石川県・岐阜県境の山地を駆け抜ける「白山白川郷ホワイトロード」は、涼をとりに出かける人も多いというドライブコース。かつては「白山スーパー林道」と呼ばれていましたが、改名の“理由”を走って実感しました。

平地より圧倒的に涼しい!山脈を駆け上るドライブウェイ

 日本列島の各地でうだるような猛暑が続いていた2022年6月末、石川県と岐阜県にまたがる観光道路「白山白川郷ホワイトロード」は、県外ナンバーのクルマで賑わいを見せていました。2015(平成27)年に改称されるまでの名称であった「白山スーパー林道」の名前で覚えている方も多いでしょう。

 全長約33km、約850mの高低差がある沿道は平地より気温が7〜8度ほど低く、ドライブがてら涼みに来る人が少なくありません。サイドウィンドウを全開にしてアクセルを踏み込むと、冷たく潤った山の空気が車内になだれ込み、金沢市や白山市の市街地ではシートを濡らすほどだった汗が、すっと引いていきました。今回は石川県側からホワイトロードを走り、岐阜県白川村・白川郷へ抜けていきます。


白山白川郷ホワイトロード、石川県側の中宮料金所(宮武和多哉撮影)。

 2県にまたがるホワイトロードの周辺地域は平野部の猛暑が厳しく、特に金沢市、小松市などの加賀平野(金沢平野)では低気圧の通過後に起きる「フェーン現象」などで最高気温が30度台後半まで上がることも。しかし白山の山なみに向かって車を走らせていると、少しづつ空気が冷たくなっていきます。道路脇の用水路に勢いよく流れる冷たい水は、山なみから手取川に流れ込む水の恵みを物語っているかのようです。

 ホワイトロードの入り口である白山市瀬女(せな)地区は、冬場にはスキー場が営業するほど、平野部と気候が異なります。なおホワイトロードは雪で閉ざされる期間も長く、例年の営業期間は6月から11月後半まで。営業開始とともに待ち構えたように訪れる人も多いそうです。

 さらに山へ分け入り、1200年もの歴史がある中宮温泉の入口を通過し、「中宮料金所」からいよいよホワイトロードへ入ります。流紋岩、玄武岩などの溶岩からなる険しい岩肌がそそり立つ崖の下を上り、峠を目指していきます。

平地より圧倒的に涼しい 「ふくべの大滝」は天然ミストシャワー!

 石川県側のホワイトロードの見どころといえばやはり、高低差86mもの断崖から流れ落ち、剥き出しの岩盤に当たって水飛沫を上げる「ふくべの大滝」でしょう。雨が振った翌日などは目の前の道路まで天然のミストシャワーが降り注ぎ、このエリアの涼しさは沿道の中でも群を抜いています。

 ただこの近くにある駐車場はスペースが限られ、観光シーズンには貸切バスも含めて駐車マス争奪戦となることも珍しくありません。石川県側ではこの滝を含めて「蛇谷八景」と呼ばれる8つの滝が続くので、それぞれの滝へこまめに立ち寄りたいものです。なお「蛇谷圓地駐車場」から続く谷底には足湯や露天風呂がありますが、2022年7月現在は利用できません。

 道路は「ふくべの大滝」の近くで長大なロックシェッド(落石除け)を抜け、何度も大きくカーブを描き高度を上げていきます。沿道には雄大な景色が広がるものの、「急カーブ注意」「サル・野生動物飛び出し注意」などの看板が大きく掲げられ、運転は決して気を抜けません。そして最高地である標高1380mに達する付近で「三方岩隧道」を抜け、いよいよ岐阜県白川村へ入っていきます。

 その先にも、雨が降ると山肌一面が滝になる場所(通称:太平洋)があるなど、自然が作り上げた特異な景観が続きます。そそり立つ断崖は初夏には新緑、秋には紅葉で彩られ、まるで壮大な屏風絵を見ているかのよう。その景色は、休憩所ごとにこまめに停車して眺めても飽きません。


沿道は見晴らしもよく天空の道路の趣(宮武和多哉撮影)。

 ホワイトロードの沿道は自然現象を学ぶ学習の場としても絶好の場所です。例えば前述の「手取川の豊かな水」「フェーン現象」も「雲が山なみに当たることで山に水が蓄えられ、その流れは手取川となって金沢平野に恵みをもたらす」「水分を失った風は高温になって平野部に吹きおろし、フェーン現象を起こす」、こうした自然のサイクルを体感で学ぶことができるため、このルートは課外学習の定番としても重宝されているのだとか。

 そうした遠足や課外学習の貸切バスや、観光のツアーバスなどは、コロナ禍の影響でめっきり減少したものの、現在ではかなり戻ってきていました。

もともとは「白山スーパー林道」なぜ改称した?

 ホワイトロードは前出の通り、もともと「白山スーパー林道」として整備されたものです。

「スーパー林道」は大規模な山林開発を目的として、昭和40年代から平成初期にかけて23路線、約1790kmが全国に整備されました。ただ、各地で反対運動も起こり、建設が頓挫したり、森林開発の環境の変化でいわゆる“負の遺産”と化したりしたケースも多く見受けられます。

 しかし、白山スーパー林道は沿道の眺めが抜群に良かったこともあって、大型バスでもすれ違いが可能な道路幅で観光道路化が図られました。1977(昭和52)の有料道路化後は前述の中宮温泉などを含めて白山山麓の来訪者数が大幅に増加するなど、観光面で成功を納めたと言えるでしょう。

 しかし1994(平成6)年の12.7万台をピークに通行台数は減少し、2014(平成26)年には5.5万台になるなど、減少に歯止めがかからない状態に。そこで道路名の変更を含む、抜本的な改革が進められました。

 というのも、この道路は標高1000m地帯に登っていく割には急勾配も少なく比較的走りやすいのですが、「林道」という響きによって「運転が難しい」「舗装されていないのでは」というイメージを持たれていたのです。何より、普通車でも片道3240円という高額な料金がネックとなっていました。愛称を公募のうえ「白山白川郷ホワイトロード」と改称し、料金を1600円(現在は1700円)に下げることで、この道路は一気に盛り返します。


白山白川郷ホワイトロード(宮武和多哉撮影)。

 同時期には世界遺産・白川郷へ国内外からの来客が急増し、東海・北陸一帯を数日かけて巡る観光ルート(昇竜道)も広く知られるように。ホワイトロードは金沢〜白川郷〜飛騨高山をつなぐゴールデンルートして、大きな期待を寄せられるようになっていたのです。新しい名称に「白山」「白川郷」という両県の地名が明記されたことも、観光地を周遊してほしいという願いが込められていたと言えるでしょう。

 比較的走りやすいとはいえ、カーブは多く、険しい山岳地帯を抜けるとあって、落石や倒木などもちょこちょこと見受けられます。息を呑むような絶景を眺めながらのドライブもよいですが、こまめに休憩をとり、ゆとりを持って「脱・猛暑」なドライブを楽しむことをお勧めします。