※この記事は2018年04月20日にBLOGOSで公開されたものです

矢沢永吉、68歳。今なお第一線を走り続ける、日本を代表するロックシンガーだ。矢沢氏は今年、「69TH ANNIVERSARY TOUR “STAY ROCK”」と銘打ち、東京ドーム、京セラドーム大阪などでライブツアーを発表。同氏はこれに合わせ、今回のツアーからチケットを完全電子化すると宣言した。

国内での電子チケット普及率がまだまだ低い中、矢沢氏が完全電子化に踏み切った理由とは…。ライブツアーへの想いとともに、話を聞いた。【聞き手:藤井徹貫・撮影:平野タカシ】

やってやってやりまくったから、今がある

── 今年で69歳ですね。69=ロック。矢沢永吉にふさわしい歳。

矢沢永吉(以下、矢沢):今年は、69TH ANNIVERSARY YEARと銘打ってやってます。60代になって、69歳が目の前にきたとき、ああ、とうとうここまできたな、と思いました。でもね、俺はこの年までやってやろうとか、考えてたわけじゃない。ただ、ひたすらやってやってやりまくって、走って走って走りまくって、去年はあれをやったから今年はこれをやろうか、来年はあんなのどうかとやっていたら、いつの間にか69歳が見えたというのが事実です。きっとストーンズだって一緒よ。ミック・ジャガーが今、70いくつでやれてるのを、50~ 60歳の頃、想像してなかったと思いますよ。僕も一緒です。ひたすらにやってきただけ。

── 2枚組のアルバム『LIVE HISTORY 2000~2015』を聴きました。矢沢さんが51歳から66歳までのライブ音源。迫力に圧倒されました。

矢沢:あのアルバム最高ですよね。でも、今はあの頃ともまた少し違ってきてまして。それこそキャロルの頃や、ソロになったばかりの頃の曲、その原曲をそのまま大事に、今のフィーリングで歌ったとき、新鮮な発見がいっぱいありました。40年以上も前の曲ですけど、アレンジは当時のまま。違うのは今の矢沢が大事に歌ってることだけ。するとね、ステージの上からお客さんを見ていても、ものすごくフレッシュに聴こえているんだろうなとわかるんですよ。

どれだけ忠実にやろうと、エモーションが確実に熟していますから、その熟したエモーションで歌うと、まったく別のバイブレーションが生まれてくる。それをひしひしと今、感じていますよ。こうやって40何年も現役をやり切ると、新たな発見がいっぱい出てくるんですよね。40年前の曲は、最近ライブに来てくれるようになった若いファンのみなさんにとっては、聴いたことも見たこともない歌だから、食い入るように聴いてくれるし、見てくれる。それを見れば「俺、こんなこと想像せずにきたよな、ありがたいな」と思いますよ。現役でまだここまでやり切れてることにサンキューだね。

チケット100%電子化は「YAZAWAの勘」

── 東京ドームと京セラドーム大阪でのコンサートが発表されました。さすがにドーム・コンサートともなると、気合の入れ方が違いますか?

矢沢:いやいや、いつだって、ヨッシャ!一丁やったるか!ですよ。毎年の武道館だろうが、ホールだろうが、1本1本、ヨッシャ!と思ってステージに出てきました。そういう活動の中の、何年かに1回の区切りであったり、お祭りであったり、そういう意味でのドーム。ちょうど69歳。ロックな年ですから。いいじゃないですか。

こう見えてね、僕はけっこう真面目だから、お客さんがどうのより、自分がやれたかやれなかったかが大きい。去年だって26本のツアーやりまして。後半は体との戦いですよ。僕、手を抜かないから。ファンのみなさんから言われますよ、「武道館で見る永ちゃんも、俺たちの街にきて、市民ホールで見る永ちゃんも、まったく同じだね」って。

── 最高のほめ言葉ですか?

矢沢:そう言われたら、もちろん「サンキュー」と答えるよ。1万人の箱(会場)だろうが、2000人の箱だろうが、ぶっ飛ばさなきゃ。お客さんに、「今日のチケットを手に入れて良かった」、と思わせなきゃ。「え?もう終わるわけ?」と思わせなきゃ。時計を見たら、「おい、もう2時間過ぎてるよ」と言わせなきゃ、ダメよ。「まだやってんのかよ」じゃマズイっすよ(笑)。

── チケットのお話が出ましたが、今ツアーのチケットは電子化されるそうですね。

矢沢:本当のことを言うとね、インターネットだの、電子化だの、僕はそんな詳しくないんですよ。むしろ、自分はすごいアナログな人間だと思ってる。だけど、疎いくせに、ある種、本能的な勘が働くことがあって。理屈や仕組みはわからないけど「こういう時代がくるよね」と感じてしまうことが、以前からありまして。たとえば全然詳しくもないのに、携帯サイトをやる! と即決したり。あれを始めたのは、日本のアーティストの中だと相当早かったと思いますよ。ピンとくるものは、面白がるし、手を伸ばすところは、昔からありましたよ。

そのひとつが今回のチケットの100パーセント電子化。全アーティストを100としたら、まだ20か30くらいしか、完全電子化してないみたいですけど。この68のおじさんが「やれ!」って言ってんだから。それが何故かは説明できない。勘ですよ、YAZAWAの勘。遅かれ早かれそうなるから、今やるべきだ、という勘ね。この「勘ですよ」っていうのが正解じゃないの?詳しくはわからないけど、何かこういう時代がくるなと感じる、世の中なんてそれで動いている気がするけどね。

── 20から30なら、普通、スタッフは「もう少し様子を見ましょうか」と言うものですが。

矢沢:僕はね、「様子を見ましょうか」があまり好きじゃない。様子が見たけりゃ、お前が家に帰って見てろってこと。様子を見るのはNot my job。俺の仕事はFucking right now!です(笑)。

── 決断したら即行動。

矢沢:決断するのも早いし、行動に移すのも早いね。決めたことは早くやりたい。詳しくはないけど、そういう時代が迫ってきてるのを感じているから、「やれ!」と。

「貫け、行くべき、格好悪いことはやめようぜ」

矢沢:一番嫌いなのがグズグズ屁理屈ばかりこいて足踏みしてるヤツ。自分も含めてね。そういう仕組みも嫌い。良くも悪くも我が強いんじゃないですか、僕は。貫け、行くべき、格好悪いことはやめようぜ、それは常に自問自答の中にありますよね。

── 答えや決断を導くときの基準ですか?

矢沢:チケットの100パーセント電子化もそう。我を貫けるか、ここは行くべきか、様子をうかがうような格好悪いことはしてないか、自分に訊いて自分で答えを出したわけですよ。それと、チケットの転売防止にも役立つんじゃないか、これも決め手のひとつでした。かなり前からファンからのクレームがいっぱいきていましたから。「俺たち、こんなに必死になってチケットを手に入れているのに、それでも手に入らなくて悔しがっている仲間たちもいっぱいいるのに、発売してものの3、4日で3倍以上の値段でインターネットに売りに出てる。こんなのありですか?」とかね。

そんなのありなわけないけど、僕らそこまで取り締まれないですから、どうしたらいいのかと思い悩むこともありましたし。そこで100パーセント電子化にすれば、それでも何かしらの抜け穴はあるんでしょうけれども、かなり抑制できるんじゃないかと。そういうところも、今回のチケット電子化のきっかけのひとつではありましたよね。

── 1972年、初の日本のロックバンドとも言われるキャロルでデビューしてから46年。ソロになってから43年。

矢沢:そりゃいろんな出来事がありました。嬉しいこともあれば、嫌なこともありました。それでも、いまだこうしてやり続けられていることへの感謝。そして、新しいものへ、扉を蹴飛ばしてでも突き進めている自分。最高じゃない? だから、ここまできたら、周りがどうのじゃなく、僕らしくですよ。チケット電子化もそのひとつ。誰が何をしたなんて、もはや眼中にないから。我が道を行きますよ。もしかしたら来年あたり、また新しい何かにチャレンジしているかもしれないね。

プロフィール
矢沢 永吉(やざわ・えいきち):1972年ロックンロールバンド「キャロル」のリーダーとしてデビュー。1975年、同バンドの解散後、『アイ・ラヴ・ユー、OK』でソロデビュー。日本のロックシーンの幕開けから現在まで、第一線を走り続けるロックシンガー。代表曲に『時間よ止まれ』『止まらないHa~Ha』。