「どうあがいても前の自分に戻ることはできない」バド・桃田賢斗、不調を引き起こした意外な理由。そしてようやく見つけた光明

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バドミントンの世界一を決める「世界バドミントン東京2022」が開催中。

8月22日(月)には男子シングルスの1回戦が行われ、桃田賢斗(27歳)がメキシコ選手を2-0で下した。明日24日(水)には2回戦に進出する。

テレビ朝日では大会前に桃田へインタビューし、東京オリンピックから復活へ向け苦しんできた胸の内を聞いた。

◆「前の自分に戻ることはできない」

桃田:「最近は“モヤモヤ”があんまりないというか、今回は落ち着いて試合できるんじゃないかなってちょっと自分に期待しています」

2大会ぶりの「世界バドミントン」に挑む心境をそう語った桃田。

繊細で悩みがちで、自分のプレーに納得できないとずっと考え込んでしまう。そんな性格の彼が、ようやく復活の糸口を見つけたという。

思えばあの事故以来、桃田はずっと苦しみ続けてきた。

2020年、マレーシアでの試合を終えて空港に向かう途中、乗っていた車が交通事故に遭い、右眼を負傷。シャトルが二重に見えるなどの症状が出て、手術を余儀なくされた。

さらに、新型コロナウイルスの影響でおよそ1年間にわたって国際大会が中止になり、十分な実戦感覚のないまま東京オリンピックを迎えることに。

桃田:「不安しかなかったです。本当にあの事故で自分の経験やイメージ・感覚が全部ゼロになったような…」

大きな不安を抱えたまま迎えた東京オリンピックでは、金メダルを期待されながらもまさかの予選リーグ敗退。誰もが想像していない結末だった。

その後エースの復活が待たれたが、1年経っても結果が出ない。

直近7大会中4大会で1回戦負け。相手のスマッシュをレシーブできず、持ち味である守備が崩壊する場面が目立った。

桃田:「なんで前にやっていたことができないんだろうと、すごくネガティブな気持ち。どうあがいても(事故)前の自分に戻ることはできない。ずっとモヤモヤしている感じですね。何が正解なんだろうって」

自信に満ちあふれていたかつての姿はもうなかった。一時はバドミントンから離れてみるも、逆に気持ちは焦るばかり。

桃田:「『やらなきゃ。やらなきゃ』という気持ちが強すぎて、周りから見ても『ちょっと休んだら?』と言われるくらい(練習していました)。復帰してからはずっと自分の昔のイメージを追いかけ続けている感覚でしたね」

◆「力を抜くかというのを今は意識」

気持ちばかりが前に出て、結果がついてこない。そんな悪循環を断ち切るきっかけとなったのは、トレーナーからかけられた意外な“言葉”だった。

桃田:「新しいトレーナーさんがついてくれて、その人としゃべっている時に『がんばりすぎです』と言われました。勝ちたかったらがんばるものだと思っていたので、『がんばりすぎです』『もうちょっとリラックスしてやりましょう』と言われたのが、ちょっと自分の中でハッときました」

復帰以来ずっと余裕がなく、がんばりすぎていたという桃田。その気持ちは、プレーにも表れていた。

事故前のレシーブと今年のレシーブを比べてみると、事故前のレシーブはリラックスしていて足がスムーズに動いている。一方、今年のレシーブは余計な力が入り、足に無駄な動きが多いように見えた。

何とかしようと思うあまり余計な力が入り、レシーブの反応が遅くなっていたのだ。

7月、桃田は新しいトレーナーの青柳達也さんとともに新たな練習に取り組んでいた。

青柳トレーナー:「足の力どうですか?」

桃田:「全然、どこにも力入っていない」

青柳トレーナー:「OKです。その感覚を覚えてください」

桃田:「いかに力を抜くか、というのを今は意識しています。自分の試合を見返したときに違和感があったというか、反応が遅いなというイメージがあったんですけれど、(レシーブの時)一歩目にグッと力が入っていた分(反応が)遅れていたのかなと思います。速く行きたいのに力を抜くというのは盲点でしたね」

いまはリラックスしてプレーすることを心掛けている桃田。コンディションは全盛期と遜色ないくらい戻ってきているという。

桃田:「最近の結果を見たら『それはないでしょ』ってみんな思うかもしれないですけど、最近の練習の感じ的になんら遜色ないくらいまで戻ってきている感覚はあります」

精神的にも充実し、“モヤモヤ”もなくなった桃田。万全の状態で2大会ぶりの「世界バドミントン」に挑む。

桃田:「東京オリンピックも納得のいく結果が出せなかったですし、まだ全然勝てていない自分に期待してくれる人もたくさんいるので、もう一度がんばりたいです。(世界バドミントンは)みんなが本気で取りに行く大会なので、そこで優勝できたら自信になると思いますし、もう1回王者に返り咲きたいという気持ちはすごく強いです」