反抗的な子どもに、親はどう対応すべきか。心理療法士のイザベル・フィリオザさんは「多くの親が反抗的な子どもを教育するために、脅したり、罰を与えたりする。しかし、それは子どもの脳にダメージを与えて、問題を大きくするだけ。それよりもふれあいの時間を持つことが大切だ」という――。

※本稿は、イザベル・フィリオザ『6〜11歳 子どもの気持ちがわかる本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/simarik
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■脅しや体罰は子どもの脳にダメージを与える

子どもは消極的な態度だったり、反抗的だったり、乱暴だったり、あるいは親や親の忠告から距離を置いたりします。まるで親にケンカをふっかけているようにさえ見えませんか?

子どもの態度を受け入れがたいと感じて、言うことを聞かせるために、コントロールを強めたくなりますよね。

「すぐやめなさい!」「早く歯を磨きなさい!」。脅したり、罰したり、楽しみを取り上げたり、逆にごほうびを約束したり。私たち親は「教育的」と思われているあらゆる手段を動員します。

作戦が失敗すると、親の怒りは爆発します。「こんなにしているのに、また!」。親の声の調子には、自分の思い通りにならない子どもに対する恨みがこもります。

ある研究者たちは、こうした教育的と言われる態度について、理性的ではない、と指摘しています。また他の研究者は、最先端の脳の画像技術によって、親がいかに自分自身の過去につまずいているかを教えてくれます。

親が感情的に激しく反応すると、理想の親でいることは難しいし、十分な明晰(めいせき)さで物事を考えることができなくなるのです。

多くの親が自分の役割は子どもをコントロールすることだと信じ、愛はごほうびであり、罰は必要で正当なものであるという強い信念を持って疑いません。

一部の親にとっては、子どもの頬を平手打ちすることやお尻を叩くことは当然に教育の一環なのです。長い目で見て、そうした体罰が子どもに効果がないことがわかっていても、この信念は簡単にはくつがえりません。1つには、多くの人に何世紀にもわたって支持されてきたからですし、もう1つには、他の方法もあるんだと思いつくにはかなりの時間と平静さが必要だからです。

昔は脳のことがほとんどわかっていなかったため、私たちの祖先や親は恐怖による教育は無害であると信じていました。

ですが、今日では、脳が発達段階でストレスにさらされることは、ホルモンのレベルを乱し、脳の構造に変異をもたらすことが証明されています。

これには疑問の余地はありません。脳の画像、ニューロン(神経細胞)やストレスホルモン、知能、記憶に関する知識が、体罰による教育は直ちにやめるべきであると告げているのです。

感情への後遺症に加えて、体罰を加えられるだけでなく、怒鳴られたり脅されたりすることで、脳の白質が変化し、ある領域の未発達、扁桃体(へんとうたい)とストレス回路の過活動など、脳に影響が残ることが明らかになっています。

それに、他の過ごし方があるのなら、親子の対立に時間とエネルギーを使ってしまうのはもったいないですよね? 子どもに寄り添って、子どもと暮らすほどの喜びは他にはありませんから。

■罰を与えることの10の不都合

罰を与えることによって起こるデメリットを、以下に10個挙げてみましょう。

1.罰はあくまで症状に向けたもの、つまり対症療法であって、問題の原因に向き合っていません。この理由だけでも罰を与えるのは避けるべきです。結局問題が解決しないため、新たに別の突飛(とっぴ)な行動に出ることになり、エスカレートすることは避けられません。
2.罰を受けることによって子どもは自分のしたことの結果に向き合わず、責任感を覚えにくくなります。子どもは、罰で「償う」ことで、自分のしたことから解放されたと思うので、深く考えようとしないのです。
3.罰によって引き起こされた感情が脳内のストレスの回路を刺激し、自分のしたことについて考えてみることを妨げます。罰を受けた記憶は残りますが、子どもが記憶しているのはストレス、恐怖、怒りであって、なぜ罰を与えられたかは覚えていません。
4.罰は子どもに、警察が怖いということは教えるかもしれませんが、責任と自制は教えません。子どもの注意を、不公平感や怒り、恐怖といった親へのネガティブな感情に向けてしまうため、子どもが自分のしたことの結果を意識できなくなるのです。
5.罰は子どもに恥辱を与えるので、自分は人間としてダメなのではないかという感情が生まれます。そして、自分がしてしまったことを意識し、罪悪感を覚えるという健全なプロセスをブロックしてしまうのです。このような感情は何の進歩ももたらしません。
6.罰を与えることは親子の愛着や信頼関係を変質させ、子どもの愛情のタンクを「空」にします。結局、また新たに不都合なことをする状況を作ってしまうことになります。
7.罰によって生まれた恐怖心や恥は、知的能力や感情的・社会的生活に良い影響を与える脳の作用を抑制してしまいます。
8.親は、子どもが自分の手に負えないと感じて無力感を覚え、子どもに罰を与えます。子どもはそれを感じて親への信頼をなくすため、そのことで不安定になります。こうした不安感が逸脱した行動となって現れるのです。
9.罰を与えると、親は徐々に権威を失っていきます。1つには、子どもがイヤな気持ちから自分を守るため、「どうでもいいや」と思うようになるからであり、もう1つには、罰には効果がないため、長い間にさらに厳しくならざるを得ないからです。罰することで親の権威を示すことはできません。親の権威がないから罰するしかなくなるのです!
10.通常、親が激昂(げっこう)した時に罰を与えることが多いため、そもそも不合理で、過剰で、問題の行動とは関係がないことが多いのです。

■欧米で一般的な「タイムアウト」もいい方法ではない

子どもを従わせようとして愛情を引っ込めるという手段が、しばしば使われます。これは短期間では効果的ですが、実際には良いことはありません。

アメリカやイギリスでは、5分間など時間を決めて、その場を離れさせることを、スポーツのようにタイムアウトと言います、フランスでは、子ども部屋などへ追いやります。

要は、しっかり反省できるように、1人にするということです。けれど13歳以下で、反省できる子はまずいません。だとすると、部屋に閉じ込められた子どもは何を考えるのでしょう?

子どもの心の声

わたしは1人ぼっちだし、力もない。ダメ人間だ……。パパはわたしを愛していないけれど、どうしてかわかんない……。どちらにしても、わたしはその仕返しをすることになるの。

■愛情は、悪い態度を改善するための「燃料」

わが子の態度が悪い時、私たち親は子どもを遠ざけがちです。近づいて抱きしめましょうとか、関心を向けましょうというアドバイスは受け入れがたいという方もいるかもしれません。なぜなら、悪い態度にごほうびを与えることのように思えるからです。

親は、「自分のしたことが良くなかった」と子どもに理解させるために、厳しく冷たい扱いをすべきだと考えがちです。けれど、愛情は報酬ではなくて、燃料なのです。

相手がうまく育たない植物や動かない自動車なら、そんなことは考えないでしょう。もし自動車がガス欠になったら、車に反省させたりしないで、ただ給油するだけですよね。

イラスト=『6〜11歳 子どもの気持ちがわかる本』

■ふれあいを回復しよう

問題はどうすれば解決できるでしょう?

それよりもっと急を要するのは、ふれあいを回復すること、力関係になることを避けること。タイムアウトではなくタイムイン、時間を共有しましょう。ケーキを作ったり、ゲームをしたり、外で一緒にランニングをしたりするのもいいですね。

イザベル・フィリオザ『6〜11歳 子どもの気持ちがわかる本』(かんき出版)

子ども部屋に隔離するのではなく、「居間の隅っこにいなさい」というのも、結局良いアイデアなのかもしれません(それが本当にもっと良い行動ができる状態にしてくれるような場所なら)。学校では教室の隅や先生の隣に立たせること、また、家庭では廊下や別の部屋に行かせたり部屋の隅で壁に向かって立たせたりすることを「オ・ワコン」といいます。

親も過ごしている居間の隅っこなら、子どもの脳が十分に安全な場所にいると感じられます。つまり、前頭葉が活発に働けるような、快適で、心が温まる場所です。

私たち親の目的は、子どもに「償いをさせる」ことではなく、態度を変えさせることなのですから。

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イザベル・フィリオザ心理療法士
1957年パリ生まれ、心理療法士。父は心理学者、母は心理療法士で病気を体・心・感情を含めて全体的に見るというホリスティック医療の先駆者。パリ第5大学で、臨床心理学の修士号を取得したあと、フランス、アメリカ、ベルギー、イギリスなどで、交流分析、新ライヒ派のセラピー、神経言語プログラミングなどを学ぶ。それ以後、独自のセラピーを開発し、感情を専門とするセラピストとして、多くの大人や子どもの治療に当たる。世界的ベストセラーシリーズ『子どもの気持ちがわかる本』(かんき出版)ほか著書多数。
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(心理療法士 イザベル・フィリオザ)