副鼻腔炎とはどんな病気?治療は? 専門家を取材しました(写真:mits/PIXTA)

岸田文雄首相は2月11日、内視鏡による慢性副鼻腔(びくう)炎の日帰り手術を受けた。昔は「蓄膿症」といわれていた副鼻腔炎。実は令和のいまでも急性・慢性を合わせて、100万〜200万人の患者がいるとされている。

あらためてどのような病気なのか、大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授の寺田哲也さんに取材し、まとめた連載記事を再構成し、QA方式で紹介する。

Q:副鼻腔炎はどのような病気ですか?

A:多くは鼻風邪をきっかけに発症する「急性副鼻腔炎」から始まります。私たちの体にはさまざまな常在菌がすみついていて、鼻の奥にある副鼻腔にはとくにたくさんの菌が存在しています。

副鼻腔は外界との接点でありいろいろなウイルスや細菌が体に入ってきますが、通常の免疫力がある場合には自分の力で、その細菌やウイルスを排除することができます。しかし、なんらかの理由で免疫力が下がると病原菌として感染症を引き起こすことがあります。急性副鼻腔炎はこうした病気の1つなのです。

この急性副鼻腔炎が長引くと、副鼻腔粘膜が炎症を起こして腫れ、鼻茸(はなたけ)をともなう慢性副鼻腔炎になることがあるのです。

副鼻腔はどこにある?

Q:副鼻腔の構造はどうなっていますか?

A:副鼻腔は鼻の奥にある、左右4方向に広がる空洞です。鼻の両側にある「上顎洞(じょうがくどう)」、眉間の奥にある「篩骨洞(しこつどう)」、篩骨洞の奥にある「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」、そして眉毛の裏側にある「前頭洞(ぜんとうどう)」からなります。

空洞になっていることで、重い脳を支える頭蓋骨を軽量化したり、鼻の中の温度を調節したり、音声を共鳴したりといったところで役立っていると考えられているのですが、入り口がとても狭いため、風邪のウイルスなどにより、鼻の粘膜が炎症して腫れるとたちまち入り口がふさがれ、密閉状態になってしまうのです。空気の出入りがなくなれば、細菌やウイルスにとって繁殖しやすい環境となります。

Q:急性副鼻腔炎ではどのような症状があらわれますか?

A:病原菌が繁殖して活発になると、体の防御反応によって免疫細胞の白血球が集まり、病原菌を殺そうとします。この結果、炎症反応が起こり産生された炎症物質や病原菌の死骸が黄色い膿となって出てきます。

膿は黄色い鼻汁となり、鼻の入り口ではなく、繊毛運動という後方に洗い流す副鼻腔の粘膜の自浄作用により、多くは、のどに流れ落ちていきます。それらは痰として咽頭(鼻の奥から食道に至るまでの食物や空気の通り道)から出てくることもあり、「後鼻漏(こうびろう)」と呼ばれています。

アレルギー性鼻炎のときに出てくる鼻水は鼻の入り口付近の下鼻甲介(かびこうかい)の粘膜が発生源で、前方に出てくるのが特徴で、副鼻腔炎とは異なることが多いです。副鼻腔炎の場合、後鼻漏をただの痰だと思い込んで、放置してしまっている人もいるので注意が必要です。

Q:どのように診断しますか?

A:副鼻腔炎の正確な診断には、副鼻腔に炎症の影があるかを画像で見ることのできるCT(コンピュータ断層撮影)検査が最も有用です。ただし、どこでもできるわけではなく、医療費もかさむため、一般的な検査としては推奨されていません。そこでその日のうちにわかる簡便な検査である、「経鼻内視鏡検査」を勧めています。

Q:どのような検査ですか?

A:鼻に内視鏡を入れ、鼻の奥の副鼻腔の出入り口を観察する検査です。内視鏡では鼻汁の色や性状、膿などが鮮明に映ります。多くの耳鼻咽喉科クリニックで行われている検査なので、おかしいな、と思われる場合はぜひ、この検査を申し出てください。

副鼻腔炎の治療について

Q:急性副鼻腔炎の治療はどのように行われますか?

A:発症直後で副鼻腔に強い炎症が起きている時期は、原因になっている細菌を死滅させる働きのあるペニシリン系の抗菌薬をよく用います。これでよくならない場合や、ある程度、時間が経過している場合には、マクロライド系抗菌薬の投与を行うこともあります。

Q:慢性副鼻腔炎の特徴である鼻茸(はなたけ)とは、どのようなものですか?

A:鼻の粘膜が炎症を起こすことによって放出された物質が、粘膜の腫れを促す細胞を活性化してできます。ぶよぶよしたやわらかい塊で、大きいものでは親指大のものも。

鼻の奥にできるので小さいうちは気づかないこともありますが、ある程度の大きさになると、鼻づまりの症状があらわれ、入り口からも見えるようになります。

Q:鼻茸ができていると慢性化していると考えてよいのでしょうか?

A:はい、その通りです。鼻茸は慢性的な炎症の結果できるものですので、鼻茸ができている場合は慢性副鼻腔炎であると考えてよいのです。また、鼻茸ができると副鼻腔の出入り口がふさがれるため、病気が治りにくくなる悪循環が生じます。鼻づまりもひどくなり、QOL(生活の質)も低下します。

一度できた鼻茸を薬で治すことは難しく、内視鏡を用いた手術で鼻茸を切除したり、副鼻腔内の腫れた病的な粘膜を除去する手術を行うことになります。

Q:手術は大がかりなものですか?

A:内視鏡による手術は鼻の穴の中から器具を挿入して行う治療で、顔に傷をつくることなく行うことができます。

実は30年ほど前まで、副鼻腔炎の手術は内視鏡ではなく、歯ぐきを切ってほほの骨をノミで削り、副鼻腔にたまった膿や粘膜を取り除く方法で行われていました。手術後に顔面が腫れるなど、体への負担が大きい手術だったのです。ですから現在の内視鏡を用いた手術は昔の手術とは格段の違いがあり、負担が少なくなった手術といえます。

ただし、副鼻腔は脳や眼球のすぐそばにあるので、内視鏡手術は決して簡単な手術ではありません。稀にですが、視力低下や複視、髄液漏などの合併症が起こることもあるので、手術を受ける場合は、内視鏡手術の技術が認定されている「日本鼻科学会認定手術指導医」のいる医療機関が勧められます。

Q:内視鏡手術をしてもよくならないケースもありますか?

A:「抗菌薬を服用してもなかなかよくならない」「鼻茸を取っても、繰り返し新たな鼻茸があらわれる」副鼻腔炎として、「好酸球(こうさんきゅう)性副鼻腔炎」があります。

好酸球性副鼻腔炎とは?

Q:好酸球性副鼻腔炎とはどのような病気ですか?

A:一般的な慢性副鼻腔炎の場合、鼻茸は1房だけ(単房性)のことが多いのですが、好酸球性副鼻腔炎ではバナナの房のように、複数の鼻茸(多房性)ができている場合が多いです。また、この病気は鼻に限定した局所の炎症というより、全身性の好酸球性炎症の病気と考えられており、喘息を合併していることも多いです。

全身性の体質がからむ病気であるため、鼻だけを手術で治しても再発することが多く、難治性であるといわれています。

また、鼻汁や痰も、一般的な慢性副鼻腔炎よりも、さらに粘度が高いのが特徴です。なお、鼻茸には好酸球という炎症細胞が多数、集まっていることがわかっています。

もう一つ、好酸球性副鼻腔炎では、においがわからないという症状を訴える患者さんが多いです。「まったくわからない」と言う人も少なくありません。嗅覚障害は高度であることが多い病気なのです。なお、好酸球性副鼻腔炎のうち中等症と重症は国の指定難病になっています。

Q:好酸球性副鼻腔炎の診断は難しいのですか?

A:耳鼻咽喉科の専門医であれば、比較的容易に診断ができる病気です。ただし、診断には経鼻内視鏡検査が特に有用です。


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Q:治療はどのように行われますか?

A:軽症の場合は内視鏡手術によって鼻茸を除去したり、副鼻腔内をきれいにすることでよくなることが多いですが、中等症や重症の患者さんは先ほどお話したように、手術をしても再び、鼻茸が出てくることが多くあります。

このため、手術を繰り返すか、炎症を抑えるステロイド薬の内服投与を行うしか方法がありませんでしたが、2020年3月から使用できるようになった生物学的製剤のデュピルマブという薬は、嗅覚の改善を含め、顕著で速やかな症状の改善が期待できるようになってきています。該当する人でこの治療を受けていない人は、主治医に相談することをお勧めします。

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(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)