※この記事は2018年02月25日にBLOGOSで公開されたものです

 ここ数日「女性専用車両」をめぐる議論が、ネット上で盛り上がっている。

 きっかけとしては「女性専用車両から男性を排除することは男性差別である」という趣旨のことを叫ぶ人たちが、女性専用車両に乗り込んでトラブルを起こし、列車運行を遅らせたこと。(*1)
 また、渋谷で女性専用車両に関する街頭演説をしようとした、反女性専用車両の人たちと、彼らが迷惑行為を繰り返すことに反対する人たちが対立したことによるものだ。(*2)

 以前から「男性差別に反対する」という主張を掲げて、女性専用車両に乗り込む活動を繰り返す連中がいた。その活動は「女性専用車両は女性優遇である」と主張するネットのごく一部で支持を受け、長く繰り返されている。

 自分自身は女性専用車両には反対していない。しかしそのネーミングには問題があると考えている。
 実際には女性専用車両にも、子供や障害のある男性など、満員電車に乗ることに不都合がある男性も乗れるとしているのだが「女性専用」というネーミングによりそれを理解していない人も少なくない。

 そもそもかつて「シルバーシート」という名前であった席を「優先席」に変えたのは「シルバーシート=老人専用席」という勘違いが蔓延し、怪我人や障害者、妊婦などが座れなくなってしまったという過去があるからだ。その過去を踏まえれば「女性専用車両」という名称がいかに軽率であったかは明白であろう。せめて「女性"優先"車両」とされるべきであったと、僕は考えている。

 しかし、ネットで女性専用車両が批判されるのは、それが理由ではない。
 ネットなどでは骨折をして松葉杖をついた男性が女性専用車両から追い出されたなどの話題が時折持ち出され、いかに女性専用車両に乗る女性たちが不躾で傲慢であるかを主張する言説が飛び出す。なかには対立を収めようとしているのか、対立を深めようとしているのかよく分からない人が「女性専用車両に乗る女性たちこそ隔離対象である」などと主張する姿もある。

 その根底には無責任なネットによる女性に対する軽視があることは言うまでもない。一方でネットでは無責任な男性への軽視もよくみられる。いわば女性専用車両の問題がそうした無責任なミソジニーとミサンドリーの戦場と化してしまっていると言えよう。

 女性専用車両に立ち入る側の言い分としては、女性専用車両に立ち入ることは、違法ではないということだ。
 たしかに法的に考えれば、女性専用車両に男性が乗り込むことは違法ではない。しかし単純に「とんでもなく迷惑」である。
 Twitterでこの件に関して「電車の中でおならをしまくるのと同じ」という趣旨のツイートがあって、全くそのとおりだと思った。生理現象だからおならが出るのは仕方ないし、おならをする自由は守られるべきだが、それを意図的にしつこくやり続けるのは論外である。

 女性専用車両に男性が立ち入ることが違法ではない一方で、では鉄道各社が女性専用車両を設定することにも問題があるかといえば、そうではないことは、東京地裁の判決で明確に示されており、女性専用車両は決して違法ではない。(*3)
 違法でないなら自由だというなら、鉄道会社が女性専用車両を設けることも違法ではないのだから、自由なのである。

 そもそも、女性専用車両が男性の乗車を許容せざるを得ないのは、男性障害者や怪我人など、満員電車では都合の悪い男性の乗り込みを許容するためでもある。もし、男性健常者の乗り込みを法的に否定し、一方で男性障害者の乗り込みを許可しようとすれば、許可をする障害の規定が必要となる。これでは多用な障害や怪我に対応できなくなってしまう。

 もし、その法を悪用して、男性健常者が「男性差別に反対する」と名乗り、女性たちを怖がらせたり、迷惑をかけるためだけに乗り込み続けるなら、いずれそうした法の抜け穴を埋めるしかなくなってしまうだろう。

 いわば、女性専用車両をその文字通り「女性専用だ。男性が入り込むことはまかりなならん」と解釈して、松葉杖の男性を追い出そうとする女性たちと、法の抜け穴を利用して女性専用車両に乗り込む迷惑行為を続けている男性たちは、どちらも男性の便益を損ねてもかまわないと考えているということで共通しているのである。

 違法ではないのだから自由。それはたしかにそうだ。
 しかし、世の中には法で規定されないことは山ほどある。法に規定されないことは対話によって決定されるのが社会の常である。
 そして少なくとも女性専用車両は、そうした鉄道会社と利用者相互の了解の元に設置されている。彼らはそれを了解していないと批判するが、少なくとも僕を含めた多くの男性はそれを了解しているのである。

 なによりいちばん重要なのは、こんな活動で男性差別の本丸である「男は甲斐性」「男は安定した生活基盤を持ってこそ」という最も重大な問題が解決されるわけも無いということだ。
 そうした多くの人が苦しむ男性差別の本丸に立ち向かうこともなく、単なる嫌がらせにすぎない女性専用車両への乗り込みを繰り返して、さもそれこそが男性差別に対抗することであるかのように主張して恥じないというのは、腹に据えかねるものがある。

 彼らは意図的であるかないかは知らないが、僕には彼らの活動は、男性差別の意味を捻じ曲げて矮小化しようとしているようにしか見えない。その1点だけを見ても、少なくとも大半の弱い立場に置かれ、苦しんでいる男性にとって、彼らを支持する理由は一切無い。彼らは男性差別にタダ乗りしているだけの迷惑な連中という他ないのである。

 僕は明確に「女性"優先"車両」が設定されることを支持するし、たとえ合法であってもそこに男性健常者が、居座る目的を持って立ち入ることは迷惑千万である。そう主張する。

*1:「女性専用車両」違憲訴訟、男性側敗訴のケースも…トラブルの火種、くすぶり続ける(弁護士ドットコム)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180224-00007476-bengocom-soci

*2:渋谷駅前で「女性専用車両」反対派とカウンターが衝突、「帰れ」コール響き騒然(弁護士ドットコム)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180224-00007490-bengocom-soci

*3:女性専用車両の違法性を否定した事例(国民生活センター)http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201712_1.html