村元哉中・盒饗臺紂∩監本フィギュア首位発進も「お互いのリズムのズレが出た」。初制覇に向け「何も考えない」がテーマ
12月22日、全日本選手権RDの村元哉中・郄橋大輔
12月21日、大阪。全日本選手権の公式練習でリンクに立ったふたりは、表情を明るく輝かせていた。動きに無駄や迷いがない。ツイズルで息を合わせてもピッタリだった。
村元哉中が振り返って肩越しに笑顔を見せ、郄橋大輔もそれに誘われるように優しい笑みをもらした。
村元はそう言って、気力に満ちた目をした。
「自信? あるように振る舞っています。そう自分に言い聞かせて」
郄橋は彼らしい表現で、充実感を語った。
親しみを込めて「かなだい」と呼ばれるふたりにとって3度目の全日本選手権が幕を開けようとしていた。【首位発進も「動き固かった」】
12月22日、アイスダンスのリズムダンス(RD)に第2グループで登場したかなだいは、5分間練習からライバルとの技量の差を見せつけている。ツイズルひとつとっても、左右どちらから回っても呼吸が合うカップルは意外に少ない。
「楽しんで。アイスショーは緊張しないでしょ? それと同じ。自分たちのショーだと思って滑りなさい」
マリナ・ズエワコーチから、かなだいはそう声をかけられたというが、まさに彼らの宴になった。
冒頭のコレオから出来ばえ点(GOE)は5.10点と群を抜き、ツイズルもレベル4を獲得している。パターンダンス、ミッドラインステップシークエンスも高得点だった。熟練のアイスダンサーと音を拾う天才がラテンダンスで共鳴。完全に他を圧倒していた。
ただ前日練習と比べると、表情に緊張と気負いがかすかに走っていたか。
「練習からすごくいい感じだったのですが。今日は氷の上に立った時、急に緊張が高まってきて。自分のなかで、少し動きが固かったかもしれません」
村元は正直にそう明かしている。
最後のリフト、時間制限(7秒間)を超えてしまい、1点の減点を受けた。ポジションの切り替えでいくらか動きが詰まって、足を下ろすのが遅れてしまった。それはゼロコンマ秒の話で、体感でははっきりわからないほどのズレだという。
「音のはまりはよかったんですが、お互いのリズムのズレが少し出て。バシッといくと本当に気持ちいいんですけど」
郄橋が無念さをにじませたように、80点を逃した口惜しさは残した。ただし、それは高い次元でのもの足りなさと言える。RDは77.70点で、堂々の首位発進だ。
「最高のクリスマスイブにしたいです」
郄橋はスポーツ紙の見出しになるような言葉をサービスしながら、12月24日のフリーダンス(FD)への意欲を語っていた。
「フリーは特にエレメンツに向かうつなぎのところとか、細かい調整をしてきました。今までもやりにくかったわけではないですが、少し疑問があるなかでやっていて、こっちのほうがいいかなって修正ができて。
ワンフットやダイアゴナルステップのところ、僕は取りこぼしがあったし、集中的にレッスンを受けました。スムーズにエレメンツに入れるようになり、全体的に流れがよくなったと思います」
かなだいは、確実に次のフェーズに入った。カップル結成3年目、進撃は続く。2年目では、四大陸選手権で日本勢として史上最高位の準優勝、世界選手権にも出場したが、今シーズンは、ISUチャレンジシリーズ・デニステン・メモリアルで国際大会初優勝を経験し、NHK杯でもFDでは最終グループに入り、日本勢ではダントツでトップに立っている。
ふたりが日本フィギュアスケート界に与える影響は、広がり続ける。その人気のおかげで、アイスダンス自体が競技として報道される質も量も増えた。普及活動に及ぼした貢献度も計り知れない。たとえば今回のアイスダンスは、カップルが増えて2グループで大会を争うことになった。
彼らは全日本選手権で、ひとつの結実を見せようとしている。
「(五輪出場がかかった昨シーズンと比べて)今は変なプレッシャーを感じず、練習から動けているという違いはあります。昨シーズン後半はいろいろと考えすぎてしまったので、今回は『何も考えない』っていうのをお互いで言い出して。それを(全日本の)テーマにしながら。欲を出さず、練習してきた以上のことはできないので」
郄橋は明朗な声で言う。練習に近いパフォーマンスを出すことができたら、国内では負けないところまで彼らは到達した。初の全日本優勝で、世界選手権出場へ。
12月24日、FDは最終滑走になる。「オペラ座の怪人」の哀しみや狂気や恋慕がクライマックスを彩るだろう。それは次の物語へのプロローグだ。