強いF・マリノスが帰ってきたわけ。「責任は私が持つ」マスカット監督の揺るぎない信念
久しぶりに"強いF・マリノス"が帰ってきた。
現在J1で首位に立つ横浜F・マリノスは、優勝決定を目前にしながら直近2試合でまさかの連敗。いずれの試合も、勝てば2位・川崎フロンターレの結果次第で優勝の可能性があったにもかかわらず、勝つどころか、引き分けることすらできなかった。
気がつけば、川崎との勝ち点差は2まで縮まり、一時は秒読み段階と思われた優勝決定も、にわかに不安視されるようにさえなっていた。
だが、天皇杯とルヴァンカップでそれぞれの決勝戦が開催されたことにより、J1のリーグ戦は2週間中断。連敗中だった横浜FMにとっては、この中断期間が気持ちを切り替えるいい機会になったのかもしれない。
前の試合からおよそ3週間ぶりに行なわれたJ1第33節で、横浜FMは浦和レッズをホームに迎え、4−1と勝利。ここ2試合、すっかり鳴りを潜めていた自慢の攻撃力が爆発しての完勝だった。
浦和レッズに4−1で快勝した横浜F・マリノス
浦和戦が今季ホーム最終戦とあって、あたりが暗くなるまで続いた試合後のセレモニーを終え、「大変お待たせしました」と会見場に姿を現したケヴィン・マスカット監督も、満足そうに口を開いた。
「特別な夜だった。ファンやサポーターから信じられないサポートを受け、すばらしいパフォーマンスを見せてくれた」
久々に気持ちのいい勝利を手にした試合も、時計の針をキックオフ直後まで巻き戻せば、会場の日産スタジアムには連敗中の不穏なムードがなかったわけではない。
前線から積極的なプレスを仕掛けてくる浦和に対し、横浜FMは思うようにパスをつなげない。そんなシーンが何度か続いたからだ。
「前半戦(第11節)で対戦した時、簡単に(横浜FMの)DFラインに(ボールを)運ばれたので、今回はその対策をした」
敵将のリカルド・ロドリゲス監督がそう明かしたように、浦和の"横浜FM対策"が功を奏するかに見えた。
しかし、それも長くは続かなかった。
「このゲームにどうアプローチするか。それをフットボール自体で証明してくれた」
マスカット監督が誇らしげにそう語ったように、横浜FMの選手たちは自らのプレーで、ほどなく苦境を打開する。
前進するためのパスコースを見逃すことなく縦パスを打ち込み、素早いサポートとワンタッチパスで浦和のプレスをかいくぐる。横浜FMが敵陣で試合を進めるようになるまで、それほど時間はかからなかった。
先制点を奪うのも早かった。
過去2試合、まさかの無得点で連敗を喫している横浜FMにしてみれば、攻めてはいても得点できなければ、次第に焦りが生まれたかもしれない。
だが、前半17分、FWアンデルソン・ロペスの鮮やかなポストプレーからMF渡辺皓太が抜け出し、右サイドで開いて待つFW水沼宏太へパス。水沼がカットインから左足でシュートを放つと、これが相手DFに当たってコースが変わり、逆サイドでフリーになっていたFWエウベルが難なくゴールに押し込んだ。
早い時間の先制点で勢いに乗った横浜FMは、前半のうちに2点目を奪うと、後半にも2点を追加。その後、浦和に1点を返されたものの、試合の主導権を手放すことはなかった。
「4−0になってから守備的にやることもできるが、自分たちはそんなサッカーを求めていない。1−0で勝っていても、0−1で負けていても、自分たちのサッカーをブレずにやる。その責任は私が持つ」
マスカット監督がそう語ったように、横浜FMらしい攻撃姿勢を貫いた末の完勝だった。
横浜FMが本来の"らしさ"をとり戻したことは、浦和のロドリゲス監督の言葉からもうかがえる。
「この試合では横浜が我々を上回った。そこに尽きる」
そうきり出した敵将は、完全に脱帽の体だった。
「前半に短い時間で2点を決められ、チャンスの数でも彼ら(横浜FM)のほうが多く、球際の激しさも彼らに対して足りていなかった。後半は前線の枚数を増やして攻撃的にいったが、それでも相手の攻撃のほうが我々に圧力とダメージを与えていた。1点はとれたが、チャンスとゴールの数は彼らのほうが多かった」
久しぶりに味わう痛快な勝利で勝ち点を65に伸ばした横浜FMは、しかし、同じ時間に行なわれた試合で川崎も勝利したことにより、優勝決定はお預け。川崎との勝ち点差は2のまま、最終節を迎えることになった。
だが、強いF・マリノスが帰ってきた今、2位との勝ち点差や、優勝するための条件などは、まったく気にする必要のないものだろう。
2019年にJ1優勝を果たした前任のアンジェ・ポステコグルー監督からバトンを受け、昨季途中から指揮を執るオーストラリア人指揮官は、堂々と語る。
「(最終節の)神戸とのゲームにフォーカスし、神戸へ行って勝つだけ。やることはひとつ。しっかりタイトルをつかみ、帰ってきたい」
横浜FMは、最終節のヴィッセル神戸戦で勝てば優勝が決定するのはもちろん、得失点差で川崎を11点も上回っているため、引き分けでも優勝が決まる可能性が極めて高い。いつものサッカーでいつもどおりに目の前の試合に臨めば、自然とタイトルに手が届くはずだ。
強いF・マリノスが、3シーズンぶりの優勝に王手をかけた。