よその犬がうちの庭に「おしっこ」を。やめさせるべく取った行動は…
作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は「よその犬が庭におしっこをしていく」という悩みについてつづってくれました。
第82回「お犬さまのおしっこ問題」
今年の夏頃から、朝、外に出て庭掃除をしているとなんだか臭う。家の中にいて、道に面した方の窓を開けても、風向きによって臭うのだよ。
下水かなあ? いや、どうも違うな。くんくん確かめてみるに、すぐそばにある電信柱のあたりから臭ってくるので、やっぱそういうことだろうか。でも、ここに引っ越して5年になるけど、こんなことは初めてだし、やっぱり違う気がするなあ。
「ここでよく犬がおしっこしてるよ」
外で遊んでいた隣の少年がズバリ真相を明らかにした。
「こないだもね、このシソに思いっきりかけてたよ」
ひ、ひえー!!! このシソ、ときどき食べてたよ……。
道路との境界線に毎年勝手に生えてくるシソの群衆があり、内側のやわらかいのを取って食べていたのだが、これを機会に大半をばっさり切った。
●止まらない犬さまの訪れ
家の庭は植物が多い上に、外壁がほとんどないので、近隣の動物にとっては楽園なのだろう。
家の前の道は、お犬さまたちの散歩コースで、朝や夕方は、犬パレードになるのだった。すごい勢いで喧嘩しはじめる子もいれば、楽しげに数頭で戯れる者もいる。犬コミュニティーがあるようで、早朝から犬を連れたまま立ち話をする奥様集団もいる。原稿を書き上げてやっと眠りについた私を、鳴き声と喋り声が叩き起こす。迷惑といえば迷惑だが、まあこれがご近所さんってやつでしょうと、微笑ましく眺めてきた。
でも、窓をあけたら臭ってくるのは、見過ごせないなあ……。
部屋の中からこっそりウォッチングしてみると、白くて小さなもこもこした子が来て、我が家の外壁沿いの電信柱におしっこをしていった。飼い主が水をかけるも、おちょこ一杯、あれじゃあ何の効果もないだろう。
しばらくすると、今度は茶色いでっかい犬さま。わ! 思いっきりシソにしてる。体が大きいので量もそりゃあ多い。人の庭におしっこをしても、飼い主は何食わぬ顔で言ってしまった。お、おそるべし……。
私は外に出てホースで流す。夏の間は特にニオイがつきやすいので、連日そんないたちごっこを繰り返した。犬好きの友人に相談すると、
「おしっこお断りの立て札をしてみてはどう?」
と言う。すぐ近所にも犬をかわいがっている人はたくさんいるので、嫌味にならないかなあ? その人に向けて言っているみたいに見えないかなあ。
「手書きのかわいいプレートをつけてみるのもいいかもよ」
なるほど、それだと優しさも出せるもんねー。
今手元にあるもので早速作ってみようと、まずはダンボール紙を切って三角に折って鉢に置ける小さい形にした。「ここでおしっこしないでね」という言葉と、犬の泣き顔をマジックで書いてみる。
さて、夕方……。あ、ここでおしっこしたい感じの犬が来た。飼い主が私のプレートを見ている。犬さまはおしっこしたそうだけど、飼い主にうながされて引っ張られていってしまった。ごめんよ。ありがとう。
●いよいよ最終手段へ…
成功したかに見えたが、その後も全く臭いは消えず、おかしいなあと思っていたところ、
「今もよくここで大きな犬がおしっこしてるよ」
という少年の目撃情報が!!! なぬー!
まあ、毎日私がホースで水を流せばいいだけのことなのかなと弱腰になる。実際、東京はコンクリートと住宅だらけなので、犬さまにとって安寧のトイレなんて、どこにもないではないのではないか。
「そんなことないよ。公園とか、家でさせるとか方法はいくらでもあるよ。マナーを守らない飼い主ってたまにいるから、私達も困ってるんだよね」
と、犬好きの友人。
よし決めた。犬愛好家がこう言うなら、心を鬼にして私はちゃんとしたプレートを買います! あの派手で仰々しいやつを、つけてみよう。
届いた赤と白と黒の、いかにも「注目!」みたいな看板をレモンの木の下の方にかけてみる。縦長の板で、手書きの看板も立てかけてみた。我が家の景観が台無しだ。
「うわ、何この看板!『おしっこさせないで』だって〜!」
隣の少年や、子どもたちが看板を見てゲラゲラ笑っている。はずい。はずいわ。
でも、効果てきめんだったと見え、夏が終わり、秋になる頃にはすっかり臭いがしなくなっていた。
あの犬さまたちは、どうしているだろう。
私も子どもの頃は犬を飼っていたが、彼らはマーキングの習性がありくんくんと地面をかいで必ず同じ場所でおしっこをしていた。ということは、新しい散歩コースを開拓してそちらで毎日してるのかな。他の家に迷惑かけてなければいいな。人間も動物も虫も、生きているものはみんな排泄するから、やっぱり飼い主が責任をもって、地域みんなが気持ちよく暮らせるようにしなくちゃいけないと思う。
あれ、またなんか臭い……。
え!!! 庭の鉢の中に、おしっこではなく、大きい方が!!!
今度はネコさまだった。私の闘いはまだまだ終わらなさそうだ。