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若者の政治参加を目指すNO YOUTH NO JAPANの代表を務める能條桃子さん(25歳)。立候補できる年齢(被選挙権年齢)が30歳である神奈川県知事選に、あえて立候補届を出して不受理になったことが話題になりました。

この取り組みは、満30歳もしくは満25歳である被選挙権年齢の引き下げを求めて裁判を起こすためのものでした。「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」で10〜20代の7人とともに近く提訴します。

これまで議員へのロビー活動など立法に向けて働きかけてきたことに加えて、能條さんが司法の場で戦う意味とは。(編集部インターン・片桐菜那)

●身近な悩みも政治とつながっている

ーーなぜ被選挙権年齢の引き下げを訴える運動をしているのでしょうか。

子供含め、若い人が政治的な問題を個人の問題として捉えてしまっている現状を変えたいし、変えるべきだと思っているからです。

例えば、気候変動問題を考える時、節電のために電気を消しましょうと言われます。本来はエネルギー問題として政治的な議論に結びつけることが必要なのに、身の回りで解決できることで話がおわってしまっています。

ーー若者にとって政治が遠くなっている。

政治をより身近にするため、できるだけ年齢が近くて若い候補者を世の中に出しやすい土壌を耕すことが大切だと感じています。

ーー行政を相手取って政策を問う「公共裁判」という手法をとったのはなぜですか?

国会議員や地方議員にも被選挙権年齢の引き下げを訴えてきましたが、声が届きにくかったです。

国会議員も地方議員も高齢男性が多いのです。2021(令和3)年7月1日現在の全国市議会議長会・全国町村議会議町会のデータによると、地方議員の56%が60代以上の男性なんです。20代・30代女性は1%未満です。若年層の議員が意思決定の場にいないというのは若者のための政治にはなっていかないですよね。

「若者のための政治がなされず、漠然とした不安が広がっている」と話しても「今の人たちは恵まれてるよ」と言われただけ。いくら言葉を尽くしても伝わらないというもどかしさがありました。

ただ、中高年を排除したいということではなく、議会に多様性がもたらされてほしいということです。

ーー公共裁判に期待することは何でしょうか。

司法の役割は、少数派の利益を代弁するもの。被選挙権年齢という問題があることが広く知れ渡るというのは大きな意味を持ちます。

正直、違憲判決の獲得は難しいと言われています。それでも、議論の整理につながると思います。国側から、現在の年齢でキープしたい合理的な理由や主張が出てくるでしょう。これから私たちの主張の道筋を立てる上で大きな一歩になると思います。

国に対して裁判を起こすことによる個人への影響もありました。こども家庭庁に設置された「こども家庭審議会」の委員に内定していたのですが、取り消しになったのです。市民として持っている権利を行使しただけなのに…との複雑な思いはあります。

ーーもし被選挙権年齢の引き下げがかなっても、立候補者が増えるとは限らないのでは?

若い年代の立候補者が増える「仕組み」を作ることが大切だと思っています。若い年代も議会に参加できる「権利」があることを伝えたいです。

「権利」がない時は、その必要性に気づかないけれども、当たり前になって初めて必要だったとわかることが多いと思うのです。

女性参政権がいい例です。導入される前は、女性の中にも政治家になりたいという人が多かったわけではない。でも今は権利として存在していて、市民も女性議員もそれを当然のように享受しています。だからこそ、若者の被選挙権もまずは仕組みを整えていくことに価値があると考えています。

●声を上げることのできる社会に

ーー他に仕組みとして足りないことはありますか。

有権者としての教育や施策が少ないことでしょうか。日本は労働者や消費者としての人材を立派に育てる傾向は強いですが、18歳までに民主主義の担い手や有権者として教育しようというビジョンは弱いと思います。

人権を大切にしようとか民主主義的な土壌を耕そうという意欲も薄いですね。

18歳までは選挙活動の禁止という罰則規定がありますが、18歳になったらいきなり選挙に行こうと言われ、党員としての門戸も開きます。急に言われても何をしたらいいのかわからない。子供の頃から政治に関わる機会を増やすべきです。私が留学していたデンマークでは10歳の子が政党に入ったりもしていました。

日常で感じる不満や不具合を身の回りに相談し、変えていける環境・仕組みを整えることも大切でしょう。

今は誰に相談すれば良いかわからない状況になってしまっています。例えば「学校の給食をより美味しいものに変えたい」と思っても「難しい、仕方ない」と個人的なわがままだったと考えてしまえば、思考も議論も止まってしまいます。

本来なら担任の先生に言ってみる、校長先生に言ってみる...もし変わらなかったら署名を集めて教育委員会に電話してみるなど政治的な問題として相談にのってくれる人や環境が近くにあったらいい。

ーー最後に、能條さんはどういう社会を目指しますか。

声を上げたらちゃんと変わると思える社会が健全だと思うんです。そのために、まずは仕組みづくりをする。昔の人たちは当時の社会より、より良い状態で社会を私たちの世代に引き渡してくれました。私もそれを受け継いで少しでも社会をマシな状態にして次世代に渡したいです。

【プロフィール】能條桃子(のうじょう・ももこ) 1998年生まれ。2019年、若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進するNO YOUTH NO JAPANを設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動(現在フォロワー約10万人)をはじめ、若者が声を届けその声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開中。2022年、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指し20代・30代の地方選挙への立候補を呼びかけ一緒に支援するムーブメントFIFTYS PROJECTを行う一般社団法人NewSceneを設立。慶應義塾大学院経済学研究科修士卒。TIME誌の次世代の100人 #TIME100NEXT 2022選出。

(編集後記) 今回取材を依頼したのは、私が引越しに伴い、4月の統一地方選挙に参加できなかったからです。当たり前にあると思っていた市民としての投票の権利がなくなった時、「私は社会の一員ではないのか」と疎外されているように感じました。特に、街頭演説を聞くと「どうせ投票できないしな」と寂しい気分になったことを覚えています。国を訴えるという難題に挑み、仲間との活動は楽しいから続けられると語ってくれた能條さん。数年後に社会人になる私も、自分が楽しいと思える仕事に就いて、社会に貢献していきたいです。(片桐)