ホンダのXL750トランザルプとスズキのVストローム800DE(写真:本田技研工業/スズキ)

近年、日本はもとより、世界中で人気の「アドベンチャーバイク」。その2023年新型として、ホンダが「XL750トランザルプ(XL750 TRANSALP)」、スズキが「Vストローム800DE(V-STROM 800DE)」を発表した。

オフロードバイク的なスタイルや高い悪路走破性と、高速道路など舗装路を走るロングツーリングでの快適性などを両立させたモデルがアドベンチャーバイク。1980年代や1990年代に人気だった往年の名車を復活させたXL750トランザルプ、豊富なラインナップを誇るスズキのVストローム・シリーズから新技術を投入した新エンジンを搭載するVストローム800DE。それぞれに個性や成り立ちこそ違えど、いずれも同ジャンルのミドルサイズクラスに属することや、価格帯も近いことなどから、まさに直接的なライバルだといえる。

そんなホンダとスズキの新型2モデルをバイクの一大展示会「第50回 東京モーターサイクルショー(2023年3月24〜26日・東京ビッグサイト)」でチェックしてきたので、実際に間近で見た印象から各モデルの特徴、それぞれの魅力などについて紹介しよう。

アドベンチャーバイクとは?

両モデルの詳細をお伝えする前に、まずは、アドベンチャーバイクとはどんなモデルなのかを簡単に紹介しよう。

主な特徴は、アップライトなバーハンドルなどによるリラックスできるポジションや、防風効果が高いウインドスクリーン、大容量の燃料タンクなどの装備により、オンロードの長距離走行に対応していること。また、ロングストロークタイプのサスペンションやブロックパターンの前後タイヤなどにより、オフロード走行でも高い安定性を持つ。いわば、オン/オフ両用のツーリング向けモデルだ。

1980年代頃から続くこうしたモデル群は、もともと、世界一過酷なモータースポーツ競技といわれる「パリ・ダカールラリー(現在のダカールラリー)」など、海外のラリーに参戦するレーシングマシンが源流。砂漠や泥濘地、山岳地帯など、あらゆる路面を1万km以上も長距離走行するために作られた競技用バイクの技術をフィードバックし、「どんな道も走破し、地球中を冒険(アドベンチャー)できる市販バイク」としてジャンルが確立。欧米など海外では、大陸横断などのバイク旅向けとして長年根強い支持を得ている。

また、日本では、1990年代などに大きな人気を得ていたが、ブーム終焉で一時期需要が衰退。同ジャンルに属するモデルは数少なくなっていたが、アウトドアブームの影響などもあるのか、ここ数年人気が復活し、各メーカーから、さまざまなモデルが販売されるようになってきた。

そんなアドベンチャーバイクの最新モデルがホンダのXL750トランザルプとスズキのVストローム800DEだ。

XL750トランザルプのプロフィール


東京モーターサイクルショーに展示されていたXL750トランザルプ(筆者撮影)


1987年モデルのトランザルプ600V(写真:本田技研工業)

まず、ホンダのXL750トランザルプは、前述のとおり、1980年代後半から1990年代に発売されていたモデルを復活させたことも話題だ。先代のトランザルプは、1987年に583cc・V型2気筒エンジン搭載の「トランザルプ600V」、1991年には398cc・V型2気筒エンジンを採用した「トランザルプ400V」などが国内発売されたほか、欧州など海外でも大きな支持を受けたモデルだ。


1991年モデルのトランザルプ400V(写真:本田技研工業)

当時、パリ・ダカールラリーに参戦していたホンダのワークスマシン「NXR750」の技術をフィードバックした市販バイクで、高いオフロード走破性と、高速巡航を快適にする大型のカウリングなどを装備することで、まさにアドベンチャーバイクの先駆け的なモデルだった。

Vストローム800DEのプロフィール


東京モーターサイクルショーに展示されていたVストローム800DE(筆者撮影)

一方のVストローム800DEは、1050ccや650cc、250ccなど、豊富なラインナップを誇るスズキのVストローム・シリーズに属するモデルだ。新型は1050ccと650ccの中間に位置するミドルクラスのモデルとなる。2002年に登場した輸出専用モデルの「Vストローム1000」を源流に持つが、当初はオンロード色が強いツアラーモデルだった。


2014年モデルのVストローム1000 ABS(写真:スズキ)

現在のようなアドベンチャーバイク的なスタイルとなったのは、2014年発売の1036cc・V型2気筒エンジンを搭載した「Vストローム1000 ABS」からとなる。現在、同シリーズのアイデンティティとなっている「クチバシ」のようなフロントフェイスを初採用したバイクで、アグレッシブなフォルムや軽量・コンパクトな車体、後輪のスリップを低減するトラクションコントロール・システムなど、扱いやすいアドベンチャーバイクとして人気を博す。


2023年モデルのVストローム1050DE(写真:スズキ)

その後、650cc版や250cc版も登場し、シリーズのラインナップを拡大。2023年モデルでは、800DEを追加したほか、フラッグシップのVストローム1050にも、より悪路での走破性を高めた「Vストローム1050DE」を新設定している。

2モデルの外観・車体サイズを比較


横から見たホンダのXL750トランザルプ(写真:本田技研工業)


横から見たスズキのVストローム800DE(写真:スズキ)

XL750トランザルプの外観は、歴代モデルのイメージを踏襲した比較的マイルドなデザインを採用する。全体的に丸味を帯びたフォルムで親しみやすさを演出しつつも、タフなイメージも加味。これは、このモデルが肩肘を張らず気軽に乗れるジャストサイズ・オールラウンダーとして開発されたことで、幅広いユーザーへの訴求を狙ったためだ。


Vストローム800DEのフロントフェイス(写真:スズキ)

対するVストローム800DEでは、シリーズ共通の「クチバシ」をイメージさせるアグレッシブなフロントフェイスを継承。よりシャープな新しいデザインの「クチバシ」は、高めの位置にレイアウトすることで、ロングストロークのサスペンションを強調し、オフロードでの高い走破性を想起させるスタイルとなっている。

あくまで私見だが、アドベンチャーバイクらしい、より冒険心をくすぐるスタイルを持つのは、Vストローム800DEのほうだろう。そのぶん、XL750トランザルプは、あまりハードなオフロード走行はしないようなユーザーにも、フレンドリーな印象を与えると思われる。そして、こうしたデザインに関する方向性の違いも、両モデルが打ち出しているキャラクターをよく現しているといえる。

ボディサイズは、XL750トランザルプが全長2325mm×全幅840mm×全高1450mmで、ホイールベース1560mm。一方のVストローム800DEは、全長2345mm×全幅975mm×全高1310mmで、ホイールベース1570mm。全長や全幅ではVストローム800DEがやや大きめで、全高はXL750トランザルプが若干高いが、両モデルのサイズ感はほぼ近いといえるだろう。


XL750トランザルプのリアビュー(写真:本田技研工業)


Vストローム800DEのリアビュー(写真:スズキ)

両モデルの車体には、ともにダイヤモンド形式のスチールフレームが採用される。サスペンションには、フロントに倒立タイプ、リアにモノショック(1本ショック)タイプのリンク式を装備することも同様だ。また、ホイールには、どちらもワイヤースポークタイプを採用するが、XL750トランザルプはフロント21インチ、リア18インチを装備。Vストローム800DEではフロント21インチ、リア17インチを設定する。いずれも後輪と比べ前輪をより大径サイズとすることで、ギャップなどがある悪路での走破性を高めている。

また、タイヤには、XL750トランザルプがメッツラー製KAROO STREET(展示車両の場合)、Vストローム800DEではダンロップ製TRAILMAX MIXTOURを採用。それぞれメーカーは違うが、いずれも高速道路などオンロードでの快適性と、オフロードでの安定性を両立しているタイプであることは同様だ。

ほかにも両モデルは、高速道路の走行などで風を受けにくいウインドスクリーンを装備するといった点も共通。ただし、XL750トランザルプは固定式なのに対し、Vストローム800DEは上下3段階の高さ調整も可能とし、より幅広い体格や好みのライダーに対応している。

2モデルのエンジンを比較する


XL750トランザルプのエンジン(写真:本田技研工業)


Vストローム800DEのエンジン(写真:スズキ)

両モデルのエンジンは、XL750トランザルプが754cc・水冷4ストローク・OHC直列2気筒、Vストローム800DEは775cc・水冷4ストローク・DOHC並列2気筒を搭載する。いずれも、2気筒エンジン特有の振動を低減するために、ピストンをまわすクランクに270度クランクを採用。2気筒エンジンらしい心地よい鼓動感を出しながらも、振動が少ないことによる快適性に貢献する。また、低回転域からの滑らかで扱いやすい出力特性はもちろん、高回転域までスムーズに吹け上がる加速感なども両立し、ワインディングなどでも爽快な走りを実現する。

加えて、Vストローム800DEの新開発エンジンは、量産2輪車初の「スズキクロスバランサー」を搭載することも注目だ。これは、2気筒相互のピストン往復運動により発生する振動を抑えるための1次バランサーを、クランク軸に対し90度に2軸配置した独自の機構だ。スズキが特許も取得する新型バランサーにより、振動を抑えながら回転をスムーズにするとともに、エンジン自体の軽量・小型化も実現。前後長が短いコンパクトな新エンジンが最適な車両の重量配分を可能とし、自在にマシンコントロールできる絶妙なライディングポジションなどに貢献するという。

なお、両モデルのエンジンスペックは、XL750トランザルプが最高出力67kW(91ps)/9500rpm、最大トルク75N・m(7.6kgf・m)/7250rpm。Vストローム800DEは最高出力60kW(82ps)/8500rpm、最大トルク76N・m(7.7kgf・m)/6800rpmだ。最高出力はXL750トランザルプのほうが高いが、最大トルクはほぼ同等。だが、Vストローム800DEは、最高出力、最大トルクともに、発生回転数がXL750トランザルプより低い。オフロード走行時など、低・中回転域を多用するようなシーンでは、よりコントローラブルな特性となっていることが予想できる。

また、燃費性能は、XL750トランザルプがWMTCモード値22.8km/L、Vストローム800DEがWMTCモード値22.6km/L。ほぼ同等だ。ただし、燃料タンク容量は、XL750トランザルプの16Lに対し、Vストローム800DEは20Lを確保する。1回の満タンで航続可能な距離は、Vストローム800DEのほうがやや長いことがうかがえる。

XL750トランザルプの電子制御システム

スロットルバイワイヤ(電子制御スロットル)システムなどを採用する両モデルは、ライダーをサポートする数々の電子制御システムを持つことも特徴だ。まず、XL750トランザルプでは、さまざまな走行シーンに応じてエンジン特性、フィーリングの変更が可能な5つのライディングモードを設定する。

「SPORT(スポーツ)」は、ワインディングでのスポーティーな走行をはじめ、2人乗りや荷物積載時などでも力強い加速特性を実現。「STANDARD(スタンダード)」は、市街地から郊外まで、幅広いシーンに対応するモード。「RAIN(レイン)」は、雨天時など滑りやすい路面向けの特性を発揮。「GRAVEL(グラベル)」は、フラットダートなど未舗装路(グラベル)での安定した走りを提供するモードだ。さらにユーザーが自分の好みに設定変更をできるモードとして「USER(ユーザー)」も用意する。

これらモードは、いずれもパワーフィール+エンジンブレーキ+ウイリーコントロールがセットになった「HSTC(Hondaセレクタブル・トルク・コントロール)」や、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の制御を連動させる仕組みだ。多様な制御の組み合わせにより、路面状況や好みに応じた最適な特性を実現するという。また、ユーザーモードでは、リアブレーキのABS機構をキャンセルすることも可能で、オフロード走行時などで前後ブレーキの使いわけが必要なシーンにも対応する。

Vストローム800DEの電子制御システム


Vストローム800DEのメーター(筆者撮影)

一方のVストローム800DEでは、最新の「S.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライドシステム)」を搭載する。路面の変化やライダーの好みに合わせ最適な設定を提供し、ライダーが求めるニーズに合わせたパフォーマンス特性を最適化するシステムだ。

さまざまな機能を持つS.I.R.S.だが、まず、エンジン制御マップの切り替えが可能な「SDMS(スズキ・ドライブモード・セレクター)」では、3つの走行モードを設定。スロットル開度小〜中で最も鋭いスロットルレスポンスを提供する「Aモード(アクティブ)」、市街地走行やツーリングなどに適用するようスロットルレスポンスがややマイルドになる「Bモード(ベーシック)」、ウエットな路面や滑りやすい路面などに対応する非常に滑らかな加速特性となる「Cモード(コンフォート)」を用意する。

また、リヤタイヤのホイールスピンを検出した際、速やかにエンジン出力をコントロールする「STCS(スズキ・トラクションコントロール・システム)」も装備する。路面状況やライダーの経験値などに合わせて選べる3つのモードのほかに、システムのオフ機能も採用。さらに、悪路走行時に対応する「G(グラベル)モード」も用意することで、幅広い走行シーンに対応している。

ほかにも、介入レベルを2つのモードから選択できる「2モードABS」には、リアブレーキ側のオフ機能も備えることで、XL750トランザルプと同様、オフロード走行時などに前後ブレーキの使いわけも可能だ。また、クラッチやスロットル操作なしでシフトチェンジのアップとダウンが可能な「双方向クイックシフトシステム」も採用し、長距離走行時におけるライダーの疲労軽減などに貢献する。

ライディングポジションや足着き性の違い


XL750トランザルプのシート(筆者撮影)

以上が両モデルの概要だが、今回のショーでは、停止状態ではあるものの、実際にどちらのモデルにも乗車することができたので、その印象もお伝えしよう。

まず、XL750トランザルプだが、意外にも足着き性はかなりいい。筆者の体格は、身長165cm、体重59kg。この手のアドベンチャーバイクでは、左足など片足を地面に着けた状態でもつま先立ちとなるモデルも多い。オフロード走行も考慮し、凹凸路などでの安定性を高めるためにサスペンションを硬めに引き締め、エンジンなど車体が路面にヒットしないよう最低地上高も高め(必然的にシート高も高め)なことが影響しているのだろう。とくにサスペンション設定が硬めだと、筆者の体重では座っただけでは車体の沈み量が少なく、高いシート高と相まって足が地面に着きづらい。

さらに中・大型のアドベンチャーバイクは、200kgを優に超える車両重量のモデルがほとんど。つま先立ちだと停車時に足を踏ん張りづらく、バイクをホールドするだけでも一苦労だ。だが、XL750トランザルプは、片足ならカカトまでべったりと付くことができたため、208kgの車両重量でも停車中にバイクを支えやすい。ストップ&ゴーが連続する街中の渋滞路などでも、立ちゴケなどの不安は少ないことが予想できる。ちなみに、XL750トランザルプの最低地上高は210mm、シート高は850mmだ。


Vストローム800DEのシート(筆者撮影)

一方のVストローム800DEでは、片足でもつま先立ちとなる。また、車両重量も230kgで、XL750トランザルプより22kgも重い。停車時に車体を支えづらいことで、渋滞路などで立ちゴケなどの不安はより大きい。さらに市街地の細い路地での低速ターンでバランスを取ったり、駐車場で車体を押し歩きしたりするような場面でも、より軽いXL750トランザルプのほうが取りまわしも良好だろう。なお、Vストローム800DEは最低地上高220mm、シート高855mm。XL750トランザルプより車高などはやや高めで、そのぶん、よりオフロード走行を重視した設定になっていることが予想できる。

ライディングポジションを比較


XL750トランザルプのバーハンドル(筆者撮影)

ステップに両足を載せたライディングポジションでは、両モデルともに、アップライトなバーハンドルなどにより、非常にリラックスして乗ることができる。これなら長距離を走るツーリングなどでも、疲労度は少ないだろう。


Vストローム800DEのタンク(筆者撮影)

とくにVストローム800DEは、タンク内側が絞り込まれていて、非常にニーグリップをしやすい。また、車両のセンターにどっかりと座れる感じだし、オフロード走行でスタンディングポジションを取るのも自然にできそうだ。こうした印象は、コンパクトな新設計エンジンと、それに合わせて設計されたナローなフレームの効果が出ているのだろう。足着き性の問題で、停車時や低速走行時には、筆者の体格では多少やりにくさもあることを想定できるが、いったん走り出してしまえば、かなり乗りやすいバイクであることが予想できる。

参考までに、両モデルのサスペンションは、フロントのストローク量(上下の移動量)で、XL750トランザルプが200mm、Vストローム800DEは220mmだ。また、リアサスペンションのホイールトラベル(サスペンションの動きによりリアホイールが上下する移動量)は、XL750トランザルプが190mm、Vストローム800DEは212mmだ。Vストローム800DEのほうが、前後サスともに移動量自体は多い。

それでも、前述のとおり、足着き性ではXL750トランザルプのほうがいいのは、Vストローム800DEのサスペンションはより硬めのセッティングを施してあることが予想できる。よりハードな悪路走行を想定し、サスペンションが大きな凹凸などを速い速度で通過しても、フルボトム(底着き)しないような設定となっていることがうかがえる。おそらく、Vストローム800DEは、オフロード走行などに慣れた、より上級者向けのバイクなのではないだろうか。座っただけでは、あまりサスペンションが沈み込まず、筆者の体格では足が着きにくかったこともそれを裏づける。

同じアドベンチャーバイクでも個性が異なる


XL750トランザルプのスタイリング(写真:本田技研工業)


Vストローム800DEのスタイリング(写真:スズキ)

両モデルは、スタイルや装備などにはよく似た面を持つ。だが、細かく実車を見てみると、じつはキャラクターには大きな違いがあるようだ。XL750トランザルプは、通勤・通学、買い物などの普段使いでも扱いやすく、休日のツーリングやキャンプなどでも、あくまでゆったりと、気軽に自然のなかを走ることに最適なバイク。また、すべてのシーンで、誰にでも乗りやすい懐の深さも備わっているといえる。


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一方のVストローム800DEは、オフロードも含めた広大な大自然を豪快に走破することで、非日常の冒険を存分に楽しみたいライダー向けのモデルだと思う。もちろん、ある程度のスキルは要求される場合もあるが、それを乗りこなしたときの充実感や達成感も格別。きっと、どんなにハードなバイク旅でも、ライダーと一緒に乗り越えてくれる頼れる相棒になりそうだ。

なお、両モデルの価格(税込)は、XL750トランザルプが126万5000円で、2023年5月25日に発売。Vストローム800DEは132万円で、2023年3月24日より発売中だ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)