●番組観覧も視聴者も泣くという異例の状況

4月30日に放送された『まつもtoなかい』(フジテレビ系、毎週日曜21:00〜)で実現した中居正広と香取慎吾の6年ぶり共演への反響が今なお続いている。TVerの再生回数が増え続けているほか、3ショットを投稿した香取のツイートは約1,400万回表示され、約40万いいね、約9,000コメントを記録(5月2日15時現在)。

「バラエティの初回放送で番組観覧の人々が泣き、テレビを観ている視聴者も泣く」という状況は記憶にない。今回のマッチングがいかに特別なものだったのかは明白だが、番組そのものはどんなスタートを切ったのか。

あらためて、『まつもtoなかい』の初回がどんな内容で、今後にどんなものが期待できそうなのか。ひいては日曜ゴールデンタイムの番組全体の動向も含め、テレビ解説者の木村隆志が探っていく。

『まつもtoなかい』MCの松本人志(左)と中居正広 (C)フジテレビ

○■規格外の人を呼ぶ奇想天外な番組に

初回冒頭、松本人志が「本当のコンセプトは『僕と中居くんがいて、AとBのゲストがマッチングして4人でトークしましょう』じゃないですか。ところがこの番組1発目からコンセプトから少し外れまして、Aのゲストしか来られません」と切り出し、その意図を察した中居が「ちょっと重くないですか」と苦笑いで返した。

つまり、「本来、初回は番組コンセプトを知ってもらうために、通常通りの構成でやったほうがいいのだが、あえてイレギュラーな形で臨んだ」ことに触れたのだろう。いきなりコンセプトを崩してでも、注目度やインパクトを優先させたところに、この番組に懸ける2人とスタッフの意気込みが表れていた。

香取の登場直前、中居は「変なこと言わなければいいけどなあ」と再び苦笑い。MC自ら、緊張感がただよう予測不可能なマッチングを実践することで、今後のお手本にしようとしている感があった。

ネット上に大量のニュースが飛び交い、芸人も俳優もアーティストもアスリートもSNSで発信するなど、人物に関する情報は世にあふれている。しかし、この番組はこだわりのマッチングで、ネット上では決して見られないトークを生み出していくのだろう。実際、初回の放送でも中居と香取しか知らないエピソードが次々に明かされるなど、他とは違う“特別なトーク番組”という印象を与えられたのではないか。

レギュラー化の発表時、番組に出てほしい人物として、松本は甲本ヒロト、矢沢永吉、吉永小百合、鳥山明、中居は黒柳徹子、トランプ前大統領の名前を挙げていた。松本は「めったにテレビに出ないような人に、定期的に出ていただけたらありがたい」、中居は「規格外の人を呼べるような、奇想天外な番組でありたい」とも語っていたが、スタッフ任せにせず、時に自らキャスティングに絡むことで、番組のクオリティと話題性を意地でも保とうとしていくのかもしれない。

『まつもtoなかい』第2回のトークブロックでは、上沼恵美子×北川景子のマッチングトークが実現。幼い頃からテレビで上沼を見続けてきたという北川が、憧れの“生・上沼恵美子”とついに対面を果たす。ともに兵庫県出身の2人が「仕事」について、また「家庭」「夫婦」「子ども」について、とことん語り尽くす。(C)フジテレビ

5月7日放送の第2回のマッチングは、西のカリスマ・上沼恵美子と、彼女に憧れる兵庫県出身の北川景子。2人は初対面だけに、他番組やネット上では見られないトークとなるのは確定的で、これまでにない素顔を見せてくれるのではないか。

今後はいかに「初回放送に近い、マッチングの鮮度と驚き、トークの質と深さを感じさせる放送を続けていけるか」がポイントになりそうだ。

●全盛期の『HEY!HEY!HEY!』を彷ふつ

番組後半のパフォーマンスパートは、また別の驚きがあった。松本と中居がスタジオに登場したとたん、客席から悲鳴のような声があがり、涙をぬぐう人々が続出。一方、ネット上には視聴者からのコメントが次々に書き込まれ、Twitterのトレンドランキングを賑わせていた。

これは集まった観客に『まつもtoなかい』であることを伏せたサプライズだったこともあるが、根本にあるのは「いかに2人の共演を待ち望んでいた人が多かったか」。そして、「いかにテレビがその期待に応えてこなかったか」という罪深さを物語っている。

香取は「地上波民放で歌うのは7年ぶりくらい。フジテレビで歌うのも『SMAP×SMAP』以来」とコメントしていた。テレビ業界に限らずビジネスである以上、商慣習があり、個人レベルでは「やりたくてもできない」という苦い思いを味わったテレビマンもいただろう。しかし、ようやく実現した共演によって、「今こそ視聴者が本当に見たいと思うものを放送する」というシンプルな制作姿勢の大切さを再認識できたのではないか。

香取のパフォーマンス直後、松本が中居に「今の見てたら中居くんも触発されない?」と声をかけ、香取も「待ってる人も多いと思いますよ」と続けた。その瞬間ファンの頭には、「中居が久々に歌や踊りを披露するとしたら『まつもtoなかい』しかない。できればそのときSMAPのメンバーもいてほしい」という思いが広がったのではないか。

反響の大きさを見る限り、SMAPの出演に関しては今回限りと言わず、年に数回あっていいのかもしれない。また、中居と香取に限らず、この番組をきっかけに復活や新たなコラボなどを生み出すこともありそうだ。

プレゼンターの山崎弘也は番組後半のパフォーマンスパートについて、「話題のアーティストや注目のパフォーマーなど、今イケてる才能を松本・中居に紹介していくコーナー」と語っていた。第2回ではアーティスト・マカロニえんぴつの出演が予告されているが、番組が尻すぼみにならないためにも、今後は作り手側のセンスが問われるだろう。

いずれにしても、松本、中居、山崎という超一流のトーク巧者が盛り上げるステージは、全盛期の『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』を彷ふつとする華を感じさせられた。

第2回のエンターテイナーとして出演するマカロニえんぴつ。話題曲「リンジュー・ラヴ」を披露するほか、プレゼンター役のオズワルド・伊藤俊介が、彼らの音楽の魅力を松本&中居の2人に紹介しながら、皆でクロストークを展開する。(C)フジテレビ

○■日曜ゴールデンの勢力図を変えるか

最後に触れておきたいのは、日曜ゴールデンタイムへの影響。

初回放送で特筆すべきは、「記念すべき初回放送が21時からの1時間だった」こと。新番組の初回放送は2〜3時間の大型特番で華々しくスタートするケースが多いだけに意外だった。これは「『まつもtoなかい』は日曜21時台で勝負する番組であり、やみくもに特番化しない」という宣言なのか、それとも視聴率争い最激戦区の日曜19〜21時を避けたのか。本音は分からないし、取材したところで語られないだろう。

ただ、結果的に1時間だからこそインパクトがあり、間延びせず、視聴率もそれなりの数字が確保できたのではないか。その意味では19時スタートの3時間特番や20時スタートの2時間特番にしなかったのは英断だったように見える。

日曜21時台はテレビ朝日系が報道の『サンデーステーション』、TBS系がドラマの『日曜劇場』で、バラエティは日本テレビ系の『行列のできる相談所』とテレビ東京系の『家、ついて行ってイイですか?』の2つのみであり、最も手薄な曜日と言っていいだろう。特に『行列のできる相談所』は長年の放送で「マンネリ」「ネタ切れ」などの声があがる状態が続くなど、つけ入るチャンスがありそうだ。

さらに、21時台でフジ系の『まつもtoなかい』が日テレ系の『行列のできる相談所』に、反響の大きさはもちろん視聴率でも上回ることができれば、それを突破口に19時・20時台の番組にも好影響を与えていくかもしれない。今春に枠移動してリニューアルもした『千鳥のクセスゴ!』に、コア層(13〜49歳)の受けがいい『千鳥の鬼レンチャン』も含め、フジ系の日曜ゴールデンタイムが他局にどんな影響を与えるのか興味深い。

このところ日曜ゴールデンタイムの番組に大きな動きはなかったが、今春から何かが変わり始めるかもしれない。そんな予感のただよう初回放送だった。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら