事実上の引退勧告、指名漏れにも負けず、BC群馬・奥村光一はNPBへ「ラスト1年、死にものぐるいでやってやる」
抽象的な表現になってしまうが、「気持ちが伝わる選手」は確実に存在する。その男の一挙手一投足からは「NPBに行きたい」という思いが滲み出ていた。
試合後にそんな感想を伝えると、本人からこんな反応が返ってきた。
「そうですか? 誰よりも気合は入っていたので、そう見えたならうれしいです」
奥村光一(こういち)。ルートインBCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスに所属する外野手である。
一昨年、ルートインBCリーグの首位打者に輝いた群馬ダイヤモンドペガサスの奥村光一
6月14日、千葉・鎌ケ谷スタジアムでBCリーグ選抜と日本ハム二軍の交流戦が組まれていた。奥村はBCリーグ選抜の4番打者として出場。1打席目に右中間を鋭いライナーで破る先制タイムリー三塁打を放つなど、3打数1安打1打点と結果を残した。凡退した打席も150キロ前後の速球に振り負けずにとらえており、内容は悪くなかった。
試合後、視察した日本ハムの大渕隆スカウト部長はこんな感想を漏らした。
「ボールを手元まで引きつけて強い打球が打てていますし、かなりバッティングがよかったですね」
俊足・強肩の右投右打の外野手となれば、必然的に評価は上がりそうなもの。それでも、奥村は今年12月で24歳を迎えるだけに、NPBを目指すには微妙な年齢に差しかかっている。
静岡県出身の奥村は、東海大静岡翔洋高時代から県内で知られた強打者だった。だが、名門の東海大では出場機会に恵まれず、3年時の進路面談で「就職したほうがいい」と事実上の引退勧告を受ける。
それでも野球をあきらめきれなかった奥村は、ツテをたどって2021年に群馬ダイヤモンドペガサスに入団。練習生からのスタートだったが、1年目に打率.372で首位打者を獲得。2年目の昨季も打率.339、4本塁打、31盗塁と結果を残した。
昨秋のドラフト前には、NPB2球団から調査書が届いた。しかし、同僚の西濱勇星(投手)がオリックスから育成1位指名を受けたのと対照的に、奥村は指名漏れに終わった。
「気持ちが落ち込んだ時期もありました」
奥村はそう振り返る。周りを見渡せば、学生時代の仲間たちはみなユニホームを脱いで、社会人として働いている。自分もNPBをあきらめ、働いたほうがいいのではないか。そう考えた時期もあったという。
だが、地元・静岡の友人たちはこぞって奥村を励ました。
「ユニホームを着られるのがうらやましいよ。プロに行ける可能性があるんだから」
大学時代の仲間や家族も応援してくれた。奥村は腹を決める。
「ラスト1年、死にものぐるいでやってやろう」
【10キロの減量でスピードアップ】まずとりかかったのは、肉体改造だ。93キロあった体重を減量することにした。そこには奥村のこんな狙いがあった。
「去年はパワーで見せようという思いが強くて、体重を増やしたんです。でも、実際にNPBとの交流戦を戦ってみて『パワーではもっと上がいる』と感じたんです。このままでは自分をほしがる球団はないと思ったので、体重を落としてスピードを求めることにしました」
10キロの減量に成功すると体のキレが増し、持ち前のスピードがさらに高まった。今季BCリーグでは31試合で17盗塁(盗塁刺1)をマークしている。
打撃の意識も「引っ張って長打を狙う」から、「広角に鋭いライナーを打つ」に変わった。日本ハム戦で放った三塁打は、まさに奥村が理想と思い描いていた打球だった。
いま、奥村は「NPBを目指す選手」から「NPBから求められる選手」へと変貌を遂げようとしている。
奥村は最後に、語気を強めてこう語った。
「友人、家族の応援や、村山(哲二/BCリーグ代表)さんらリーグを運営してくださるみなさんのおかげで、僕は夢を追えています。自分ひとりだけではここまでこられなかったので、みなさんのためにもなんとかしてラストチャンスをものにしたいんです」
力強い打球を弾き返す打撃、スピードアップした快足、外野からの強肩。武器はいくつもある。だが、人々の心を打つハングリーなプレー姿こそ、奥村光一という選手の最大のセールスポイントなのかもしれない。