パックンに聞くお金のこと「アメリカにはクリスマスに株券をもらう子どももいる。もっとみんなでお金の話をしても良い」 - BLOGOS編集部

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※この記事は2018年04月23日にBLOGOSで公開されたものです

お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンこと、パトリック・ハーランさん。実は、パックンは芸人だけではなく、20年を超える経験をもつ投資家としての顔も持っているのです。

そんなパックンに、日米の金銭教育の違いや投資への姿勢、新社会人の皆さんへのお金に対するメッセージを聞きました。

「確実に稼げる投資は、まず借金返済」と教わった

―日本とアメリカでお金に対する教育の点で、異なっていると感じる点はありますか。

パックン:最も違うなと感じるのは、アメリカの多くの家庭では子どものころから寄付、貯金、投資、消費の4分割で予算を考えることを教えられる点ですね。より単純化して貯金と投資が一体になっていることもあるのですが、幼い頃から寄付という行為を教えてもらっています。

日本でも、神社やお寺に行った際に子どもがお賽銭を入れることがありますよね。それに似た感覚で、毎週教会のミサで行われる「コレクション」と呼ばれる集金にアメリカの子どもは参加するのです。なので、教会に通っている家庭では、「コレクション」の額も、子どもに渡すお小遣いに含まれています。

また、僕の場合、8~10歳ぐらいで銀行口座を作り、小切手を切れるようになりましたね。毎月、小切手の控えを見ながら何にお金を使っていたのかをまとめていました。「○○ドルを遊びに使って、◆◆ドルで服や文房具を買って…」というような今の子どもがアプリなどでやることを手動でやっていましたね。

―10歳ぐらいから家計簿に近いものを?

パックン:記録をつけることをサボっている子は、アメリカでも多いと思います。でも、それほど裕福ではなかった我が家では、母親が何にお金を使ったかを細かく記録し、収支が合うかをチェックしていました。なので、僕の消費行動に対しても非常に厳しくて、貯金や消費の額をチェックされていない記憶がないぐらいです。

また、借金の怖さについても若い頃から聞かされていました。僕自身が借りていた大学の奨学金は利率4~5%台の良心的なものでしたが、それでも「確実にプラスになる投資として、まずは借金の返済」と教わりました。

株式は長期で見ると、平均で年間7%ぐらいの利益を得られるので、奨学金のローンを抱えたまま浮いたお金を返済ではなく投資にまわすという考え方もあるでしょう。でも、それは裕福な家庭や、セーフティネットがしっかりしている国々の方の考え方だと思います。アメリカも年金制度が不確かですし、セーフティネットは穴だらけだと言われていますから、まず借金を返済して貯金、その上で投資しなさいと教わりました。

現在では、ひとくちに「借金」と言っても、「いい借金」もあると考えています。例えば、住宅ローンは「いい借金」の一つです。特に日本の場合は、1%台の金利で35年もお金を借りられるという非常に良心的な制度になっていますからね。

お金の話は「汚い」のではなく「相手を選んで話すもの」

―日本の場合、「お金の話ばかりするのは汚い、みっともない」といった考え方があるように感じるのですが、アメリカではどうなんでしょうか?

パックン:確かに僕らパックンマックンも舞台で、アメリカ人はすぐにお金の話をするというネタをやることがあります。「はじめまして。お名前なんて言うんですか?年収は?」なんて。

でも、実際には気を使う話題であることはアメリカでも変わりません。何故なら、「汚い」、「みっともない」というよりも個人情報であり、相手のプライベートの情報を詮索するようなことは避けるべきと考えるからです。

しかし、アメリカでは親の収入を理解している子どもが多いと思います。多くの子ども達は自分の家庭では家賃、生活費、食費それぞれにいくらぐらい使っているのかを把握しているわけです。実際、一時期、我が家は1食89円でやりくりしていたという記憶が僕にはあります。母がすべて教えてくれました。つまり、お金は汚いのではなく「相手を選んで話すべきもの」だということです。

―日本では、お金に関する様々な知識を教えてもらう機会が少ないように思います。

パックン:ないですよね。教えてもらえるのは、パックンマックンの講演会ぐらいですよ!

ただ、アメリカでは学校で教えてくれます。僕は14歳ぐらいの時に、社会学のカリキュラムの1つとして、人生モデルのようなものを作りました。自分が、「将来どこに住みたいのか」「どんな仕事がしたいのか」といったことをすべて書き出した後に、それを実現するための値段を調べるのです。

例えば、「東京の真ん中、麻布十番で暮らしたい」となれば、家の面積や置きたい家具、乗りたい車まで考えて計算します。今はそうしたシミュレーション計算もオンラインで出来るでしょう。その立地の物件を買って、利率2.5%の35年ローンを組むと、月々の支払いがいくらぐらいになるかわかります。

その上で、自分がやりたい仕事、職種の平均給与を調べてみる。そうすれば、自分が目指している職業が、「麻布十番で暮らしたい」という自分の希望に見合っているかがわかるわけです。

さらに、人生ゲームみたいにサイコロを転がして、クラスメイトと予測がつかないライフイベントの展開を考えたりしました。「3」の目が出たら「親戚のおじさんが亡くなって300万円の遺産がもらえた」、「6」の目が出たら「急病で医療費が200万円」なんていう具合です。

貯金額や生命保険、車の任意保険なんかの話もしていましたね。収入が低い、貯金の少ない人が任意保険に入っていないと、交通事故にあった時、相手の修理代として、とんでもない額を請求されると破産したりします。そしたら「任意保険に入ってないときついなー」なんて。そういう授業をクラスのみんなでやって、とても楽しかった思い出があります。

―映画などで、「アメリカの子供はレモネードを売ってビジネスやお金の仕組みを学ぶ」などというシーンがよくありますね。

パックン:僕はレモネードを売ったことはないですが、雪かきや芝刈りといった仕事をしてお小遣いをもらっていました。

アメリカでは、お手伝いに応じてお小遣いがもらえるという制度の家が多い。お手伝いのサービス別料金表みたいなものがある家もあれば、「あなたの担当は週1回の芝刈りと毎日の皿洗いで、それをこなせばお小遣いを渡しましょう」という家もあります。当然、やらなければもらえない。お金は空から降ってくるのではなく、何かの代償でもらえるものだと教える家庭が大半です。

ただ最近は日本みたいに、ただお小遣いというスタイルに切り替えようとしている家族も多いです。なぜかと言うと、何かをやってお金を稼ぐ制度を4~5歳から教えると、お金をもらわないと何もやらない子供になっちゃうんですよね。「洗濯物を洗濯機に入れて回しといて」って言うと子供が「いいよ。500円!」って。なので、子供に一定のお小遣いを渡しながら、随時お手伝いをしてもらえる親子関係を作っておいた方がまだ健全という考え方もあるでしょう。

―お金の知識は、早い段階から教えていくというケースがアメリカでは比較的一般的なのでしょうか。

パックン:これは特殊な例かもしれませんが、例えば僕の友達にクリスマスプレゼントとして、株券をもらった子がいました。

みんなが自転車やゲーム、おもちゃなどをもらう時に株券をもらったわけです。でもその子は、それをきっかけに「株式とは何か」を学ぶようになりました。炭酸飲料水メーカーの株券だったのですが、その企業の社長の気分になって、我々がその飲料を飲んでいると「どうもありがとう」と声を掛けてきたりするんです。ちょっと生意気な子どもかもしれませんが、株券を通じて、社会はどういうものなのかを勉強するきっかけにしているわけです。

覚えておきたい「72の法則」

―投資や貯金は、早く始める方が有利といわれています。

パックン:新入社員の人たちは、最初の給料をどうするべきかをよく考えて欲しいですね。もちろん飲みに行っていいし、親に仕送りするのもいいですけど、投資に回すことも考えて欲しい。

ご存知の方も多いかもしれませんが、いつも僕は複利の「72の法則」という話をさせてもらっています。自分が投資した額が倍になるまでに掛かる年数を知るには、「72÷金利」という方程式を使えばよい。

つまり、年率の金利3%であれば、投資額が倍になるまでの年数を求めよう。72÷3=24だから24年かかります。金利10%だったら7年強で倍増するわけですね。

なぜ、投資は早く始めるべきかというと、遅れた分の年数を「最初の数年間」ではなく「最後の数年間」だと考えると、非常に大きな差になるからです。

例えば、かなりざっくりの計算になりますが、22歳から25歳までの最初の3年で100万円の貯金をつくり、投資にまわしたケースを考えてみましょう。もちろん上下はするのですが、長い目で見ると、アメリカの株式の平均値上がり率は大体7%ぐらいです。7%の金利で老後まで複利で資産が増え続けるといくらになるでしょうか。

72÷7(利率)は約10なので、10年ごとに投資額はだいたい倍増していくことになります。100万円投資したとすると、10年後である35歳の時には約200万円、45歳の時には約400万円…という風に増えていきます。今の若者は70過ぎまで働くことになるでしょうが、75歳の頃には約3000万円になります。

100万円を利率7%で50年間運用すると…

しかし、投資を始めるのが10年遅れたら、75歳の時でも3000万の半分、1500万円にしかなりません。35歳から投資額を増やすよりも25歳から複利を活かし続けたほうが、その差は大きくなるんです。もちろん、これは非常に極端な例です。株の値段は上下動しますし、リスクもあるでしょう。ただ、複利の力はそれぐらい大きいということは知っておいて欲しいですね。

―投資をしていて、失敗した経験はありますか?

パックン:たくさんありますよ。奨学金を完済できて、投資を始めたのは25歳の時ですし、その後もドットコムバブルの崩壊やアジア危機があって、何回か株券が紙切れになる経験もしています。

そうやって、「自分はあんまり見る目がないかも…」といった経験もしているので、今はなるべく僕は個別の企業には投資しないようにしています。昔は、「オレは賢いぞ。どの株があがるか見抜けるぞ」と思っていたのですが、プロにはなかなか勝てない。

例えば、僕がある企業の株を買おうとする時には、まったく同じタイミングで別の誰かが、その企業の株を売ろうとしている。その取引相手は割と高い確率で僕より株や経済に詳しいかもしれない。そう考えると、恐いなと半信半疑になって、個別企業への投資はあまりしないようになりました。

―投資未経験の人は、一度投資したお金が紙切れになってしまうと、ますます投資が怖くなってしまうと思うのですが。

パックン:確かに。でも、「日本円で貯金する」という行為も、ある意味ではギャンブルという見方もできます。自分がお金を預けた銀行、日本という国が潰れないこと、通貨の価値が維持出来るという「可能性」に賭けているわけですから。

なので、怖いと思う人はリスクを考えて分散投資すると良いと思いますね。投資先を分散すれば、一度にすべて潰れる可能性は低くなりますから。地域、通貨、業界を分散して投資するのがオススメです。

今の若者が引退する50年後に、日本円がどこまで信用されているかはわかりません。なので、自分の老後に備えて分散投資しておいた方がいいんじゃないですかね。分散していれば、やけどする頻度も下がります。現に、僕は十年前のリーマンショックを大損せずに乗り切っています。つまり、怖さも減るのです。

―最後に、初めてお給料をもらう新社会人に向けて、メッセージをお願いします。

パックン:裕福ではない家庭で育った僕は毎日お金のことを考えています。だからこそ、お金の心配をしなくてよくなって、どんなに気分が楽かということがわかる。

英語の表現で、“A penny saved is a penny earned.”つまり「1セントの倹約は、1セントの稼ぎ」というものがあります。仕事をして2万円稼ぐのと、何かを我慢して2万円節約したことを同じだと感じられると良いですね。そして、使う時も、その金額分の対価、喜びを得られると思って使う。そうすれば、お金が喜びの元だということが肌感覚で分かるようになるでしょう。

「お金!お金!」というと夢のないように感じるけど、逆にお金こそ小さな夢の元だと思います。例えば、僕はこういう金銭感覚だから、150円で売ってるコーヒーを、ドラッグストアで100円で売っているのを見つけて「よーし!」と思う。そのちょっとした50円から得られる喜びっていうのが大きいんですよ。お金は汚いものじゃなくて夢の粉、「ドリームダスト」だと考えれば、きれい事かもしれませんが、もっとみんなでお金について話したくなるんじゃないですかね。

アメリカ人もお互いの収入はそんなに話さないけど、日本よりはざっくばらんにはお金が話題になります。日本人は借金の怖さとかを友達同士で話していない気がします。友達同士でお金のことをいろいろ話せるようになると自然と興味もわきますし、知識もつくんじゃないでしょうか。

プロフィール

パックン(本名パトリック・ハーラン)。1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「報道プライムサンデー」(フジテレビ)、「外国人記者は見た!」(BS-TBS)、などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。

2012年から東京工業大学非常勤講師に就任しコミュニケーションと国際関係などを教えている。近著に「ツカむ! 話術」「大統領の演説 」(角川新書)、「世界に通じる子を育てる」(大和書房)、「ひとり外交術」(毎日新聞出版)がある。
公式サイト:http://www.havmercy.co.jp/