よく、中学レベルの英語ができればビジネスの英語は足りるということを聞きませんか? これに関して解説していきましょう。



○1.初級者ははじめにおさらい

初級者は、英語を学ぶ早い段階で大人向けの中学英語をおさらいしてほしいと思います。中学3年間で習った学習内容は、英語力の土台になるからです。ここで指す初級者のレベルは、国際的な語学力基準CEFR preA1〜A2、英検に換算すると3級〜準2級を目安としています。

ただし、ビジネスで英語を使えるようになりたい人は、知識として「わかる」のでなくて、実際に使うことが「できる」のをゴールにしましょう。

大人になってからの学習はアンドラゴジーと呼ばれ、何かの役に立てるため主体的に取り組むのが特徴です。学校の教科書とは違い、大人向けの書籍やアプリの多くはこの特徴が配慮されています。初級者は、ぜひこうした教材でのおさらいを学習計画に組み入れてください。まずは1〜2週間集中し、忘れていたところを思い出し、その後も折を見て参照するとよいと思います。

○2.言語の構造を理解する

もっとも基本的かつ大事なことは英語の言語の構造です。

・4つの品詞:名詞、動詞、形容詞、副詞

・5つの文型:S(主語)、V(動詞)、O(目的語)、C(補語)の組合せ

・文の種類:肯定文・否定文、通常文・疑問文・命令文・感嘆文

・時制:現在、過去、現在完了、過去完了など

・疑問詞、助動詞

「あれ、だいぶ英語から離れていたから忘れちゃったな?」と思う人はぜひおさらいしてみてください。仕事で使えるようになるまでの英語学習の過程で、これは4技能(話す、聞く、読む、書く)すべての土台になるからです。

一方「なーんだ、そんなことならもう知っているよ」という人も多いでしょう。

ところが、知識としてわかっていることと、実際にできることには大きなギャップがあります。できるというのは、自然なコミュニケーションとして使えるというレベルです。話すときに「これは疑問詞と過去完了を使った文章だ不定詞の形容詞的用法だ」などと意識しているわけではありませんよね。ちょっと矛盾しているようにも聞こえますが、頭にしっかり入っているけれど、意識しないで使えている、こんなイメージですね。

とはいえ、初級者の人は、いきなり難しい文型に挑戦するのではなく、シンプルな文が言えるようになることから始めるのがよいと思います。そのプロセスをさらに詳しく見ていきましょう。

何か伝えたいことがあると、頭のなかでイメージ画像がモヤモヤした状態があります。言いたいことを表現するなら、例えば、日本語の回路なら(主語:省略することが多い)+目的語+動詞の順番で組み立てるところを、英語の回路なら主語+動詞+目的語(S+V+O)の順番で組み立てます。

職場でよくあるシーンを例にしてみましょう。

日本語で「朝、チームで打ち合わせをしました」ということを英語で伝えたい場合、どう言えばよいでしょうか?



このように、まず日本語の文章を頭に浮かべ、単語を英語に直してから、英語の文章にするまでのプロセスでは、実にいろいろなことをぐるぐる頭の中で考えなければいけません。この手間がかかるため、すぐに英語が言葉としてでてこないのです。よく、日本人が英語で何かを話そうとして目が上をむいて口ごもることがありますが、これは頭の中でこのぐるぐる作業を行っている状態なのです。

英語はそもそも文章構造がちがうので、モヤモヤ状態のシーンから直接英語で組み立てる回路ができると、もっと早く英語の文章が話せるようになります。つまり、こんな感じです。

モヤモヤ状態→日本語→ぐるぐる作業→英語

でなく

モヤモヤ状態→英語

「できる」というのは、モヤモヤ状態から直接英語に変換する回路ができている状態のことをいいます。よく英語で考えられるようになれと言いますが、上記はもっと手前でできます。この記事を読んでいる皆さんの多くは、Thank you.は日本語を考えなくても自然に口に出てくると思います。「お越しいただきありがとうございます」なら、Thank you for coming.といいますね。この言葉も日本語に変換しなくてもパッと思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか?この回路で、話せる英語のストックを増やしていくことを通して、スピーキングでも「できる」ことが増え、自信がついていくわけです。

「わかっている」ことと「できる」ことの違いとは、まさにこの積み重ねの違いだと思います。

○3.中学校では1,200語の単語に出会っている

初級者の人にとって中学英語ができるようになるというのは、語彙にもあてはまります。今、社会人になっている人が中学生のときに習った英単語は、大体1200語と言われています。中学で英語を学んだ人はすでにある程度は理解できるはずです。まずは、これを自分の表現として使えるようになりましょう。前のパートで述べたように、単語は単独で日本語の意味と対比して一語一語覚えるのではなく、場面におけるやりとりで出てきた文章をまるごと覚えていくといいでしょう。ビジネスシーンや大人の日常生活で必要な語彙も追加で必要になりますが、同じ方法でだんだんと増やすのがよいと思います。

話すときに使える語彙数と、意味が理解できる語彙数にはギャップがあり、当然後者のほうが多いです。ただし、理解できない語彙は使えるはずがありません。その意味で、読む・聞くことにより理解できる語彙数を増やしていく努力は必要となります。

仕事で使える語彙を最短距離で身につけたいという場合、やはり仕事でよく出てくるシーンで使われる標準的なやりとりを教材に使ったものをおすすめします。英語力が相当高い人でも、慣れない場でなじみのないテーマについてディスカッションするのは、苦痛です。その場の状況、単語の用法や文脈がわかりにくいからです。語学力の定義においても、”なじみがある分野かどうか”というのは、実力発揮に影響を及ぼすとされています。以上から、初級者の学習で、仕事にあまり関係ないシーンでの語彙や表現は無駄にこそなりませんが、最短距離でないと言えるわけです。

○4.文法ミスより、量

三単現のSや、take, took, takenなど不規則動詞の変化、冠詞はaかtheかなど、細かい文法事項がたくさんありますね。でも、正しい文法はわかっているけど、とっさに間違えてしまうのは初級者でなくてもよくあることなのです。

英語を流暢に使いこなすアジアの人でも、間違えることはよくあります。母語の影響で過去形がうまく使えず、全部現在形で言う人とか、否定疑問文への同意がNoではなくてYesで返ってくる人などざらにいます。そんなときは前後の文脈や、別の言い方で確認すれば済む話ですね。

だから間違ってへこむのでなく、間違っちゃったかなと認識できるくらいで、いいと思います。量をこなすにつれて、自然にできるようになると考えたほうが、英語学習が前に進みます。

また仕事で英語を使うには、楽観的、前向き、明るい雰囲気で会話が弾むことが一番だと思います。会話が弾む表現として、Good, Great, Excellent, Amazingなどシンプルだけど効果的な表現が自然にでてくるようにしましょう。不思議と、言っている本人も前向きになるものです。特にビジネスでは学生時代に学ぶ機会が少なかったスピーキング力がより重要になります。学生時代に培った英語力の基礎を活かし、これからは「使える」英語を習得しましょう。

(参照元)

https://www.coe.int/en/web/common-european-framework-reference-languages/level-descriptions

酒井邦嘉「勉強しないで身につく英語」PHP研究所 2022

酒井邦嘉「チョムスキーと言語脳科学」集英社 2019

安藤益代 あんどうますよ 株式会社プロゴス取締役会長。野村総合研究所、ドイツ系製薬会社を経て渡米。7年半の大学院/企業勤務経験を経て帰国。シカゴ大学修士。ニューヨーク大学MBA。英語教育・グローバル人材育成分野にて25年の経験を有する。国際ビジネスコミュニケーション協会で、TOEIC®プログラムの企業・大学への普及ならびにグローバル人材育成の促進などに本部長として携わる。EdTech企業執行役員を経て2020年よりレアジョブグループに参画。国内外のEdTechコンテストの審査員も歴任。講演、インタビュー、執筆多数。2022年4月より現職。 この著者の記事一覧はこちら