教育費の負担は増えていく傾向にある(写真:すとらいぷ/PIXTA)

異次元の子育て支援の一環として打ち出された「児童手当」の所得制限撤廃が、議論を呼んでいます。その賛否についてはさておき、養育費、特に子どもの教育費の負担が非常に重くなってきているのは事実です。教育費は長期にわたる出費になるので、結局、合計でどれだけの負担になるのか見えにくいものです。そこで本稿では教育費のこれまでのトレンドと見通しについてご紹介します。

文部科学省が昨年末に発表した「令和3年度子供の学習費調査」では、幼稚園から高校までの15年間ですべて公立に通った場合の学習費の平均総額が、子ども1人あたり574万円でした(下図参照。※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。


この平均額は近年上昇傾向が続いていて、10年前(平成24年度)の平均額499万円から75万円も増えています。教育費が増加している背景のひとつと考えられるのが塾代です。上記の調査で、1年間に塾代を支払った世帯の平均額をみると、公立に通う小学生でも年間20.8万円で、10年前に比べて約7万円増加しています。

中学受験をすれば、小学生の塾代はもっとかかります。おもに都市部では中学受験者数が増えています。特に東京の受験率は高く、公立小学校から私立中学に進学する子どもの割合は19.4%、つまり5人に1人です。受験率が高い文京区では49%と、半数近い子どもが私立中学に進学しています(東京都教育委員会「令和4年度 公立学校統計調査報告書」より)。

中学受験対策にかかる費用は受験対策を始める時期によって変わりますが、標準的とされる小学3年生の2月から3年間にわたって塾に通って対策をした場合、200万〜300万円が目安といわれます。実際には100万円程度で済む家庭もあれば1000万円以上かける家庭もあり個人差が激しい世界ですが、多くのケースでは小学校時代に数百万円規模の出費が上乗せされることになります。地域性や家庭の教育方針などによっては、平均を大幅に上回る塾代がかかるのです。

私立中高の授業料は値上げ傾向

中学受験生に人気の中高一貫校のなかには、手厚いカリキュラムが組まれ、入学後は塾に行かずに大学受験対策までできるという学校もあります。一方で、私立の中学や高校では全体的に授業料値上げの流れも顕著になってきています。

都内の私立中学校では、入学金と1年生時の授業料などの合計は平均98万9125円(令和5年度)で、初年度は100万円近くかかります。2年生以降にもかかる授業料は平均49万2209円です(東京都「令和5年度 都内私立中学校の学費の状況」より)。

高校については国の授業料無償化制度があり、私立高校に通っている場合は最大で年39万6000円の支給によって家庭の負担が軽減されます。ただし所得制限があり、専業主婦と高校生2人の会社員家庭の場合で、親の年収が640万円相当まででないと無償化の対象になりません。

進学先が公立高校なら同じ家族構成で年収950万円相当まで対象になりますが(補助額は授業料と同額の年11万8800円)、それよりも高所得なら補助の対象外です。つまり中学生までの「児童手当」で所得制限にかかる年収水準の家庭だと、(年収が下がらなければ)子どもが高校に進学したときにも授業料無償化の対象から外れるのです。

大学までオール国公立でも1000万円以上かかる

一般的に子育て全体を通した教育費の計画は、高校までの費用は家計で捻出しながら、大学でかかる費用を貯蓄して準備していくのが理想といわれます。しかし高校までに相当な教育費がかかること、そして授業料の値上げや受験競争の過熱で出費が増すと、大学資金を貯蓄するのは厳しくなってきます。所得制限により公的な補助を受けられなければ、いっそう親の負担は増します。

なにより、大学の費用は高額です。国公立大学でも、入学金や授業料などにかかる総額は4年間で平均481万円にのぼります(日本政策金融公庫「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」より)。

もし幼稚園から高校まですべて公立、大学も国立と、もっとも費用を抑えられたとしても、22年間で子ども1人に1000万円以上かかる計算になります。

これが私立大学への進学となりますと、当然さらに費用はかさみます。私立文系なら4年間で平均690万円、理系なら822万円になります。また全国の私立大学の年間授業料は平均で93万0943円(令和3年度)ですが、長年値上げ傾向が続いています(文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」より)。

大学によっては独自の授業料減免や奨学金制度を設けていることもあります。また東京都立大学の授業料無償化制度を設ける東京都のように、地域の支援を受けられることもあります。同大学の無償化の対象は現在、世帯年収478万円未満ですが、今後、世帯年収910万円未満へと引き上げられる見通しにもなっています。

とはいえ、これらの状況を俯瞰してみると、「児童手当」の所得制限にかかる境界となる年収960万円〜年収1200万円前後の世帯ですと、あまりゆとりはないという人もいるはずです。さらに都市部に住んでいて生活コストが高い、高額な住宅ローンを抱えているといった教育費以外の経済的負担があれば、厳しさは増すでしょう。

少し古いデータになりますが、子育て世帯を対象に「児童手当」の使い道を聞いた平成24年の厚生労働省の調査をみると、受給した「児童手当」は子どもの教育費や生活費、将来のための貯蓄や保険料に充てているという人が大半です。

高所得世帯でも「児童手当」は重要な資金

世帯年収1000万円以上の世帯に絞ってみると「特に使う必要はなく、全部または一部が残っている」という人が約17%いて、この割合は所得が低い世帯に比べると高いのですが、教育費に充てたり、子どもの将来のために貯めたりする人が多いことは共通しています(厚生労働省「平成24年児童手当の使途等に係る調査」)。

当時も現在と同じく、夫婦と子ども2人の場合で年収960万円相当以上の世帯は子ども1人あたりの支給額が月5000円とされていましたが(年収1200万円以上の支給停止はなし)、この所得制限の対象になる世帯でも、「児童手当」を養育のための重要な資金としていたことがうかがえます。

なお、平成22年度から2年ほどの民主党政権時代には、「児童手当」に代わり所得制限のない「子ども手当」が支給されていましたが、その導入にあわせ、15歳までの子どもを扶養している人に所得税と住民税で適用される「年少扶養控除」が廃止されました。手当の支給に代えて子育て世帯へ増税する形だったわけですが、のちに「子ども手当」が「児童手当」に変わった後も、いまだ年少扶養控除は復活していません。高所得の子育て世代には、支給が少なく税負担は重いままの状態が続いています。

子育て支援策への所得制限をめぐっては賛否両論あり、国の「児童手当」に先駆けて東京都が来年1月頃からの実施を表明した18歳以下の子どもへの月5000円の支給や、第2子の保育料の無償化も所得制限なしとする方針に対しさまざまな意見が飛び交っています。低所得層への支援や待機児童対策など少子化に関わる課題は山積しており、負担と配分は非常に難しい問題です。

ただ、所得制限の是非にばかり注目が集まっている感は否めません。改めて、いまの子育て世代が直面している教育費の現実への理解も重要だと思います。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)