EX30の説明をするジム・ローワンCEO(写真:VOLVO CARS)

ボルボ・カーズが「都市型」と定義する新型BEV(ピュア電気自動車)を、2023年6月7日にミラノで発表した。

「EX30」と名付けられたこのクルマは、仕様によってバッテリーを使いわけるなど、パッケージに凝る。また、生産〜使用〜廃棄にいたるまで、CO2排出量の削減をめざしたのも特徴といえる。

ボルボの世界販売台数は、2022年の数字で約61.5万台。規模としては、レクサス(約62.5万台)とほぼ同数。それもあって、私としてはつい両ブランドを比べてしまう。とりわけ気になるのが、BEVへの取り組みだ。


イタリア・ミラノで行われた発表会の様子(写真:VOLVO CARS)

ボルボは、2030年にはBEVのみを販売するとしており、すでに日本でもクロスオーバースタイルの「C40 Recharge」と、プラットフォームを共用するSUVの「XC40 Recharge」なるBEVを販売している。

また、日本への導入はまだ叶っていないが、「EX90」というまったく新しいプラットフォームを用いたバッテリー駆動の大型SUVも、ヨーロッパでは2022年秋に発表済みだ。

明快な「電動化一直線」戦略

今回のEX30は、日本未導入のEX90を含め、ボルボにとって4車種目のBEVであり、「SEA」という新開発のコンパクトサイズ用BEVプラットフォームを使う。

このように、電動化への姿勢がじつに明快だ。レクサスも、2035年までにフルラインナップの電動化という「Lexus Electrified」を掲げてきたものの、寄り道も多い。

このところ、大型ミニバンに大小の新型SUV……と、レクサスは新車攻勢に熱心だけれど、BEVは今のところ見当たらない。


XC40に似たディテールはあるがスタイリングは真新しい(写真:VOLVO CARS)

従来からの保守的(?)なファンも多く抱えるブランドだけに、目標の実現に向けてまっすぐな道を進めないのかもしれない。最後につじつまが合えばよろしい、というところか。

一方のボルボは、まさに一直線という感じでBEV戦略を展開しはじめた。これが今回、ミラノで行われたEX30の発表会に出席しての印象だ。

「ボルボ・カーズは、お客様にパーソナルで持続可能かつ安全な方法で、Freedom to Move(移動する自由)を提供することを目指しています」

これは、ボルボが折に触れて言及するコミットメント。今回もこの文言が、プレス向けリリースに明記されていた。

将来の規制に適した形でクルマをつくり、運転支援システムなど高い安全性とともに顧客に提供する、ということだろう。

そして、「2030年までに完全な電気自動車メーカーになるという目標と、2040年までにクライメート・ニュートラルな企業になるという目標」をもってクルマの開発を続けていくともいう。

そのため、CO2排出量の削減を声高にうたっている。EX30は、ボルボによると「これまでのボルボ車の中で最も低いカーボンフットプリントを実現するよう設計されて」いるという。


BEV専用となるSEAプラットフォームを採用する(写真:VOLVO CARS)

ボルボ・カーズを率いるジム・ローワンCEOは、ミラノでのインタビューに応えてくれて、次のように語ってくれた。

「2025年までに、生産とライフサイクル全体におけるカーボンフットプリントを、2018年比で約40%減らすのが目標です。将来は水素を燃料に製造する、グリーンスチールも使用します」

その目標を達成するため、EX30では車体に使われるアルミニウムの約25%、プラスチックの17%、内装になると約30%がリサイクル素材であるという。

また、EX30では、ドライブトレインにおいても環境負荷の低減を図っている。これも注目したい点だ。

パワートレインは3種類

EX30のグレードは、大きく3つある。頂点は「ツインモーターパフォーマンス」で、前後2つのモーターと、69kWhのNMC(リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーを組み合わせたもの。

性能的には、0-100km/h加速で3.6秒を誇る。これは、ポルシェ「911カレラS」の3.7秒よりちょっと速い。「ファン・トゥ・ドライブも大事な要素」だとローワンCEOは語る。


リサイクル材が多用されたEX30のインテリア(写真:VOLVO CARS)

一方、航続距離を重視する向きには、同じNMCバッテリーに、リアモーターのみを組み合わせ後輪駆動(基本はこの形)とした「シングルモーター・エクステンデッドレンジ」が用意される。その航続距離は、最大480kmだそう。

最後に紹介する3つ目が、もっともシンプルな名称を持つ「シングルモーター」だ。英語でいえば「last but not least」。最後に紹介する最もスタンダードなグレードであるが、これも決して侮ってはいけない。

LFP(リン酸鉄リチウム)の「スタンダードレンジバッテリー」と、リヤ1モーターの組合せ。「市街地走行が中心の人のためのモデル」とも説明された。

レアメタルを使わないLFPバッテリーは、性能こそ“そこそこ”だけれど、そのぶん安価でコストパフォーマンスが高く、資源消費も少ない。

そんな3つのグレードを持つEX30は、6月初旬に発表会が開かれると同時に、ヨーロッパでは販売開始。デリバリーも2023年内に行われるそうだ。

生産は、中国・北京近くの工場で行われ、NMC、LFPの2つのバッテリーも中国国内で作られるという。そこから、北米にも輸出されると聞いた。

同時に公開されたのが、「EX30クロスカントリー」。車高を少し持ち上げ、専用グリルにホイールハウスまわりのクラディングを装着するなど、オフロードテイストを加味したモデルだ。


フロントまわりもブラックアウトされるEX30クロスカントリー(写真:VOLVO CARS)

「私が提案したコンセプトです」。嬉しそうに語るローワンCEOに、「北米でも人気が出そうなモデルですね」と筆者が言うと、わが意を得たりとばかり笑顔を返された。

北米での成功も期待するといっても、ディメンションは全長4233mm×全幅1837mm×全高1549mmと、ボルボの説明どおりなかなかコンパクト。

ローワンCEOは「東京にもぴったりのサイズでしょう」とも言っていたが、そのほうが説得力があると感じられた。

ちなみに、発表会の場所としてミラノを選んだ理由をボルボ・カーズの広報担当者に聞いてみると、「グローバルシティであり、クルマの需要が多く、かつコンパクトなサイズがいろいろな面でのソリューションになりうる場所だから」とのことだった。


ミラノの発表会では実車を詳しく見ることができた(写真:VOLVO CARS)

シティカーとしてのBEVの需要は、これから拡大していくことが予想されるとボルボは言う。日本でも、軽自動車BEVの日産「サクラ」/三菱「eKクロス EV」がよく売れており、実際にそのとおりかもしれない。ならば、EX30(とEX30クロスカントリー)の北米での成功も、おおいにありうる。

「グリルレス」がこれからのボルボ

EX30について、話を戻そう。環境面とサイズだけが、EX30の特徴ではない。

外観は、グリルレスのボルボBEV共通のテーマを採用。「トールハンマー」とボルボが呼ぶT字型ヘッドランプの構成要素が、まるでカバーを持たないようにボディパネルにはめこまれているのが斬新だ。


C40 Rechargeのグリルレスデザインからさらに進化(写真:VOLVO CARS)

「人間的な表情を作ろうとしました」と、エクステリアデザインを統括するボルボ・カーズのTジョン(ティージョン)・メイヤー氏の言葉にあるように、この顔に冷たさは感じられない。

ボディのリアセクションの厚みが強調されているのも、スタイリング上の特徴だ。SUVって、そういえばここが分厚く見えるものだ。昔は大きなディファレンシャルギアを収めるなど“機能的な理由”があったけれど、EX30は燃料タンクも持たないし、室内や荷室の広さを表現した形と見てとれる。

インテリアは、床下に排気管が通ることがないBEVらしく、床面がフラット。おもしろいのは、「空間の広さを強調すると同時に、使用パーツをできるだけ減らしたかった」(インテリアデザイン担当のリサ・リーブス氏)というコンセプトだ。

通常、ドアに設けられているウインドウ開閉スイッチも、センターコンソールに配され、ダッシュボードのコントロール類のほとんどが、12.3インチモニター内に移された。


ナビ、オーディオ、エアコンに加え、メーターもすべて集約(写真:VOLVO CARS)

インテリアは「スカンジナビアの自然からイメージした」(リーブス氏)という落ち着いた色で統一され、ゆるやかなカーブもやはり「自然のイメージ」だという。

ダッシュボードのパネルの一部は、窓枠などに使われるプラスチックのリサイクル材から作られたもの。シート表皮も同様にリサイクル材が使われており、ウールに見えても70%が再生ポリエステルといった具合だ。


内装は「room:部屋」というコンセプトで4種類が用意される(写真:VOLVO CARS)

ボルボは、リビングルームのようなインテリアのテイストからもファンが多いだけに、リサイクル材を使っても手を抜いていない印象だ。審美的な価値は高いし、感触もまるで服飾のように、手で触れていて気持ちがいい。

要するに、このあたりの徹底ぶりが企業姿勢を明快に表していて、リサイクルを含めてBEV(=カーボンフットプリント減少)に向かうコンセプトの正当性を感じさせるのだ。

日本でも2023年中に発売予定

ヨーロッパでは約3.6万ユーロ(約556万円)が、EX30のスターティングプライス。上は「5万ユーロを超える」(セールス担当重役のビヨン・アンワル氏)そうだ。日本でも2023年中に発表および発売になるというが、価格などの詳細は未発表。

3.6万ユーロという価格に、ボルボは大いなる自信を持っている。それに対して、フォルクスワーゲンが近々の発売を予定している「ID.2 all」は、2.5万ユーロ以下になるという。1.1万ユーロもの差は、やや不利ではないか。


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その疑問をぶつけてみると、「属しているセグメントが異なるし、そもそもの装備内容が違う」(アンワル氏)という答えが返ってきた。

「私たちはEX30の価格設定によって、これまでより若い層や、エンプティネスト(子どもの独立で家族構成が小さくなった層)など、新しい顧客を惹きつけられると思っています」

ローワンCEOは、ボルボのありかたに大きな自信を見せるのだった。レクサスとは異なる“一直線戦略”をEX30に見た。

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)