「アルコール依存症」になると現れる初期症状はご存知ですか?医師が監修!
「お酒は百薬の長」という古い言葉のように、程よい飲酒は私たちの体に良い影響をもたらします。
血行を良くしたりリラックス効果があったり、初対面の方でも一緒にお酒を囲めば、心の距離が一気に縮まることもあるでしょう。
しかし、過度な飲酒が重なると「お酒は万病のもと」へと豹変します。
この記事では、お酒が原因の数ある症状の中でも、アルコール依存症に焦点を当てて解説します。
原因や治療法・予防方法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
アルコール依存症の症状と原因
アルコール依存症はどのような病気ですか?
アルコール依存症とは俗にいう「アルコール中毒」のことで、お酒を飲むことに対してコントロールができないほどにアルコールに依存してしまう病気です。「お酒が抜けるとイライラする」「お酒を飲むべきでないタイミングでも飲んでしまう」というように、身体的にも精神的にも大きな悪影響をもたらします。社会生活ひいては家庭生活までもうまくいかなくなることが多く、そのストレスからさらに飲酒をしてしまうという負の連鎖ができることもある病気です。
一度アルコール依存症になってしまうと、その悪影響が飲酒のせいであると分かっていてもやめられなくなってしまいます。
アルコール依存症になる原因を教えてください。
アルコール依存症の原因はずばり、多量飲酒の習慣化です。過度な飲酒を長年にわたって続けている人であれば、誰でもアルコール依存症になる可能性があります。多量飲酒を繰り返していると、次第に身体はアルコールへの耐性を持つようになります。すると必然的に以前と同じ飲酒量では酔えなくなるため、お酒の量がどんどん増えていってしまうのです。この状態からさらに飲酒を続けていくと、次第に飲酒に対してコントロールが効かない状態へと発展します。
アルコール依存症の初期症状はあるのでしょうか?
アルコール依存症に初期症状はありますが、自覚のあるケースは稀です。知らず知らずのうちに病気が進行し、気づいた時にはやめられない、または断固として依存症の影響を否定するようになってしまいます。典型的な初期症状は、飲酒をしていない状態に対して不快感を抱くようになることです。アルコールが入っている状態が自分にとってのべストコンディションであると錯覚することで、症状はどんどん進行していきます。
アルコール依存症にはどのような症状がありますか?
アルコール依存症の症状は、大きく精神的な症状と身体的な症状の2つに分けられます。精神的な症状では、お酒への強い執着や飲酒のコントロールが効かないことが特徴的です。例えば「少しだけ飲もうと思っていても、結局酔い潰れるまで飲んでしまう」「時間や場所を問わず、数時間ごとに飲酒したくなる」といった症状が多く見られます。身体的な症状では、アルコールが身体から抜けた際に起こる離脱症状が代表的です。手の震えや吐き気・イライラ・不安感・幻聴・幻覚など、アルコールが抜けた状態に対して不快な症状が出るようになります。
アルコール依存症とアルコール中毒の違いが知りたいです。
アルコール依存症も、広義で表現すればアルコール中毒です。アルコール中毒は、急性アルコール中毒と慢性アルコール中毒に分類することができます。そのため、アルコール依存症をもう少し狭義で表現するならば、慢性アルコール中毒と表現することが可能です。急性アルコール中毒は、お酒の一気飲みなどで短時間に大量のお酒を飲んだ際に、意識を失って生命を彷徨うほどの酩酊状態のことを指します。つまり、両者の違いは長期間にわたって多量飲酒によるものなのか、短時間に多量飲酒することによるものなのかという点にあるということです。
アルコール依存症の診断方法と治療方法
アルコール依存症の診断方法が知りたいです。
アルコール依存症の診断を行うのは、専門医です。精神科や心療内科、内科などを受診しましょう。診断基準はWHOにより定められています。脅迫的飲酒欲求:飲みたいという強い欲求がわきおこる。
コントロール障害:飲酒の開始や終了、また飲酒量に関して、行動をコントロールするのが難しい。
離脱症状:飲酒を中止したり減量したときに離脱症状が出る、こうした症状をやわらげたり避けたりするため飲酒する。
耐性:かつてと同じ量では酔わなくなる、酔うためにより多く飲む。
飲酒中心の生活:飲んでいる時間や酔いをさますための時間が増え、それ以外の楽しみや興味を無視するようになる。
有害な結果が起きても、やめられない:たとえば過度の飲酒による肝臓障害、抑うつ気分状態、認知機能障害など、明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として飲酒する。
上記の6項目のうち3項目以上、もしくはコントロール障害・飲酒中心の生活・離脱症状の3項目のうち2つ以上が認められる場合にアルコール依存症と診断されます。アルコール依存症は精神や行動の障害として認識されており、治療のためには医療機関への受診が必須です。
どのような検査を行うのですか?
検査では患者の状態を診て、先述のWHOによる診断基準に基づいて検査が行われます。アルコール依存症の早期発見のツールとして、アルコール使用障害同定テストを実施することもあります。ただこちらはあくまでスクリーニングであり、診断基準ではありません。本人が依存を自覚していなかったり、飲酒の離脱症状がなかったりする際に、アルコール依存症である可能性を示唆するために活用するのが一般的です。
治療方法を教えてください。
アルコール依存症を治療するためには、断酒が欠かせません。そのためには、断酒治療と断酒を続けていくための心理社会的治療が必要です。断酒治療ではまず、アルコール依存症という病気への理解を深め、断酒治療を進めていくための動機づけを行います。一般的には入院して治療していくことになるので、断酒による離脱症状が起きても心配は要りません。アルコールの解毒が完了し、離脱症状が回復したら、断酒のリハビリが始まります。断酒はアルコール依存症の方にとって大きなハードルですが、治療方法には薬剤の力を借りる方法もあるので安心してください。
例えば、抗酒薬としてジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(商品名:シアナマイド)があります。これらの薬剤は、服用中に飲酒すると血中アセトアルデヒド濃度が上昇し、嘔吐・頭痛・呼吸困難などの不快な症状を引き起こす作用があります。そのため、飲酒したくなっても「体調不良になるからやめよう」と断酒を続けやすい心理状態にさせることが可能です。
他にも、断酒をしている方の断酒率を上げる効果のあるアカンプロサート(商品名:レグテクト)や、飲酒をしている方の飲酒量を減らす効果のあるナルメフェン(商品名:セリンクロ)なども非常に効果のある薬剤です。これらの薬剤を上手く組み合わせていくことで、なるべく無理なく断酒を続けていくことが可能となります。
心理社会的治療では、断酒の意志継続・断酒の習慣化を目的として行われます。将来何かあったとしても、安易にお酒に逃げないための考え方を身につける治療です。具体的な治療方法としては、酒害教育・個人カウンセリング・集団精神療法(同じ症状の方でアルコール依存症の問題について話し合う)・自助グループへの参加などがあります。
アルコール依存症の予防方法
アルコール依存症を防ぐ方法が知りたいです。
アルコール依存症を防ぐ方法として最も有効的なのは、お酒を飲まないことです。とはいっても、多くの方にとって全くお酒を飲まないことは不可能かもしれません。そのため、適量を守って飲酒することを必ず心がけるようにしてください。適量というのは男性で1日20グラム、女性で1日10グラム以内です。ビールの500ml中瓶1本でアルコール量は20グラムですから、想像よりかなり少ない量だと感じるでしょう。しかし、現在お酒を飲む機会が多いという方ほど、特に適量の飲酒を心がけなければ予防にはなりません。
アルコール依存症の再発を防ぐ方法を教えてください。
アルコール依存症を再発させないためには、医師の指示に従ってしっかり治療を受けること・家族や周囲の助けを借りることの2つが非常に大切です。アルコール依存症にかかると、断酒して症状が緩和されたとしても、その後一度でも飲めばまた元の状態に戻ってしまいます。本人の治したいという強い意志や治療への積極性も大切ですが、家族をはじめとした周囲のサポートも欠かせません。自分一人で抱えることなく周囲の環境にも目を向け、遠慮することなく頼るようにしましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
アルコール依存症は本人がお酒に強い・弱いに関係なく、習慣的にお酒を飲む方であれば老若男女誰でもかかりうる病気です。アルコール依存症は薬物依存と同じであり、気づいた頃には後戻りすることができないほどに症状が進行しています。症状が進行すればするほど、治療はきつい道のりとなるでしょう。
アルコール依存症にならないためには、普段から適量の飲酒を心がけることが大切です。「百薬の長」に収まる程度でいられるよう、自制心を持って上手に付き合っていきましょう。
編集部まとめ
今回は、お酒を飲むことに対してコントロールができないほどにアルコールに依存してしまうアルコール依存症について解説しました。
アルコール依存症は決して特別な病気ではなく、お酒を飲む習慣がある方であれば誰でもかかりうる病気です。
しかし多量飲酒を避け、適量の飲酒を守ることを心がけていれば、予防できない病気ではありません。
アルコール依存症の正しい知識を身につけ、飲酒へのリスクをしっかり把握しておきましょう。
参考文献
アルコール依存症の症状とサイン(依存症対策全国センター)
飲酒の基礎知識(アルコール健康医学協会)