せきやたん、発熱、倦怠(けんたい)感、呼吸困難などの症状を引き起こす感染症である結核は、世界保健機関(WHO)によると、世界中で年間約1000万人が発症し、約150万人が死亡している病気です。また結核は患者のせきやくしゃみ、だ液から空気感染することから、結核患者には隔離措置が行われる場合もあります。そんな中、結核を患いながら1年以上にわたって裁判所の治療・隔離命令に違反し続けたアメリカ人女性がついに逮捕されました。

We continue to work through all options in Tacoma tuberculosis case | Blog - Your Reliable Source | Tacoma-Pierce County Health Department

https://www.tpchd.org/Home/Components/Blog/Blog/32629/333



Woman with untreated TB finally in custody-held in “negative pressure” room | Ars Technica

https://arstechnica.com/health/2023/06/woman-with-untreated-tb-finally-in-custody-held-in-negative-pressure-room/



せきやたん、発熱、呼吸困難などの風邪とよく似た症状が現れる結核ですが、もしも治療を行わずに放置すると、腎臓やリンパ節、骨、脳など身体のあらゆる部分に結核菌が転移し、最悪の場合死に至る重篤な感染症です。結核を発症して治療を行わない場合、死亡率は約50%とされています。

厚生労働省によると、日本では毎年新たに1万人以上の結核患者が発生しており、約2000人の患者が命を落としています。また、2021年の調査では1万1519人が新たに結核患者として登録されたことが報告されています。

結核を治療するためには、合併症がない場合でも複数の抗生物質を4カ月〜6カ月にわたって服用し続ける必要があり、薬剤に耐性を持った結核菌の場合には最大20カ月の治療が必要とされています。適切な治療を受ければ数週間で他人に感染させる可能性が低下し、完治に至りますが、一部の患者は適切な処方箋の服用や治療を拒否する場合もあるとのこと。



2022年1月19日にアメリカ・ワシントン州のタコマ・ピアース郡保健局(TPCHD)は結核に罹患(りかん)した女性に対して、自主的な隔離と治療を受けることを命じましたが、女性はその命令に従わなかったため、2022年1月26日に裁判所は女性に対して「自宅にとどまり、医師や医療関係者が推奨する検査や治療に協力するように」と命令しました。

しかし、女性は裁判所からの隔離と治療の命令に従いませんでした。そこで裁判所は女性に対して2月14日・2月24日・3月24日・4月19日・5月17日・6月28日・7月27日・8月25日・9月27日・10月21日・11月18日・12月16日の12回にわたり隔離と治療を求める命令を出しています。

その後2023年1月に、女性は他人が運転する自動車に乗っていた際に交通事故に遭い、翌日胸の痛みを訴えて救急科を受診しました。その際女性は「自分は結核患者である」と医療関係者に伝えなかったため、診察を行った医療関係者も結核に感染するリスクにさらされました。X線画像で撮影された女性の肺の状態は「肺がんではないか」と疑うほど病状が進行していたとされています。また、その女性は新型コロナウイルスの検査でも陽性であったことから、「自宅で隔離すること」という裁判所からの命令に従っていないことが明らかになりました。

最初の裁判所命令から1年が経過しようとしていたことから、2023年1月20日に裁判所は女性に対して「命令に従わなかった場合、電子的な自宅監視やピアース郡刑務所での勾留、その他裁判所が発する合法的な命令によるさらなる措置」が行われる可能性を提示しました。

結核を患いながら裁判所命令に違反して1年以上治療も隔離も拒否し続けた女性がついに拘束される可能性 - GIGAZINE



TPCHDの伝染病管理部門長のナイジェル・ターナー氏は「強制的な勾留は私たちが取る最後の選択肢で、軽々しく行うべきではありません。しかし、公衆に対するリスクがある場合、時にはその選択肢を取ることも必要になります」と述べていました。

しかし裁判所の命令から1カ月強経過した3月2日の時点でも、女性は依然として隔離・治療を受けることを拒否しており、裁判所のフィリップ・ソレンセン判事は地元の保安当局に対して「3月3日以降女性を勾留し、隔離や検査、治療を行うためにピアース郡刑務所に連行する権限を与える」という内容の民事逮捕状を発行しました。

なおも隔離の命令に違反し続ける女性は、2023年4月に地元のカジノに行くために市営バスに乗る姿が目撃されており、女性が住むタコマ郡の地元メディア「The News Tribune」の記者であるマット・ドリスコル氏は「我慢の限界です」と述べ、地元の法執行機関に対して女性の逮捕を求めています。



その後2023年6月1日に女性はピアース郡保安官によって逮捕されたことが発表されました。ピアース郡保安官のダレン・モス巡査部長は「女性は無事自宅で身柄を確保されました。女性を刑務所まで輸送する際には、運転席と後方キャビンの間で空気が分離された車両が用いられました」と報告しています。またターナー氏は「彼女はピアース郡刑務所内の隔離、検査、治療のための陰圧室に収容され、裁判官からの命令に従って結核の治療が行われる予定です」と述べています。