60代、長野里美さんが「やめた」こと。片岡鶴太郎さんの一言がきっかけで…
10月2日に幕が上がった舞台『凍える』。この作品で扱うのは「病的疾患による連続殺人」。連続殺人犯のラルフを坂本昌行さん、精神科医のアニータを鈴木杏さん、そしてラルフに娘を殺された母親・ナンシーを長野里美さんが演じます。出演者は3人だけ、難しい題材を扱った作品で、演出は日本を代表する演出家・栗山民也さんです。近年は映画『あなたの番です 劇場版』やNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』などにも出演し、幅広く活躍する長野里美さんに、舞台への意気込みや、さらには60代を迎えての変化について伺いました。
骨太でシリアスな作品に挑戦する長野里美さん。60代を迎えての変化も
「私が演じるのは娘を殺された母親役です。娘を殺した犯人を許せるかどうか、という話にまで及んでいるので、殺人犯を社会的にどう見るかだけではなく、ひとりの母親、個人に与えられた衝撃をどんなふうにお客様にお伝えしていくのか、というだけでも大変です。さらに、それぞれがひとり芝居をしていって、3人の角度から見たひとつの物語をつくり出すので、すごく難しいな、と稽古に入った今でも思っています」
長野さんご自身も、娘を持つ母親。これまでは、今回の作中で起こるような事件に関するニュースは遠ざけていたのだそう。そんな苦しい役とどのように向き合っていらっしゃるのでしょうか。
「ナンシーも本当に普通の女性だったと思うんです。その人が大きな事件に巻き込まれて、身を切り裂かれるような悲しみ、憎しみにさいなまれて変わっていく様子は、見ている人にはわかりやすいのかな、と思います。私自身、娘の小さいときの笑顔や、自分がどんなふうに接していたかとか、愛情とか、そういった結びつきは今でも消えません。それが役づくりの参考になるというか…ナンシーの気持ちはとてもよくわかりますね」
●稽古は刺激の連続、プレッシャーを感じることも
ナンシーの気持ちがわかるからこそ、稽古も大変なのでは、という問いかけに長野さんは「つらくてつらくてしょうがない」と言います。
「台本を読んでいるときは、つらくてティッシュの箱を横に置いてずっと練習していました。栗山さんの演出では、そうした生の感情を抑えた方がよいとの指摘も多々あったのですが、その一方で、出した方がよいと言われる場面もありました。それが、自分の生理とずれているときは難しいなと感じるのですが、実際にやってみるとすんなりはまるときもあって、まるでマジックのようでした」
今回の演出は、日本を代表する演出家・栗山民也さん。じつは長野さんは、栗山さんと昔から一緒にやりたい、と思っていたそう。「ここに来てチャンスが来ました。それもこんな難しいお芝居で」と微笑む長野さん。稽古は刺激の連続です。
「毎日、たくさんの指示と指摘とアイデアをいただいているんですけど、もうついていくので精一杯…というか、まだついていけていないのかもしれません。とにかくこの作品をどうにかしなきゃと思っていて。この先、ステップアップできるのかな、っていうぐらいにプレッシャーを感じています。毎晩、疲れているから眠るには眠るんですけど、夜中に目が覚めるんです。隣にだれか知らない人が寝ている変な夢を見たりして…(笑)」
●61歳、ハードな舞台を乗りきるために意識していること
ハードなイメージがある舞台。今年61歳になった長野さんは、普段の生活のなかでどのようなことに気をつけていらっしゃるのでしょうか。
「舞台に入ったら絶対に健康でいなくちゃいけません。たとえば、膝や腰が痛いということを未然に防ぐ。疲れを溜めないように、食べるものとか、食べる量は気をつけています。あとは、睡眠もきちんととって」
また、朝は長野さん流のルーティーンも。舞台公演期間中は、いつもより真面目にやるようにしているそう。
「毎朝同じ時間に起きて、最近ヨガを始めたので20分ぐらいやって、瞑想も取り入れて。
舞台の期間中は、テレビの撮影とは違って時間がちゃんと決まってるから、そこにベストな状態を持っていけるように工夫しています」
●60代になってお酒をやめた。毎日自分をほめることも大切に
そして、疲れをとるために、日々の生活でもちょっとしたことに気をつけているという長野さん。
「よく言われていることですけど、寝る3時間前にはあまり食べないようにするとか、夜遅くまでコーヒーを飲んだり、甘いものを食べたりしないとか。あと、最近、お酒をやめたんです。飲むと頭が痛くなるようになってしまって、その話を朝ドラの撮影のときに片岡鶴太郎さんにしたら、『それがチャンスだよ、やめちゃってもいいんじゃない』って。未だにお酒を飲める人はいいな、という気持ちもあるんですけど、自分にはもういらないんだな、と思いました。必要なくなったものを切り捨てていくのも大切だと思います。
あとは、自分を毎日ほめたり、讃えたりしています。『よかったね』とか、『ありがとう』って自分に言うことですごく力になるんですよね。私も、自分がすごくダメだって思うこともあるんですけど、『そんなことないよ、よくできてるよ、大丈夫だよ』と言うと、案外納得できたりするんです」
●自分の面倒をちゃんと見よう、という気になった
今年、フリーとなった長野さん、そんな長野さんが今後やってみたいことは。
「フリーってすごく風通しがよくていいなあ、と思っていて。そうしたら、自分の面倒をちゃんと見よう、という気にさせられました。いずれは野外劇がやりたいんです。厳島神社の海のあたりの舞台でやらせてもらいたいな、とか、島とか山の中でやりたいな、とか。野外劇だけじゃなくて、音楽があったり盆踊りもあったり、キャンプファイヤーもできたらいいな。そのためのコミュニティをつくれないかな、と思って、今はホームページを立ち上げたので、そこにファンクラブをつくって、発信して、そういう夢をみんなで共有していきたいな、と思っています」