※この記事は2021年07月31日にBLOGOSで公開されたものです

東京五輪が始まったな。連日連日メダル獲得のニュースに触れるとやっぱり気持ちが昂るよ。それだけに無観客の会場はむなしいし、1年延期した結果が今の状態だってことには納得いかないな。アメリカで大谷翔平選手が出るゲームの観客席を見れば、日米の国力の差が一目瞭然だよ。

五輪開催にしがみつきながらワクチンが確保しきれない。言ってることに実行が伴わないのは自公政権の実力だよな。あのね、今から思えばの話だけど、ワクチン接種って高齢者からでなく、若者から優先してたほうが日本のコロナ対策は良かったんじゃないかな?

だって、高齢者のほうがコロナ対策により慎重だもの。むやみに街を出歩いたりしてないよ。現に働いたり出歩いたりで日本を動かしている層って20代~50代だろ? その年齢層から先にワクチンを打ってたらどうなってたかな、って思うんだ。今の第5波はあったのかなって。

高齢者は重症化しやすいから年寄りから守っていこう、ワクチンが始まるまでその考えが当然だと思ってたけど、もしかしたらそれって裏目だったのかもって・・・。

長すぎた入場行進 代表がいっぺんに入れば20分で済む

まあ、結局ワクチンが半端な状態で五輪は開幕した。開会式を見た感想? じゃあ先に、良かった点から言っていこうか。良かったのは新しい国立競技場の座席。一色にせず市松模様みたいなデザインにしたことで無観客に見えなかった。あれは座席がガラガラに見えるのと、誰かいるように見えるのとじゃ大違いだよ。

建築した隈研吾さんもまさか五輪の開会式が無観客になるとは想定しなかったろうけど、いい仕事したよ。ケガの功名かな(笑)。

あと良かったっていうと・・・うーん・・・。むずかしいな、みんな思っただろうけど全体に長かったよな。ソーシャルディスタンスを取るってことで選手の入場に時間がかかったのはわかるけど、ああやってゾロゾロと出てくる入場行進がこれからも必要なのか、一度考えたほうがいいよね。

全部で205の国と地域だろ。各選手は競技で見られるんだから、どこも国旗を掲げた2~3人ずつでいいよ。そうしていっぺんに入ってくれば入場なんか20分で終わるよ。

ゾロゾロ出てきて、やたら手にスマホ持って記念撮影してただろ。「スマホ歩きは危ないからやめましょう!」って駅のポスターに貼ってあるよ。あれじゃ、世界中に「スマホ歩きしましょう」って言ってるようなもんだよ(苦笑)。

オープニングの開会式の選手入場は簡素でいい。そのぶんラストの閉会式で選手たちが自由に参加すればいいんだ。57年前の東京五輪(1964年)はいい閉会式だったよ。解放感もあったからか、各国の選手たちが行儀よく出てくるのをやめて、みんなバラバラになだれ込んで入り乱れてるんだ。そうして国境を越えて交流してね。あの東京五輪の閉会式で初めてそんなふうになったんだ。画期的だった。それで充分だよ。

ルールを守れないバッハ・橋本両会長の時間超過スピーチ

あと長かったと言えば、言わずもがなだけどバッハ会長のスピーチだな。言ってた内容も「言い訳」ばかり。あんなのだらだら聞かされても・・・って話だよ。

編集部)あの場面、橋本聖子東京五輪・パラリンピック組織委員会会長が6分半、バッハIOC会長が13分、ふたり合わせて20分でした。あらかじめの持ち時間はふたり合わせて9分だったそうです。

IOCと東京五輪・パラリンピック組織委員会の両会長が「時間」を守らないんだから、五輪も推して知るべしだな。五輪はスポーツの大会だ。サッカーでもバスケットボールでも柔道でも多くのスポーツには試合時間というルールがある。全員がそのルールに従って競技をしている。なのに、大会を運営するトップが決められた時間にルーズじゃ、どうしようもないよ(苦笑)。

だから、陛下の開会宣言が際立って見えたよ。言うべきことをおっしゃってご自身の役目をきちんと果たされる。素晴らしいことだなって思ったよ。

メッセージが感じられなかったプログラム

開会式は色んなプログラムを見せてたけど、全体に散漫だった。東京五輪であること、日本で開催すること、東北の復興がどういう状況であるかを世界に見せること、そういうトータルのメッセージを大きくつかんで世界に見せるには至ってなかったよ。これが東京五輪なんだっていう宇宙が見えなかった。小さくこま切れなものをつなぎ合わせたっていう印象だ。

終わってみて色んなものを味わったけど、メインディッシュが出てこないで、小皿の料理ばかり食べた感じ? とにかく色んな人の口に合わせようとしてるっていうか、和洋ゴチャゴチャしてたな。そういう気遣いは選手村の食堂メニューだけで充分だよ(苦笑)。

多様性とか調和とか、そういう意識なのかもしれないけど、それがことごとく違うように感じた。日本と東京をどう発信するかって言ったら、オリジナルをもっと尊重すればいいのにって思ったよ。木遣りなら木遣りで見せればいいのに途中からタップが加わったりしてさ。あのタップダンサーが有名な方だとしても、世界の目で見たらタップはハリウッドでありブロードウェイなんだよな。

どうして東京で、わざわざアメリカを感じさせるんだろうってね。もしタップをやるんだったら、たけちゃん(北野武監督)が映画『座頭市』やったような下駄タップを大人数の群舞で迫力満点で見せるとか、もっと「和」に取り込まないと。たぶん取り込みきれてないから半端に見えちゃったんだ。

『イマジン』を使った場面も、なぜって思ったよ。ジョンレノンの奥さんが日本のオノヨーコさんだからなの? 『イマジン』は素晴らしい曲だけど、それはすでに世界中が知ってるよ。わざわざ今この時代の東京五輪に使う曲じゃないと思ったな。

別の曲でいいなら東日本大震災のあとにNHKが流し続けてる『花は咲く』のほうが、いいと思う。「復興五輪」を掲げてるわけだし、世界の人たちが「何の歌だろう?」って思って、その意味を知るキッカケになれば大きなメッセージとして伝わるんだから。

市川海老蔵の歌舞伎 なぜジャズピアノとコラボ?

市川海老蔵さんの場面も、もったいないな・・・って思った。歌舞伎は世界に誇れる日本の伝統文化だよ。海老蔵さん、コロナで延期になってしまったけど十三代目・市川團十郎という大名跡を襲名する日本の宝なんだ。歌舞伎に大きな名前は幾つもあるけど團十郎はその頂点なんだから。だからこそ、海老蔵さんを見せるなら、奇をてらわず、歌舞伎そのままが一番いいんだ。

あの場面、ジャズピアノとコラボになったよね。そういう実験性もユニークだとは思うけどわざわざ東京五輪で見せるものではないんじゃない? 日本が世界に見せるべきなのは、そういう変化球じゃなく、まっすぐの直球でいいんだよ。伴奏はピアノではなく三味線に長唄でいいんだ。

なんだか、江戸前の寿司を出したと思ったら、そこにドレッシングを掛けちゃうような演出が多かったかな(苦笑)。演出チームに野村萬斎さんが残ってたら全体にどうなってたかなってしみじみ感じちゃったな・・・。

長嶋茂雄さんの聖火リレー 苦しさが伝わってきた歩行姿

聖火リレーはバランスが良かったね。スポーツ界のレジェンドたちに医療従事者や東北の子どもたちもいたね。長嶋さんが登場してビックリしたよ。昭和11年(1936年)生まれで85歳、長嶋さんと俺は同い年なんだ。ずっと巨人ファンで生きてきたし、それは長嶋茂雄さんというスターがいたからでもあるし思い入れも人一倍だからね。

王貞治さん松井秀喜さんが長嶋さんが歩くのを支える形だったけど、あれは周りの意向なのか、それとも長嶋さん本人の意向なのか、どうだったんだろ? あれを見た人は「長嶋さん、体が不自由なのに頑張ってる」って感じた人が多かったと思うんだ。

だけどね、半身麻痺の方がああいうふうに何メートルかを歩くのって本当にツラくてキツいんだよ。同じ思いをされてる方や、ご家族や、その方面の医療やリハビリを知ってる方ならわかると思う。だから俺の目には「頑張ってる」という姿も見えたけど、同時に「痛々しいな」っていうふうにも見えたんだ。

長嶋さん、あの歩き方だとおそらく日常の多くは車イスを利用してると思う。だからね、背伸びせずに車イスで登場しても良かったんじゃないかな。等身大の姿でね。その車イスを王さん松井さんが押せば微笑ましいよ。長嶋さんも苦しくないからもっと笑顔で手を振れる。そうして次の走者に聖火を渡す時だけ立ち上がってみせるとかね。

長嶋さんがキツそうに歩く姿から伝わるのは「ツラいのにあんなに頑張ってる」という印象だろ。長嶋さんがもしも車イスでずっと笑顔だったら「長嶋さん車イスなのか、それにしても楽しそうだな」という印象になる。どっちにも意味があるだろうけど、俺は後者のほうを見たかった。ツラくても頑張る姿は尊いけど、頑張りすぎずに笑ってる姿のほうがやすらぐよ。

俺さ、親友の立川談志が亡くなる5ヶ月前かな、談志が乗った車イスを押したことがあるんだ。あれって押すとわかるけど、支えられる側と支える側がすごくつながるんだよな。談志とは長年わかりあってきた仲だったけど、車イスを通じてつながった感覚はとても印象に残ってる。

聖路加国際病院の名誉院長だった日野原重明先生も晩年は車イスに乗ってた。でね、ニコニコしてたよ。「まむしさん、車イスは楽しいよ~、みんなが親切にしてくれるよ~」って(笑)。

最終ランナーの大坂なおみは時代を象徴

2回目の東京五輪が始まったからだけど、なんだか57年前(昭和39年・1964年)の東京五輪を思い返しちゃうね。開会式は10月10日だった。前日まで大雨だったけどスカッと晴れたんだ。NHKの実況アナウンサー(北出清五郎さん)が名調子でさ、テレビ中継の第一声が「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和でございます」ってね。

最近の開会式はイベント要素が強くてライトアップや花火の為なのか、アメリカの放送局の都合なのか、夜ばかりやってるだろ。でも、スポーツの祭典なんだからさ、青空の下って自然だよね。でも真夏に五輪をやってる限り日中の開会式は熱中症で倒れちゃうから、やらないほうがいいんだろうけどね(苦笑)。

前の東京五輪の開会式で最も印象的だったのは、聖火リレーの最終ランナーだった坂井義則さんだな。1945年8月6日に広島に原爆が落とされた日に広島で生まれた方で、当時19歳。早稲田で陸上をやってた青年だ。日本が戦争でボロボロになって、そこから立ち上がって復興した姿を世界中に発信しようっていう意義を、坂井さんという聖火ランナーに託したんだ。

聖火の最終ランナーって、そのオリンピックの一番のシンボルだろ。今回、大坂なおみさんを選んだことも素晴らしいよ。今の時代を象徴する方だと思う。だけど、この東京五輪はなぜ開催するのか、世界にどんな日本を発信しようと始まったのか、それは東日本大震災からの復興を世界に見せることだったよね? だから一番の大義がどこかですり替わっちゃったんだなって思ったよ。

期待が膨らむ記録映画

前の東京五輪では市川崑さんが総監督で映画『東京オリンピック』を残している。記録だけにとどまらない美しい映像をふんだんに取り入れた見事な映画だよ。あと、オリンピックのポスターも名作でね、デザインが亀倉雄策さんだったかな。

編集部)調べましたら、市川崑監督は当時、亀倉雄策さんがデザインした東京五輪の公式ポスターを見て、その美しさに感動して、記録映画も美しく撮ればいいと思ったそうです。

あと、ベルリンオリンピック(1936年)の時に女性監督(レニ・リーフェンシュタール)が作った記録映画『民族の祭典』が芸術的で素晴らしかったから、その影響もあっただろうね。

市川監督の『東京オリンピック』の中で、80Mハードルの依田郁子選手を映したシーンがあるんだけど、競技前のウォーミングアップでせわしなく動き回ってる中で依田選手が口笛を吹いてるんだ。スタジアムの喧騒の中でそのメロディーがかすかに聴こえるんだけど、何の曲かと思ったら村田英雄さんの『王将』なんだ。「♪吹けば飛ぶよな将棋の駒に 賭けた命を笑わば笑え」って。あれは細かいけどすごいシーンだったな。

今回の記録映画は誰が監督なの? 河荑直美さんか。カンヌ映画祭で度々受賞されてる方だな。映画は後世に残るからね。この時代に何があったのか、きちんと残してもらおうよ。だけど今回の東京五輪は色々ありすぎて、一本にまとめるのはとてもとても大変だと思うよ。思い切って、寅さんみたいにロングシリーズにしてもいいんじゃないの? 『男はつらいよ』じゃなくて『五輪はつらいよ』、全48作とかな(笑)。

(取材構成:松田健次)