DeNA・大田泰示【写真:荒川祐史】

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4点リードをひっくり返されるも9回に同点打&神走塁

■DeNA 6ー5 阪神(30日・横浜)

 DeNA・三浦大輔監督の起用がズバリ当たった。6月30日、本拠地・横浜スタジアムで行われた阪神戦に6-5で9回逆転サヨナラ勝ち。「2番・右翼」で10試合ぶりにスタメン出場した大田泰示外野手は、まず初回に中前打を放ち、チームの4点先行に貢献した。1点ビハインドとなって迎えた9回無死一塁では、起死回生の同点二塁打。さらに2死後、嶺井博希捕手の右前打で二塁から本塁へ突入し、相手捕手のミットをかいくぐる“神走塁”でサヨナラのホームをもぎ取った。

 試合後、大田は本拠地のお立ち台で拳を突き上げながら「ヨコハマ、サイコーッ!」と絶叫。昨季国内FA権を取得しながら日本ハムを自由契約となり、東海大相模高時代を過ごした神奈川へ舞い戻った男が、思いの丈を吐き出した瞬間だった。

「泰示の状態はいいですし、(スタメンの)間隔が空き過ぎるのもよくないと考えました」。三浦監督はスタメン起用の理由をそう語った。1点を追う9回、先頭の1番・桑原が左前打で出塁。3番の佐野はリーグトップの打率を誇り、4番の牧も控えているだけに、普通の2番なら送りバントの場面だろう。ところが、三浦監督は「送りバント? 全く考えなかったです。泰示を出す以上、あそこは任せました」と言い切る。

「打てのサインだったので、いくしかないと勇気を振り絞りました。ゲッツーを打ってしまったらどうしようという考えも頭をよぎりましたが、思い切っていきました」と言う大田は、阪神の守護神・岩崎の外角高めに浮いたチェンジアップを一閃。打球は左翼フェンスを直撃し、一塁走者の桑原が一気に同点のホームに滑り込んだ。

 実際のところ、プロ14年目の大田の通算犠打数はわずか3。巨人時代の2011年に1つ、2013年に2つあるだけで、以降足掛け9シーズンは1つも記録されていない。この日は初回にも、桑原の左前打に続き、送りバントの素振りも見せずに中前打を放ち、チャンスを広げて佐野の先制適時打、宮崎の2点適時打、森の適時打へとつなげていた。

三浦監督も信頼「泰示は試合でもベンチでも戦力です」

 殊勲はこれだけではない。9回2死後、嶺井が詰まりながらゴロで一、二塁間を抜くと、大田は二塁から快足を飛ばし本塁へ突入。右翼手・佐藤輝の好返球でタイミングはアウトに見えたが、頭から滑り込みながら捕手・梅野のタッチをかわし、サヨナラのホームイン。阪神サイドがリクエストしたが、判定が覆ることはなかった。大田は「(タッチを)よけるしかないと思い、頑張って長い腕を伸ばしました」と茶目っ気たっぷりに笑った。

「みんなが救われました」と三浦監督はしみじみと振り返る。初回に4点を先行しながら、これまで奮闘してきたリリーフ陣がつかまり、いったん逆転を許していた。しかも5回の失点は、これまでチームを牽引してきた牧のエラー絡みだった。そのまま負けていれば、チームのムードは地に落ちていたかもしれない。

 三浦監督は改めて「泰示は試合に出ていても出ていなくても、ベンチを盛り上げて戦ってくれている。試合でもベンチでも戦力です」と称賛した。ムードメーカーの大田がヒーローとなったことで、試合終了後もベンチ裏のロッカールームからは、興奮した選手たちの絶叫が止むことなく聞こえてきた。スタンドで観戦していた南場智子オーナーも、「ナイスゲーム、ナイスゲーム」と球団関係者に頭を下げながら、祝福にベンチ裏を訪れたほどだった。

 ヤクルトが独走態勢を固め、マジック点灯が秒読みとなる中、現在ヤクルト以外のセ5球団で唯一、自力優勝の可能性を残しているのがベイスターズ。セ界の灯を守る責任も負っている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)