転売屋を憎む暇があるなら - 赤木智弘
※この記事は2015年06月06日にBLOGOSで公開されたものです
福島県は6月1日に、県内の観光促進のために「福が満開、福のしま。旅行券」を発行した。額面は3000円と5000円の2種で、それぞれ6000円分と1万円分の福島県内での宿泊代などとして利用できるという。
旅行券は発売後、即完売し、発売と同時に購入手続きを始めた人でも手に入れられないことも多かったそうだ。(*1)
ところが2日、発売した商品券の一部がオークションで出品されていることが発見された。(*2)
県観光交流課は出品を取り下げるように要請したが取り下げはされず、落札されたという。県は趣旨と異なるとして、困惑の色を隠せないようだ。
観光交流課とすれば、浮いた差益で福島県内で買い物や食事をして欲しかったのだろう。
しかし商品券の内容を見るに、100%のプレミアムが付き、お盆期間を含む9月末まで使えるという大盤振る舞い。
さらに、贈り物にすることなども想定していたのだろうか、購入者登録をする必要はなく、購入者と利用者が異なっても一切問題ない仕組みだ。市場価値は非常に高かったといえる。
今後、第2期、第3期が企画されているが、いずれも年末年始が利用可能期間に含まれることから、同じようにすぐに売り切れるし、転売も出るだろうと予測される。
さて、県はどうしてこの程度のことに憤っているのだろかと、僕には不思議である。
一定数の転売が出るのはやむを得ないと、最初から考えているなら僕にも理解できるのだが「趣旨と異なる」という旨のコメントを出す理由が分からない。
転売屋に商品がなるべく渡らないようにするためには、いくつか方法がある。
1つはプレミアムを低く抑える。額面にもよるが、市区町村レベルのお買い物商品券でよくある20%くらいのプレミアムであれば、転売屋にとっては魅力的な商品ではなくなる。ただし、お得感も低いから、福島観光宣伝としての効果は薄れる。
次に「抽選方式」にする方法だ。転売屋に当たる可能性もあるが、転売を収入源としている転売屋のように、先着順での購入に慣れてない普通の人でも、抽選であれば同じ土俵に立つことができ、結果として普通の人に回る可能性は高くなる。デメリットとしては、とりあえず応募して当たったものの、使う予定が立たない人が転売をするという、転売目的で購入したわけではないが、結果として転売する人が増えるということだろう。
さらに、購入登録を行って、購入者しか使えないタイプの商品券として販売することもできる。使用時に身分の照会を行うようにすれば、さすがに転売屋が扱う商品にはならなくなる。ただし、この場合は「田舎の両親に旅行をプレゼント」といった目的には使えず、商品券の使い勝手が非常に悪くなる。
いずれも一長一短あるが、そうしたことを踏まえて販売方式は決定されているはずである。もちろん優秀で高給を得ている公務員の皆様のことだから、先着順という方式を選んだのも、これらを踏まえての結果なのだろう。
こうした問題を考えるときに、つい「転売屋なんて居なければ問題は発生しないのに」と考えがちである。
しかし商売というものは「安く仕入れて高く売る」ことが基本であり、転売屋はそれに忠実なだけである。そしてそれは資本主義の原則でもある。 市場価値と大きく異なる価格のものが出回っても、最終的には市場価格相場に収束するというというのは経済の原則であり必然である。
資本主義が資本主義である以上、転売屋はいなくならない。転売屋を憎んだり、許しがたいなどと敵視する暇があるなら、福島へ観光客を一人でも多く呼ぶことを考えるほうが建設的である。
そうした意味においても、行政側が転売屋を批判するようなコメントを出すことが、僕には不思議なのである。
え? まさか転売を予測できなかったでもいうのだろうか? さすがにそんな無能ではないだろう……まさかね……。
*1:福島)県の半額旅行券4万枚、発売22分で即完売(朝日新聞デジタル)
*2:福島の倍額旅行券、ネットで転売 県「趣旨と異なる」(朝日新聞デジタル)