バリアフリー、ノーマライゼーションの違いとは? 日本が抱える課題について
多様性が重視されるようになってきている現代。老若男女、障害者、健常者を問わず、誰もが住みやすい社会にするためには何が必要なのか、考える機会も増えてきました。そうした社会を実現するには、バリアフリーやノーマライゼーションといった概念が不可欠です。
この記事では、バリアフリーとノーマライゼーションの違いについて解説します。ノーマライゼーションに関する課題や、今後進めていくために必要なことについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ノーマライゼーションとは
ノーマライゼーションとは、1950年代のデンマークで生まれた概念です。当時のデンマークでは知的障害のある子どもたちが隔離施設に収容され、劣悪な環境に置かれていました。子どもたちの親が環境改善を政府に要望した結果、1959年に「知的障害者福祉法(1959年法)」が成立します。
この1959年法に初めて、ノーマライゼーションという言葉が盛り込まれました。障害のある人も健常者と同じ一人の人間であって、可能な限りノーマル(正常)な生活を送れる社会を実現すべきという考え方です。
ノーマライゼーションで重要なのは、障害者に健常者とまったく同じ生活をさせるのではなく、障害者も含めたすべての人が、ありのままで暮らしやすくすることを目指すという点です。
バリアフリーとの違い
ノーマライゼーションと同じような場面で使われる言葉として「バリアフリー」が挙げられます。
バリアフリーは、障害者や高齢者などが生活するにあたって、立ちはだかるバリア(障壁)を取り除くという考え方であり、ノーマライゼーションを実現するための手法の一つです。
バリアフリーと聞くと、段差がなく手すりが付いているような住宅を想像する人もいるかもしれませんが、対象はそれに限りません。バリアフリーは、住宅のみならず社会全体の障壁を取り除くことを指すものです。
なお、近年では物理面だけでなく、社会的・制度的・心理的な障壁を取り除くこともバリアフリーとして捉えられています。
ユニバーサルデザインとの違い
「ユニバーサルデザイン」も、ノーマライゼーションと似たようなシーンで使われる言葉です。
ユニバーサルデザインとは、誰もが使いやすいように、製品やサービス、環境をデザインする考え方を指します。ユニバーサルデザインの対象は障害者や高齢者に限りません。国籍や文化・性別に関係なく、すべての人々が使いやすいようなデザインが求められます。
ユニバーサルデザインもバリアフリーと同じく、ノーマライゼーションに必要な考え方の一つといえるでしょう。
障害者が持つ障壁
障害者は、日々さまざまな障壁の存在を感じながら生活しています。障害者の持つ障壁にはどのようなものがあるのか、具体的に見ていきましょう。
物理的障害
車いすに乗っていたり足が不自由だったりする人は、段差や幅の狭いドアを通れず、自由に空間を行き来できないケースがあります。
・車道と歩道の間にある段差
・施設の出入り口に設けられた階段
・車いすの人にはボタンが届かない自動販売機
・車いすに乗ったままでは開けられない開き戸
こうした物理的な障害は障害者や高齢者に加え、ベビーカーを押している親や小さな子どもなどにとっても困った存在です。こうした障害を取り除けば、すべての人にとって使いやすくなるでしょう。
制度的障害
障害者には制度的な障壁も存在しています。下に挙げた例はいずれも、本人の能力の有無に関係なく、障害があるというだけで機会を奪われてしまっているケースです。
・障害を理由として雇用してもらえない
・障害への対応がなく、入試や資格試験などが受けられない
・目が見えなかったり話せなかったりすることで、イベントに参加できない
・盲導犬を連れていてお店に入れてもらえない
ノーマライゼーションの推進にあたっては、障害者・健常者に関係なく、参加やチャレンジの機会は平等に与えられなければなりません。
文化・情報面での障壁
障害により読めない・見られない・聞こえないために、障害のない人との間で得られる情報や文化に格差が生まれ、機会が失われる場合もあります。たとえば次のようなケースが考えられるでしょう。
・駅や電車内のアナウンスが聞こえず、正しい情報が得られない
・手話通訳がないために、気になる講演会やイベントに参加できない
・案内図に点字がなく周辺情報を把握できない
意識上の障壁(心の壁)
周りの人の障害に対する知識不足や配慮不足が原因で、障害者との間に心の壁ができてしまうことがあります。たとえば、次のような意識や行動は社会における障壁になり得るものです。
・障害に対する知識不足を原因とする、障害者への無関心や偏見
・障害者は「かわいそうな存在」だという決めつけ
・建物や環境を設計する際のバリアフリー意識の欠如
・点字ブロック上への駐輪、車いす用駐車スペースへの違法駐車
物理的・制度的な障壁が解消されても、そこに集う人々の意識が変わらない限り、本当の意味でのノーマライゼーションは実現できません。
ノーマライゼーションに関する課題
障害者を含むすべての人がありのままで生活しやすい社会を目指すノーマライゼーションですが、まだ課題も多いのが実情です。
ノーマライゼーションを考えるうえで、障害者がどのような点に困っていて、どういったことを望んでいるのかを正しく理解しなければなりません。現状は障害者に対する知識や理解が不足しているという人が大半でしょう。
また、ノーマライゼーションに対する間違った知識が広まっている点も課題の一つです。ひたすら障害者に優しくすればいいということではないですし、反対に、障害者を支援することなく自立させればいいという考え方でもありません。
完璧にノーマルな状態を目指すのは難しいため、当事者の意見を聞きながら、必要な支援やサービスを適切に提供することが求められます。
ノーマライゼーションに必要なこと
課題を意識したうえで、今後ノーマライゼーションを推進していくために必要なこととはどのようなものなのでしょうか。
障害者の社会参加推進
ノーマライゼーションの推進には、障害者が社会参加できる環境の整備が欠かせません。
障害があっても健常者と同じように働いたり、学校に行って勉強できたりする環境づくりが何よりも大切です。たとえば教育現場では、障害のある生徒とない生徒が同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」の導入が進められています。
障害の有無に関係なくお互いを認め合いながら、施設でではなく、学校で、地域で当たり前に暮らしていけるよう考えていく必要があるでしょう。また、障害者にとっての物理的な障壁を取り除くことも重要です。職場や学校などのバリアフリーを促進し、手話・点訳のできるスタッフを配置するといった取り組みも求められます。
新しい福祉サービスの仕組みづくり
かつて日本の障害者福祉制度は、障害者の状況に応じて行政側が入所施設やサービス内容を決める「措置制度」が採られていました。現在では、障害者が自分でサービスを選択できる「支援費制度」に改められており、ノーマライゼーションの理念に近づいたと考えられます。
ノーマライゼーションをさらに推進していくには、障害者の自己決定をより尊重できる新たな福祉サービスの仕組みづくりが必要です。サービス事業者・支援者と障害者は対等な関係であり、お互い信頼し合いながらサービスが提供される環境を整備していかなければなりません。
ノーマライゼーションと住宅
障害者が暮らす住宅も、ノーマライゼーションの理念を反映したものにすることが求められます。バリアフリー化した住宅は、ノーマライゼーションのための住宅の一種です。
バリアフリー住宅は、家全体に段差がない、車いすが通れるよう通路やドアが広くなっている、随所に手すりがあって障害のある人も歩きやすいといった特徴があります。住宅にも、障害者が自立した生活を送れるこうした配慮が必要といえるでしょう。
まとめ
ノーマライゼーションは、障害者や高齢者を含むすべての人が、人間として当たり前の生活を送れる社会を目指すべきという考え方です。
一方バリアフリーは、障害者や高齢者などが生活の中で感じる障壁を取り除くことを指します。障壁を取り除けばすべての人にとって住みやすい社会を実現できるため、バリアフリーはノーマライゼーションの一環と考えられます。
誰もが生き生きと暮らせる社会を実現するためには、障害者、高齢者、健常者などという枠を越えてお互いを理解し合い、必要に応じた適切な支援をしていくことが大切です。