーバーも魅力だ。今年はすでに、1月にマスカット味、4月にお米のソーダ味、5月にエナジードリンク味が登場しているが、年間3〜5種類は新商品が出る。1981年以来、これまでに160種類以上を出してきたという。

ガリガリ君の「いとこ」や「お姉さん」も

派生する商品も多い。例えば、2006年から発売する「ガリガリ君リッチ」シリーズは、「当時1本60円だったガリガリ君に対し、100円で発売。ワンコインで買えるのでリッチ、というあえてしょうもないスケール感で、通常のガリガリ君ではできない、乳固形分10%以上のアイスミルクグレードのミルクミルク、乳固形分3%以上のラクトアイスグレードのコーンポタージュ味やチョコチョコチョコチップなどを出しています」と岡本課長。

さらに、世の中に「高級アイスクリーム」はあるが「高級アイスキャンディー」はないことから、乳固形分15%以上のアイスクリームグレードのガリガリ君のいとこ、という設定の「伝説のプレミアムミルク ソフト君」を2021年に40周年記念商品の1つとして発売。

ガリガリ君の「看護師を目指す心優しいお姉さん」という設定の「シャキ子さん りんごヨーグルト味」も同じく40周年記念商品として出している。


シャキ子さん(写真:赤城乳業)

さまざまなコラボも実施している。熊本県の人気キャラクターのくまモンとは「ガリガリ君 九州みかん」(2027年3月発売)でタッグを組んだほか、不二家ネクター、リプトンなどの食品企業もあれば、サッカー日本代表、ポケモンなどコラボ相手のジャンルは幅広い。コラボを通じて社外のネットワークで得られる情報も、商品開発の役に立っているという。

ガリガリ君以外も含め赤城乳業は年間100種類を超える新商品を発売している。開発に当たり、一番重視するのは季節性。夏は爽快感を求められるが、冬はクリーミィで濃厚な味を求められる傾向がある。


くまモンとタッグを組んだ「ガリガリ君 九州みかん」(写真:赤城乳業提供)

冬にアイスを食べる習慣が一般化したのは、2015年12月に『マツコの知らない世界』で「冬アイスの世界」を特集したことがきっかけ。「おそらく劇的に変わりました。各社冬アイスに力を入れるようになったと思います」と岡本課長は話す。

近年の同社の大ヒット冬アイスといえば、「かじるバターアイス」だ。2021年2月に期間限定で販売したところ、SNSを中心に「バターそのものを食べているみたい」「パンの上にのせたらすごくおいしかった」などと話題を呼び、予測を大幅に超えてわずか1週間で完売した。

その話題性から、日本食糧新聞社の令和3年度「第40回食品ヒット大賞」の優秀ヒット賞を受賞。バタースイーツは2010年代後半から、バターサンドその他で流行し、人気になったジャンルでもあった。


「かじるバターアイス」(写真:赤城乳業提供)

新商品の企画は約1年前からスタート

同社の新商品は、発売4カ月前に取引先に案内を出す必要があることもあり、1年ほど前から企画がスタートする。かじるバターアイスも、1年ほど前から冬に食べたい濃厚なアイスは何か、という点から出発し、各部署のメンバーで打ち合わせした際、「バターを丸ごとかじるような商品があったら面白いんじゃないか」、とアイデアが出た。さまざまなバターを食べ、色や形などを検討し、バターをイメージしたパッケージデザインにした。

赤城乳業が年間100種類以上というハイペースで開発ができるのは、コンビニの拡大と伴走するように発展してきたからだ。「昔は、小売店のアイスのショーケースに、大手企業の名前が書いてあったのをご存じですか? 大手さんが既存の流通を押さえているので、新興の当社が食い込むのは難しかったのです」と岡本課長。

ガリガリ君が登場した1981年は、大手のコンビニが出そろい、拡大を始める頃だった。『ガリガリ君の秘密』によると、赤城乳業はコンビニ専門営業チームを作って、他社に先駆けコンビニルートの開拓に力を注ぎ、商品開発においてもタイアップを強化した。

「コンビニさんでは、毎週商品の改廃が行われます。そのため、どんどん開発する必要がありました。当社はアイス業界では4位ですが、今でもコンビニさんのシェアは高いです」と岡本課長。コンビニに鍛えられ、開発力を高めていった側面があるのだ。

そんなスピードで、息切れはしないのか。「ネタに困ることはないですか?」と聞くと、岡本課長は「そんな話は部署内でもあまり聞きません。世に出ていないアイデアもたくさんあります」と話す。

挑戦しないのはもったいない、という雰囲気

つねに挑戦できるのは、「読みが外れて損を出した際も、少しのペナルティーでチャラにしてもらえる。給料が下がる、査定が下がるということはない。一方で、プラスの結果を出したら表彰されます。挑戦しないのはもったいないので、新商品を作りたい、という内側の熱は高いと思います」と岡本課長は話す。役員との距離が近く意思決定が速いことも、プラスに働いているという。

コンビニと組むことで開発力を鍛え、つねに客の動向にアンテナを張り、コラボなどで情報収集を怠らない。風通しのよい社風のため、ポジティブに開発に取り組める。赤城乳業が次々に新商品を出せるのは、こうした土壌があってこそなのだ。

その結果、2022年の売上高は対前年比7%拡大。実はアイス業界自体が伸び続けており、2013年から10年間では、33.7%に伸びている。総務省の家計調査で2人以上世帯のアイスクリームの年間支出金額は、2022年に前年比6.9%となっている。


その中でも、赤城乳業のアイスが伸びた要因の1つは、コロナ禍でコンビニやドラッグストアよりスーパーでアイスを買う人が増えた際、マルチパックの同社商品を買う習慣がついた顧客が多かったことだ。

「ガツン、とみかん」も伸びた。人気ユーチューバーでもあるお笑い芸人、江頭2:50氏が同商品の熱烈なファンで、自身のユーチューブチャンネル『エガちゃんねる』で2020年からくり返し取り上げていた。赤城乳業に本人が電話しCM出演したい、と申し出たことがきっかけで、2022年3月17日からまず、ウェブCM第1弾が実現している。


江頭2:50が登場する「ガツン、とみかん」のウェブ版CM(写真:赤城乳業提供)

ソフトクリームのアイス部分だけをカップに詰めたソフシリーズも、北海道産の乳製品だけを使うリニューアルを行い、売れ行きが伸びた。

岡本課長は、自らの仮説と断ったうえで「コロナ禍でチョコ系やフルーツ系のアイスが結構売れました。アイスはお菓子ほど重くなく、おうち時間のおやつ事情にマッチしていたのではないでしょうか。その中でおやつ感のあるチョコ系、フルーツ系のアイスの選択肢が赤城乳業にも多くある影響もあったのではないでしょうか」と分析する。

大ヒットは出にくくなっている

江頭2:50氏のエピソードからもわかるように、赤城乳業には熱心なファン層がある。それでもなお、近年は話題性が必ずしも売れ行きに結びつかない苦労がある、と岡本課長は明かす。

「昔は『どんな味だろう』と食べて盛り上がったのが、最近は味の想像がつかないモノは買われない傾向があります。人の報告を聞いて満足しちゃうんです」(岡本課長)。せっかくネットで盛り上がったとしても、実際に商品に手を伸ばす人は減っている、とみる。変化したのは10年ぐらい前から、というからSNSの浸透がどうも、ヒット商品を出す難しさに影響しているようだ。

数々のヒット商品を出す赤城乳業においてすら、近年の市場を読む難しさがある。この悩みには、商売をする多くの人たちが共感するのではないだろうか。しかし、厳しい環境だからこそ、求められているモノが何かを考え、しっかり調査をして裏付けを取り、挑戦していくしかないのだろう。

一方で今後の業績成長には自信を示す。コンビニには強みを持つが、スーパーなどほかの販路はシェアを伸ばす余地があるほか、例えば関西圏などより多くの顧客を開拓できる地域があるとみているからだ。嗜好の多様化などによってヒット商品が出にくくなっている中で、赤城乳業はどこまで成長を続けられるのか。

(阿古 真理 : 作家・生活史研究家)