カメラによる動画解析やセンサーを用いた3次元画像処理など、コンピューターにデジタルな画像や動画を理解させてさまざまな処理を行わせる研究分野を「コンピュータービジョン」といいます。このコンピュータービジョンを取り入れたシステムを開発する企業・Voxel51が、コンピュータービジョンが製造業で応用されるケースについて語っています。

How Computer Vision Is Changing Manufacturing in 2023 - Voxel51

https://voxel51.com/blog/how-computer-vision-is-changing-manufacturing-in-2023/

産業用ロボットでコンピュータービジョンが応用される作業の1つが、ビン(部品置き場)からオブジェクトを選択して持ち上げて別の場所に配置する「ビンピッキング」です。ビンピッキングを行うためにはカメラ画像をオブジェクト検出ルーチンに渡す必要があります。一部のコンピュータービジョンシステムはLiDARセンサーからの点群を使用し、オブジェクトがどの向きでどこに置かれているのかを3次元的に取得することができるとのこと。



さらに産業用ロボットの作業でコンピュータービジョンを必要とするのが、荷物をパレットに積み上げる「パレタイジング」と、パレットに積み上げられた荷物を下ろす「デパレタイジング」です。パレットとは荷物を載せる木製あるいは金属製の平らな土台で、現代物流には欠かせない存在です。パレットの最大積載量は通常1トンで、フォークリフトなどの重機を使わないと動かすことができません。しかし、産業用ロボットの登場によってパレタイジングとデパレタイジングは自動化されつつあります。

パレタイジングとデパレタイジングを行うためにはオブジェクト検出はもちろん、ロボットアームを正しい位置に動かすためのキャリブレーションも重要。ロボットアームが物を載せたり降ろしたりする際に、物体の位置を推定した場所と実際の位置のズレをフィードバックして、将来の予測を精緻化します。



そして、溶接・研削・フライス加工などを行うために部品をベルトコンベアや機械に載せる「マシンテンディング」もコンピュータービジョンによって産業用ロボットの作業となりつつあります。マシンテンディングの自動化には、従業員がケガをするリスクの軽減や一貫性の向上など、複数の利点があります。さらに、従来より高い精度で機械の手入れを行うことも可能になりました。リアルタイムでモニタリングを行うことで、機械と投入するオブジェクトの位置関係を正確に把握し、ロボットアームがそれに応じて動きを調整します。

マシンテンディングにおけるデータの利用可能性と品質は重要な課題となっています。マシンテンディング用のコンピュータービジョンシステムは、限定的なラベル付きデータセットで学習する必要があることが多いそうです。つまり、学習に用いるデータセットのクリーニングとキュレーションが不可欠であり、データ補強や転送学習が非常に重要となります。



さらに、「エラー品検出」もコンピュータービジョンが機能する領域。製造された部品が目的サイズの許容範囲内に収まっているかどうかの確認や、部品に小さなひっかき傷や欠落などがないかどうかのチェックは、これまで人の目と手によって行われてきましたが、DBSCANなどの密度ベースモデルや深層学習モデルを利用したアルゴリズムによって製品の異常を検知することで、製造ラインのできるだけ早い段階でエラー品を特定できるようになりました。



製造ラインの監視だけではなく、製造工場のツールや機械の監視を行う「予知保全」もコンピュータービジョンによって解決されつつあります。ツールや機械は使っていくにつれて徐々に摩耗や損傷が起こり、メンテナンスを怠ると完全な故障につながってしまい、従業員のケガや生産性の低下を招く可能性があります。これまでは各メーカーが機器の状態を定期的にチェックしてメンテナンスすることで解決してきました。しかし、コンピュータービジョンとアルゴリズムによってツールや機械の故障を察知する予知保全によって、メンテナンスコストを節約しながら事故を回避することができるようになりました。例えば機械に使われているノコギリの刃が摩耗していないかを定期的にカメラで撮影して解析することで、刃がどれだけ摩耗しているか、いつ交換するべきなのかが予測できるというわけです。



Voxel51は、製造業は第4次産業革命とも呼べる大規模な変革を迎えている時期だと指摘し、人工知能やコンピュータービジョン、ロボット工学、産業用モノのインターネット(IIoT)が製造業を最先端のものにしていると主張しています。アメリカでは2030年までに製造業で200万人以上も労働者数が不足するとされていますが、コンピュータービジョンとロボット工学はこの問題を解決できるとVoxel15は期待しています。

また、Voxel51は「製造業はその性質上、ネジや靴や車など、私たちが出会うほとんどすべての製品を扱っています。しかし、製品ごとに要件や課題は異なり、カメラやセンサーの組み合わせも工場ごとに異なるため、万能な解決策はありません」と語り、コンピュータービジョンの多様性によって産業のさらなる自動化が可能となり、製造業における安全性も向上すると述べました。