1月23日、衆院本会議で施政方針演説を終えまぶたを閉じる岸田文雄首相(写真:朝日新聞)

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通常国会が開会し、岸田文雄首相(65)は1月23日に施政方針演説を行った。“異次元の子育て政策”や防衛力強化などを力強く打ち出した内容だったが、宮内庁関係者は冷ややかな視線を注いでいた。

「今年も岸田総理は、施政方針演説で皇室が直面する課題についてまったく言及しませんでした。2021年12月に、安定的な皇位継承を巡る政府の有識者会議による報告書がまとめられ、国会で議論することが決まりましたが、1年以上たっても何一つ議論が進まず、完全に放置されているのです」

将来皇族数が減っていくことで、危機に瀕していく皇統の維持。この問題に有識者会議は、「女性皇族が結婚後も皇室に残る」「旧皇族の男系男子を養子にする」という解決策を報告書で示している。与野党にそれぞれ委員会などが立ち上がり、政治家たちが国会で議論することになったがーー。

「自民党内では麻生太郎副総裁を座長とした『皇室問題等についての懇談会』が発足し、2022年1月に初会合が開かれています。その後、安倍元首相の銃撃事件や旧統一教会問題の浮上によって、岸田政権の支持率は下落。初会合から1年以上、懇談会は開かれていません」(政治部記者)

自民党のこの体たらくに、野党も批判を強めている。2月10日には、立憲民主党の馬淵澄夫衆院議員が、衆院内閣委員会で松野博一官房長官に対して、安定的な皇位継承策の議論の進展について追及した。神道学者で皇室研究者の高森明勅さんは、こう解説する。

「10日の松野官房長官の答弁ではっきりしたのは、有識者会議による提案を閣議決定することもなく、国会に丸投げする岸田政権の無責任ぶりです。

たとえば、有識者会議の報告書には『旧11宮家の皇族男子の子孫である男系男子の方々に養子に入っていただくこと』が提言されていますが、これは国民が対象なので憲法14条が禁止した“門地(家柄)による差別”に抵触するという指摘もあります。

こうした大きな問題をはらんでいるにもかかわらず、国会にその議論を丸投げしてしまう岸田政権には、まったくやる気が見られません」

■“口だけ”の姿勢に自民党内からも批判が…

女性・女系天皇の是非、女性宮家の創設などについての結論は先送りされており、次世代の皇室を担われる愛子さまや悠仁さまたちのご将来は、定まらないままだ。昨春に岸田首相は、「皇室典範の改正は私の代でしっかりやりたい」と周囲に語っていたというが、いまは向き合おうという姿勢すら見せないのだ。

静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんはこう警鐘を鳴らす。

「愛子さまをはじめとした女性の皇族方が独身のうちに議論を進めなければ、憲法や皇室典範などと整合性がとれる解決の選択肢がどんどん限られてしまいます。

現状では、悠仁さまお一人のご成長とご結婚、将来お妃となられる方のご出産に皇室の存続の可能性が絞られています。悠仁さまが将来抱えられるご心労はいかばかりか……。最終的に皇位継承者がいなくなるという危険性も高まってしまいかねないのです」

なぜ岸田首相は議論を進めないのか。自民党関係者も落胆した様子でこう明かす。

「岸田総理は皇室典範の改正や皇統の諸問題について取り組む意欲を話しているそうですが、『結局あれは口だけだ』と囁く声が党内からも上がっています。皇室の課題を“静かな環境で進める”として、政治的に安定した状況下でなければ進められないと打ち出す一方で、岸田政権の支持率は上がったり下がったりを繰り返し、一向に安定しません。

しかもそれを理由に“いまは議論を進める時ではない”と開き直る空気が政権幹部の間に流れてしまっているのです。さらに“女性・女系天皇容認派”と“男系男子派”議員の対立が激化して党内が分裂する懸念を、岸田総理が不安視している部分も否定できませんね」

前出の宮内庁関係者は、「岸田総理にとっては優先度が低く、先送りしてもかまわない問題なのでしょう」と嘆きつつ、こう語った。

「両陛下はじめ皇族方は、政治的な発言をなされることはありませんが、自分たちの将来について常に気にかけておられます。

ある女性皇族が、『私たちの将来の方向性について、早く決めてほしい』と率直なお気持ちを述べられていたと聞いています。もはや両陛下も政治家たちに頼るばかりではいけないと考えられているのでしょう。“自ら国民に皇室の存在意義を示していかなければ”と切迫した思いを抱かれていらっしゃるのです」

天皇陛下と雅子さまは悲痛なお気持ちを抱かれながらも、国民に訴えかけようとしているーー。

1月25日、両陛下は福島県三島町の特別養護老人ホームの入所者らとオンラインで懇談された。

「コロナ禍となってから定着した“オンライン行幸啓”が行われる御所の大広間には、『お飾り品』がモニターの横に置かれることが増えています。これは、両陛下がお決めになった手法であると聞いております。

25日の入所者たちとのご懇談では、福島の民芸品である『赤べこ』などが置かれ、品物を見ながらお話しされていました。オンライン行幸啓では、遠隔地や季節によっては訪問しにくい地域に住む国民とも交流でき、雅子さまのご体調への負担を軽くすることも可能になりました。

ご即位後15年ですべての都道府県を回られた上皇ご夫妻のように、両陛下も一人でも多くの国民と心を通わせたいと願われています。

オンラインと実際に足を運ばれる行幸啓を組み合わされることで、全国くまなくフォローすることをお考えになっておられるのです。皇室が直面している危機も国民に理解してもらおうという両陛下のお気持ちのあらわれだともいえるでしょう」(前出・宮内庁関係者)

全国の国民と交流するため、そして皇室を守るため、両陛下の“令和の大行幸啓”が始まった。