画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。「ケチカロジー」という言葉を生み出し、発信してきた小笠原さんですが、ケチではありつつも、おしゃれで豊かな暮らしを楽しんでいます。今回は、お金をかけないおしゃれについて教えてくれました。

73歳のお金をかけないおしゃれのコツ

私は73歳。ひとり暮らしの年金生活者で、『おひとりさまのケチじょうず』(ビジネス社)などケチシリーズの著者でもあります。このタイトルどおり私はケチを自負するほど節約家であり、長年質素に生きてきました。シンプルさが望ましい生活スタイルでしたので、ほぼ満足しています。

「おひとりさま」は自分だけ我慢すればなんとかなることが多く、貧しさもそれほど苦痛ではありません。お金持ちだけが幸福の条件ではなさそうですので、貧乏を享受できるほどになれれば、清々しい人生だと思います。

●意識するのは「チープシック」

さて貧しさの敵はみじめさです。「私って哀れ」と少しでも感じれば「おひとりさま」はつらいものです。どうしたらみじめにならない? それは、周囲とは比べないことだと考えています。同じように生きたいと思わないことです。貧しさは悪いことでもないので、孤独でも自由を楽しんでみましょう。

もしや、「あの人はお金がない」と思われることを恐れていますか? それは衣食住生活の表面上のことが多いので、見た目の演出を試みてはいかがでしょう。

まず装いについてです。半世紀もまえの20歳の頃にチープシックという言葉を知った私は、それ以来、これが服装のテーマです。「上品な安物」ともいいましょうか。とりあえず装いは非流行、反流行から始めます。ブティックで、あこがれの人が着ていたすてきな服を見つけたら、足早にそこをスルーして『それ以上』の服を探すのです。流行りのデザインや、ブランドコーナーをサッサ通り抜けたら、自分だけが着こなせるの服を探してみましょう。感性も問われますが、自分が見えていないと探しにくいので、センス磨きと自己表現の実験現場かもしれません。

●一生着られそうな洋服とは?

具体的には安価で、次にありふれていないもの。できれば装飾過多でなく、落ち着いた色合いで、素材感が生きている服。でも私の場合、いちばん大事にしてきたのは、一生着られそうな服選びです。

そんな私は、晴れ着を持っていません。理由は、振袖や真っ白い襟巻は、生涯に二度着ることがあるとは思えなかったからです。ですから卒業式には旅行着のようなスーツを。20歳のお祝いにはコートを買ってもらいました。今も着ていますよ!

●着られない服はリメイクで楽しむ

それでも若気の至りでつ買ってしまったものの、さすがにもう着られそうもない服は、リメイクにチャレンジしてみました。決してすぐ処分することはしません。

派手目なジャケットは、袖を切り取ってベストにしたり、赤い絣の着物は、袖をバッグとギャザースカートにしたり、上下を断裁した着物はチャンチャンコとスカートにリノベーションしてみたり、不用の肩パッドはポシェットに作り替えて見たりしました。それでも大事なことは、ピンク色や花柄の可愛い服を、老いても、わくわくしながら着てみる精神的な若さかもしれません。

そういえば、少女時代白いフリフリのブラウスの上に重ねた手編みのベストは、この歳でも紺色などのセーターと合わせて着ています。私の場合、精神的な幼さかもしれませんがね。

それでもめげずに、大胆なインド刺繍のあるロングスカートは、ウエスト部分を拡げ脇の縫い目をほどいて、インテリアに用いています。インテリアといえば、着古しのフレアースカートは、ハンガーに掛けた洋服カバーに丁度よいですよ。

また、地味すぎて着なかったワンピースにも活用法があります。たとえば、帽子についていたコサージュを外して襟元に留め、平凡なベルトバックルを取ってつけてみたりすると蘇ることも。たとえ洋服を新調できなくても、こんなふうに今あるものを創意工夫をしながら着回しをしても、新鮮な装いを楽しめるかもしれません。