あらゆるモノの「値上げ」が家庭や企業を直撃している。マンションの管理費や修繕積立金も例外ではない(写真:CORA/PIXTA)

総務省が発表した2023年(令和5年)3月の消費者物価指数によると、天候などの自然の影響を受けやすい生鮮食品をのぞいたコアCPIは104.1で、前年同月と比べると3.1%上昇した。

原材料の高騰や急激な円安、また長引くロシアのウクライナ侵攻などが要因となり、「値上げラッシュ」「物価高」が家庭や企業を直撃している。もはや、あらゆるモノの「値上げ」が当たり前の時代に突入してしまったともいえるだろう。

管理費・管理委託費の値上げが決定したマンションも

もちろん、マンションの管理費や修繕積立金も例外ではない。マンション管理組合の会計が逼迫していることについては昨年来からお伝えしている通りだ。実際、管理組合に対し、管理会社から管理費の値上げの要請が行われるケースも増えている。交渉の結果、すでに管理費・管理委託費の値上げが決定したマンションも少なくないという。

マンションの管理組合の収支に影響する大きな「値上げ」の筆頭となるのは、やはり電気料金だろう。コロナ禍からの回復によるエネルギー需要の高まり、混乱するウクライナ情勢の影響による化石燃料価格の高騰で電気料金は大幅に値上がりした。マンションの場合、共用部の照明や設備にも電気を使うため、電気料金アップは収支に大きく関わってくるのだ。

また共用部分の補償をカバーするマンション総合保険(火災保険)や地震保険なども軒並み値上げしている。さらには警備員や清掃員など、マンションに関わるすべての人件費も大幅に上昇している状態だ。管理費・管理委託費の値上げはまさに「待ったなし」の状況を迎えつつある。

マンションの管理組合の収支に最も大きな影響を与えているともいえる電気料金。高騰が続いて久しいが、実際のところどの程度値上がりしているのだろうか。

そもそも電気料金は、電気を使用した量のほか、燃料調整額によっても大きく変わってくる。燃料調整額とは、火力発電に用いる燃料である原油・LNG・石炭、おのおのの価格変動に応じて算出され、毎月変動するものだ。

毎月の電気料金(基本料金 + 電力量料金 + 再生可能エネルギー発電促進賦課金)のうちの電力量料金に含まれる。燃料価格の変動により、燃料調整額が加えられたり、差し引かれたりして調整されるしくみだ。

国際的なエネルギー需要の拡大やロシアによるウクライナ侵攻の影響、また急速な円安などによって燃料価格は高騰するばかりだ。それが燃料調整額にも反映され、電気料金も高騰の一途をたどっているのである。

東京電力の電気料金を例に挙げて見ていこう。昨年2022年(令和4年)1月の低圧供給、つまり一般家庭の燃料調整費単価(税込)は▲0.53円/kWhだった。燃料調整額が1kWh当たり53銭差し引きされたということを意味する。ちょうどロシアのウクライナへの侵攻がはじまる前のタイミングだ。

予算の確保が必要

ところが今年2023年の1月には、燃料調整費単価は12.99円/kWhへと大幅に上昇している。燃料調整費が10円上がることで、大規模マンション、特にタワーマンションなどでは1日当たりの電気料金が数万円レベルで違ってくるという試算も出ているほどである。

エネルギー価格高騰に終わりが見えない中、国は電気・ガス料金負担の激変緩和措置の実施を決定した。激変緩和措置とは、月々の請求金額から使用量に応じた値引きを行うもので、2023年2月分(1月使用分)より開始した。

これにより2023年4月の低圧供給の燃料調整費単価(税込)の10.25円/kWhが、緩和後に3.25円/kWhまで下がった。しかしながら、大手電力会社はすでに電力料金の値上げを国に申請しており、今後、どこかのタイミングで値上げする可能性は高い。

そのため、管理組合総会での予算案をどうするか考える必要がある。前年度ベースでの予算確保にとどまれば、不足することは疑いようのない事実だろう。

電気料金の高騰を視野に入れず、前年のままで予算を組めば会計は赤字となってしまう可能性が高い。もちろん、赤字発生は避けたいところだが、赤字決算に関する既定は管理規約に記載されていない。つまり、赤字決算でも管理規約には抵触するわけではないのだ。

標準管理規約 第61条2に以下のように記されている。

管理費等に不足を生じた場合には、管理規約に定める負担割合によりその都度必要な負担を求めることができる

つまり、予算が不足した場合、マンションの区分所有者が負担割合に応じて負担しなければならない、というわけだ。

管理組合によっては、不足分を予備費で補うケースもある。しかしながら、そもそも予備費という費目を予算に含んでいない場合も少なくない。いずれにせよ、最初から「不足する」ことがわかっているのに、前年度ベースで考えるのには無理がある。

では、電気料金の高騰に備えた予算案はどのように考えておくべきだろうか。

共用部分にも目を向けることが必要

国際情勢の変化が大きい昨今、的確な判断は難しい。しかしながら、ある程度のアップを予測し、その分予算を確保しておくことが重要になってくる。

特に建物の内部に廊下がある内廊下を採用するタワーマンションなどは、照明など共用部の電気料金が大幅に上昇することを見込んでおく必要がある。予算を厚くするのはもちろん、その他の値上がりに備えて予備費も準備しておきたい。

電気料金など「値上がり」に応じた予算決めは大切だ。しかし予算を決めるだけにとどまらず、管理組合の財務体質改善に向けて踏み込んだ対策を練っておくことも必要だ。

例えばマンションの組合員・居住者の中で、共有部分のコストを意識している人はどのくらいいるだろうか。専有部分に関しては細かくチェックしていても、共用部分については知らないという場合も少なくないはずだ。共用部分にかかる月額の電気料金をマンション全体で共有し、それぞれがまずは必要なコストを認識することをおすすめする。

共有部に関するコスト意識が高まれば、照明器具の間引きなどを含め、節電の余地があるものをピックアップしていくことも可能になる。また現行電力会社の料金プランの見直しに取り組むのも有効な方法だ。自身のマンションにマッチした契約となっているのか、基本に立ち返って再考してもいいのではないだろうか。

この機会にマンション管理の将来に目を向けることも重要だ。現行徴収されている管理費・修繕積立金で今後も運営可能なのか。今後も健全な組合運営ができるのかということを、真摯にかつ冷静に見直してみる必要がある。先述の通り、赤字決算でも管理規約に抵触するわけではない。

ただし、赤字が明確に見通せるのに、そのままにしておくわけにはいかない。物価高騰は負の側面が強調されるが、ある意味で収支見直しのチャンスでもある。資産であるマンションを健全に運営していくためには、マンションの組合員・居住者皆での問題共有、検討が大きな意味を持ってくる。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))