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2023年3月10日(金)に、アメリカに拠点を置く「シリコンバレー銀行」が経営破綻しました。しかし、「重大そうなニュースだけど、シリコンバレー銀行って聞いたことないな」という人も多いはず。そこで、シリコンバレー銀行の概要や、破綻に至った経緯をまとめてみました。

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◆シリコンバレー銀行とはどんな銀行なのか?

シリコンバレー銀行は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに拠点を置く銀行です。このサンタクララは、AppleやGoogleなどの超有名テクノロジー企業の本拠地が集合している経済地帯「シリコンバレー」の中枢に位置付けられる地域で、サンタクララに拠点を置くシリコンバレー銀行は多くのテクノロジー企業を顧客に抱えていました。また、シリコンバレー銀行はスタートアップへの投資も積極的に行っており、シリコンバレーで企業を目指す人々の多くが同行と取引していました。

シリコンバレー銀行との取引を経験した川口耕介さんのブログ記事によると、シリコンバレーでは「機関投資家が資金を投入し、新たな会社が作られる」という過程が工場の作業レーンのように一定の形式に沿って行われているとのこと。この「作業レーン」の中に「シリコンバレー銀行との契約」が組み込まれており、「シリコンバレーのスタートアップのほとんどはシリコンバレー銀行と取引している」という状況が生まれていました。

なぜSVBはテック・スタートアップをほとんど独占しているのか。

シリコンバレーには、工場のようにスタートアップを製造する仕組みがあるのである。大体、まっとうな機関投資家がお金を入れた時点で、新しい会社が作られる。機関投資家は地元の法律事務所ともSVBとも繋がっているので、彼らの流れ作業で必要な書類などが作られる。渦中の当人たちにしてみると、人間ドックに行くとか運転免許の更新に行った時のような気持ちになる。はい、これをやって。そしたらあっち。ここに署名。次にこの人と話して。初体験なのは自分ばかり。大学生の間に迷い込んだ幼稚園児のような気分になる。

投資家とSVBの間には、間違いなく何かの契約が存在していて、自分のところで作る会社はSVBに持っていくという約束になっているはずだ。こちらとしても、周りの創業者は全部SVBだし、あえてベルトコンベアを外れる理由がないから、言われるままである。スタートアップ向けの融資プログラムも充実している。このようにして、SVBがテックスタートアップを独占する仕組みが盤石のものになる。法人向け銀行口座はじゃんじゃん手数料を取られていくから、結構馬鹿にならない儲けになっているはずだ。

もっとも、今回はテック産業の景気の急減速を受けて、その独占が仇になった形だ


◆経営破綻までの流れ

上記のように、シリコンバレー銀行はシリコンバレー地域で独占的な状況を作っており、経営は盤石なように見えていました。しかし、シリコンバレー銀行が2023年3月8日(水)に発表した2023年第1四半期決算の中で、同行のグレッグ・ベッカーCEOは「実質的にすべての証券を売却する」ことと、「22億5000万ドル(約3000億円)の資金を募る」ことを(PDFファイル)発表。同時に、投資ファンド「ジェネラル・アトランティック」から5億ドル(672億円)の資金提供契約を受ける契約を取り交わしたことも発表しました。



上記の発表の後、投資家の間では「シリコンバレー銀行の経営が危ういのではないか」という不信感が広がり、同行の株式を売却する動きが拡大しました。その結果、シリコンバレー銀行の株価は60%以上急落。さらに、多くの顧客が預金の引き出しを始め、銀行の資金が底をつき、2023年3月10日(金)に経営破綻へと至りました。



前述の川口耕介さんのブログ記事によると、2023年3月9日(木)14時に投資家から「シリコンバレー銀行の経営が危ういため、資金を移した方がいい」という連絡を受けたとのこと。さらに、同日17時には別の投資家から「シリコンバレー銀行の状況を注視している」という緊迫したメールが届いたそうです。

第一報が来たのは木曜日の午後2時である。うちの筆頭投資家の一人から、SVBがやばいらしいから六ヶ月分の運転資金はどこかに動かしたほうがいいかも、という短いメールが来た。ニュースを見てみると、株式市場が閉まった後でSVBが売られまくって大変な事になっていた。幸い、うちは半年くらい前に別な銀行に乗り換えたので、特に影響はない。そのようにメールを返した。それに、この時はそこまでは心配していなかった。仮に、SVBにキャッシュが全部あったとしても、この時既にこの日の振込処理期限時刻を過ぎていたので、お金を動かすことは出来なかっただろう。五時過ぎに、別の投資家から傘下の企業宛に一斉メールで、SVBの状況を注視しているというメールが来た


◆なぜ経営破綻に至ったのか?

巨大オンライン掲示板「Reddit」の成長・収益化部門を主導するジェイミー・クィント氏によると、シリコンバレー銀行の2019年末時点での預金額は617億6000万ドル(約8兆3000億円)だったものの、2021年には3倍以上の1892億ドル(25兆5000億円)にまで跳ね上がったとのこと。多くの資金を得たシリコンバレー銀行はを800億ドル以上(1兆円以上)に及ぶ不動産担保証券(MBS)を買い込みました。





シリコンバレー銀行が購入したMBSの平均利回りは1.56%で、順調に価格が推移すれば今後も資金が増え続けると予想されていました。しかし、2022年に連邦準備理事会(FRB)が利上げを実施したことで投資家の注目が債券に移り、MBSの価値は急落。このMBSの暴落がシリコンバレー銀行の経営状況悪化に大く影響した可能性が指摘されています。