世界初の自動運転「レベル3」登場も複雑化する使用条件 - 森口将之
※この記事は2021年08月03日にBLOGOSで公開されたものです
複雑化する自動運転のレベル分け
自動車の自動運転が話題になるとき、必ずと言っていいほど出てくるのがレベル分けだ。
現在のレベル分けは米国のSAEインターナショナル(自動車技術者協会)が制定したものがベースになっていて、レベル0から5までの6段階あり、数字が多いほどレベルが上になる。
日本政府の戦略である「官民ITS構想・ロードマップ」によれば、レベル0は加減速と操舵のすべてを人間のドライバーが行い、レベル1ではシステムが加減速または操舵の支援を限定的な領域で実行可能。
レベル2では加減速と操舵の両方の支援を限定領域で行えるとある。ここまでは運転主体は人間になる。
これがレベル3になると、運転主体が人間からシステムに移り、システムがすべての運転を限定領域で実行することになる。
ただし、システムによる運転の継続が困難な場合は、人間のドライバーは介入要求などに対処する必要がある。レベル4ではこの条件がなくなり、レベル5では限定領域もなくなる。
かつてはレベル2でも自動運転という言葉を使うメーカーやメディアもあったが、誤解による事故が多発したことから国土交通省の指導が入り、現在はレベル1と2は運転支援車、レベル3は条件付き自動運転車、レベル4は自動運転車、レベル5は完全自動運転車と呼び分け、違いを明確にしようとしている。
しかしながら現在、このレベル分けだけでは運転の自動化の程度を正確に表すことが難しくなってきているのも事実だ。
レベル2でも一部車線でハンズオフが可能な場面も
一般的には、前車に追従して加減速を自動で行い、なおかつ同一車線の走行を維持するためにステアリング操作を支援するのがレベル2とされている。
しかし、近年は日産自動車「スカイライン」に装備される「プロパイロット2.0」のように、高速道路などでの同一車線走行時はステアリングから手を離しても良い、いわゆるハンズオフを認めている車種もある。
ハンズオフを可能とした車種には、高精度地図を搭載したものが多い。高精度地図はダイナミックマップとも呼ばれており、自動運転を前提として車線や道路標識、周囲の建物まで網羅したデジタル地図のことである。
でも同じレベル2なのにハンズオフは一部のみなのは、わかりにくいという人もいるだろう。
一部ではこれを差別化するために、ハンズオフが可能なものはレベル2+という新しい表現を使っているが、この主張はSAEの基準とは無関係。内容も厳格に規定されたものではないので、さらなる混乱を招く可能性がある。
レベル3のアイズオフでも視線移動は”左右のみ”という条件付き
一方のレベル3は今年3月、世界で初めて公道を走れる市販自家用乗用車が、本田技研工業(ホンダ)「レジェンド」の追加グレードとして発売された。
100台限定のリースという形ではあるが、筆者も発売直後に高速道路などで、「ホンダセンシングエリート」と呼ばれるこのシステムを試す機会に恵まれた。
レジェンドのレベル3では、スカイラインなどのハンズオフに加えてアイズオフ、つまり脇見してもいいことになった。なので、インパネ中央のディスプレイでテレビやビデオを見ることができる。
ただし現状ではシステムの性能レベルの関係もあり、レベル3が使えるのは高速道路などでの50km/h以下での走行、つまり渋滞時に限られる。
一般道路はまだ高精度地図の用意がないので使えないし、高速道路でも50km/h以上になると、自動的にハンズオフのレベル2に移行する。
またアイズオフといっても今回のレジェンドの場合は、左右方向の視線移動のみ許されていて、スマートフォンを見るために目線を下に落とすと居眠りしていると見なされ、レベル3は終了する。
このように世界初のレベル3といっても、条件はかなり限られている。レベル分けの定義には限定条件という言葉が入ってはいるが、数字が2から3に変わるほどの差はあるのか?と感じる人もいるだろう。
物流、移動サービスでも用途ごとの実証実験が進む
ここまで自家用車における自動運転に絞って書いてきたが、自動車の自動運転は自家用車限定のものではない。前述の官民ITS構想・ロードマップでは、自家用車に加えて物流サービス、移動サービスの3部門が明記してある。
このうち物流サービスは、当面は高速道路でのトラックの隊列走行が主であり、実証実験では2台目のトラックに運転手が乗らない状態での走行を成功させている。
ただし自動運転レベルは単独での運転の自動化を区別する指標なので、トラックの隊列走行はレベル分けには当てはまらない。
一方の移動サービスは2016年、ゴルフ場などで使われているヤマハ発動機の電動カートを地域輸送用として走らせていた石川県輪島市で、自動運転レベル2の調査走行を始めた。
バスのように走行ルートが決まっているので、ゴルフ場で実用化している自動運転と同じように、道路に誘導線を埋め込む形を取っている。
また同じ2016年からは、欧州連合(EU)が研究開発資金を一部援助した「シティモビル」プログラムから生まれた10~15人乗りの小型電動シャトルが上陸を始め、国内各地で実証実験を重ねてもいる。
このうち茨城県境町では2020年から、フランス・ナビヤ社「アルマ」を使ったレベル2自動運転がスタートした。自治体が運行する定時定路線バスの自動化としては日本初の事例だ。
境町でも使われる小型電動シャトルは、レベル4を前提として開発されたので、ハンドルやペダルはおろか運転席すらない。
現状ではコントローラーを持った乗務員が乗っている。自家用車の自動運転とは逆のアプローチで、SAEのレベル分けそのものが自家用車を念頭に置いたものであることがわかる。
一般向けにわかりやすい自動運転レベルを設けるべき
さらにレジェンドのレベル3対応車発売と同じ今年3月には、福井県永平寺町で移動サービスのレベル3も実現した。
こちらは集中管理室で遠隔監視するスタイルで、まず前年12月から乗務員が乗るレベル2を導入し、3月から走行ルートが短い土日祝日に限り自動運転が実現した。
永平寺の事例では鉄道の廃線跡を活用した遊歩道を走っており、車道でないことは自動化には有利だが、動画で見る限り問題なく走行していた。
ルートが長くなる平日は一般道路との交差点が含まれるためもあり、乗務員が同乗したレベル2になる。こうした区分けも理解しやすい。
つまり永平寺の場合は、一回の乗車中でレベル2とレベル3が切り替わることはない。しかし、レジェンドの場合は同じドライブ中でも渋滞時はレベル3、渋滞が解消するとレベル2と切り替わる。
高速道路走行中は常にアイズオフでスマートフォンを見ても問題ない領域に達してこそ、真のレベル3だと思う人もいるだろう。
自動運転レベルはそもそも、SAEという自動車技術者の集まりが考え出した、技術者向けの指標だ。それをメーカーやメディアなどが一般ユーザー向けに使いはじめたから、誤解が生じたりしているのではないだろうか。
自分もこうやって記事にしているので人のことは言えないが、道路条件は高速と一般の2種類として、その中で「手放しできます」「スマホ使えます」「居眠りできます」と分けたほうが、わかりやすいのではないかと思っている。