悩めるイーサリアムに現れた「救世主」とは?(写真:シルバーブレット/PIXTA)

仮想通貨においてビットコインに次ぐ存在のイーサリアム。そのイーサリアムで大型アップデートが動いています。

DAO(分散型自立組織)、NFT(非代替性トークン)、ステーブルコインほか、仮想通貨とWeb3をめぐる最新の動向をアメリカ大手暗号資産取引所の日本代表・千野剛司氏が解説した『仮想通貨とWeb3.0革命』から一部抜粋、再構成してお届けします。

注目すべきは「ステーキング」と「シャーディング」

イーサリアムは、このままイーサリアムキラーにやられっぱなしというわけではありません。スケーラビリティの問題を認識し、取引記録を保管するブロックスペースで発生する「渋滞」を解消しようと既に動き出しています。これが「イーサリアム2.0」と呼ばれる大型アップグレードです。

イーサリアム2.0は、最近、コンセンサスレイヤーという名称に変更されました。理由は、今のイーサリアム(イーサリアム1.0)と異なるものができるわけではなく、あくまでもともとあったイーサリアムの構想の1つとしてのアップグレードだからといわれています。しかし「イーサリアム2.0」はすでに業界的に定着した用語であることから、この記事では、便宜上「イーサリアム2.0」を使いたいと思います。

イーサリアム2.0の目玉となるのが、イーサリアムの「ステーキング」と「シャーディング」です。ステーキングは、一定の仮想通貨をネットワークに保管して取引記録の検証に貢献することで報酬をもらう行為です。シャーディングとは、データベースを分割することで負荷を分散させる技術を指します。

イーサリアムキラー全てがPoS(プルーフ・オブ・ステーク)をすでに本格的に採用しています。仮想通貨市場全体を見てもPoS銘柄の存在感は年々高まっており、機関投資家向けにステーキングサービスを手がけるステークド(Staked)によりますと、2021年終了時点で仮想通貨全体の時価総額に占めるPoS銘柄の割合は31%を記録しました。1年間での上昇率は127%です。ビットコインを除外すると、PoS銘柄の占有率は50%に到達します。

また、仮想通貨の時価総額ランキングトップ10で5銘柄、トップ100では25銘柄がランクインしました。未上場のスタートアップ企業で企業価値が10億ドルを超える企業をデカコーンと呼びますが、PoS銘柄で時価総額が10億ドルを超えるいわば「PoSデカコーン」は8銘柄も誕生しているのです。

2021年、イーサリアムの時価総額は415%も伸びました。これは伝統的な金融市場の常識から考えれば、驚くべき成長率です。しかし、2021年の時価総額トップ10だったPoS銘柄の時価総額の伸び率を見てみますと、ソラナは9446%、カルダノは530%、テラは1万502%、ポルカドットは413%であり、イーサリアムのパフォーマンスは相対的に見劣りしています。

しかし、悩めるイーサリアムに「救世主」が現れました。イーサリアムのレイヤー2ソリューションです。イーサリアムのレイヤー1が実際に取引記録をブロックチェーンに残す場所であるのに対して、レイヤー2は異なるレイヤーで取引の処理を行うことを可能にすることで、レイヤー1への負荷を減らします。ビットコインでいうところのライトニング・ネットワークがレイヤー2にあたります。

代表的なイーサリアムのレイヤー2は、アービトラム(Arbitrum)、オプティミズム(Optimism)、スタークイーエックス(StarkEx)です。イーサリアムを救うための連合軍と呼べるでしょう。レイヤー2を使うことで、取引記録の処理能力が向上しガス代を大幅に削減することができるようになります。

ステークドによると、ガス代の削減率はアービトラムは88%、オプティミズムは94%、スタークイーエックスが100%です。また1秒あたりの取引数は、イーサリアムが15回であるのに対して、アービトラムは最大2万回、スタークイーエックスは9000回です。

イーサリアムのレイヤー2には、イーサリアム2.0が完了するまで、イーサリアムへの需要をつなぎとめる役割が期待されています。PoSのデカコーン対イーサリアム連合軍の戦いは今後も注目です。

世界中の企業が巨額の資金を投じるマイニング設備

現在、世界中の企業がマイニング施設の建設や機器購入に巨額のマネーを投じています。

アメリカではナスダック市場を中心にマイニング企業が複数上場しています。

マイニングで消費する大量の電力が環境に悪いとの声が世界中から出ています。有名なのは、テスラのイーロン・マスク氏が、「環境への負荷」を理由にテスラ車を買う際の支払い手段としてのビットコインの受け入れを取りやめたことでしょう。

ただ、最近では北米を中心に再生可能エネルギーを使ったマイニングへの意識が高まっています。ビットコイン・マイニング協議会によりますと、2021年時点で既に世界のマイニングに必要な電力の56%が再生可能エネルギーでまかなわれています。

対照的にPoSは、環境フレンドリーな合意形成アルゴリズムといわれています。イーサリアム財団は、PoSに移行したらPoW(プルーフ・オブ・ワーク)で使う電力消費量の99.9 5%を削減できるという試算を発表しました。PoSは、高性能のコンピューターを必要とせずスマートフォンからの参加が可能です。

PoSにはマイナーが存在しておらず、代わりにバリデーターと呼ばれる存在が取引記録の検証を行います。一定の仮想通貨をPoSのネットワークで長期保有(ロック)することで、バリデーターとしてブロックを検証・承認するタスクがランダムに割り当てられます。

その対価として仮想通貨を報酬として受け取ります。これが、ステーキングと呼ばれます。これにより、PoWで見られたようなマイニング事業者の競争がなくなり、電力の消費量が大幅に削減されることになります。

イーサリアムのステーキングは、一部ですでに開始されています。これは、2020年12月に立ち上がったイーサリアム2.0の基盤となるブロックチェーン(ビーコンチェーンと呼ばれる)を使って行われています。これを現在のイーサリアムのブロックチェーンと統合することで、イーサリアムのPoSへの完全移行が実現します。イーサリアムのPoSへの移行は、「統合(The Merge)」と呼ばれており、2022年中に実施される予定です。

さて、環境問題ももちろん大切ですが、PoSはスケーラビリティ問題の解決とどのように関係しているのでしょうか? PoSは、イーサリアム2.0のもう一つの目玉であるシャーディングを実施するために必要であり、シャーディングが直接的なスケーラビリティ問題への対策として位置づけられます。

「デジタルゴールド」としてのビットコイン

インフレヘッジや分散投資を目的として、アメリカを中心にバランスシートにビットコインを追加する上場企業も増えています。2021年、上場企業の中で最もビットコインを購入したのは、ナスダックに上場するマイクロストラテジーです。1年間で5万ビットコインを購入し、上場企業が保有するビットコイン総額の6.5%を保有しています。

ビットコインを保有する上場企業を国別に見ると、トップ5のうち4社がアメリカ企業でした。

またアメリカではマイアミとニューヨークという大都市で仮想通貨の受け入れ体制も一気に進みました。


さらに、最近、仮想通貨に対して好意的な州として注目を集めているのが、テキサス州です。同州は、広大な土地や安い電気料金を背景にビットコインのマイニングが盛んな地域です。最近は、同州の政治家も積極的にビットコインや仮想通貨を取り入れる政策を発表しています。

例えば、2016年の大統領選挙でトランプ前大統領と共和党の候補者争いをしたテッド・クルーズ上院議員は、ビットコインでの給与の一部を受け取るなど仮想通貨支持派として代表的な政治家になりつつあります。

アメリカがビットコインに一目を置くようになった理由は何でしょうか? 大きな背景の1つとして、高まるインフレに対応できる資産としての期待があります。

前回:「ブロックチェーン」知らないと損する重要背景(6月28日配信)
前々回:「Web3.0と仮想通貨」今さら聞けない基本中の基本(6月21日配信)

(千野 剛司 : Kraken Japan代表)