推薦!堀江貴文著『我が闘争』について - 吉川圭三
※この記事は2015年05月26日にBLOGOSで公開されたものです
堀江貴文さんは、非常につかみにくい人物だった。東大出身。学生時代に起業しIT企業を経営。企業規模拡大に成功。近鉄バッファローズ買収に乗り出したり、仙台の球団を「楽天」と競り合い「野球の再構築」に挑む救世主のような企業家に見えた。その後、衆議院の予備選挙に立候補したり、ニッポン放送株買い占めによりフジテレビを乗っ取ろうとした。部下が謎の自殺を遂げたり、ライブドア事件で逮捕され服役。その後2013年に出所した。最初テレビで報道されるホリエモンはある時は「爽やかな改革者」に見えた。一転ライブドア事件後は「おぞましい拝金主義者」に見えた。出所して1年半が経過した。その後、彼は如何に逮捕が不当であったかを訴え続けた。最近はテレビ番組でも引っ張りだこである。MXテレビで独特の論理を切り回すホリエモンに地上波はきっと「数字」の匂いを嗅ぎつけたのであろう。地上波は出演に関するコンプライアンス面もかなり丁寧にチェックしたであろう。持前の頭脳の切れ、独特の正直すぎる価値観でクイズ・情報・お笑い・ニュース。あの日本中に嵐を巻き起こした男がテレビの中で笑って、クイズに答えている。ただテレビに善者・悪者・改革者、様々な形で露出をしてきた人物だが「ホリエモンの実像」を私はまだ掴みかねていた。
そこで、実はある人を介してこの「怪物」と呼ばれた男と直接会うべく、会食のセッティングをお願いした。出所数か月後である。店に現れた堀江さんは濃いサングラスを外す。収監の間ダイエットし、顔色も良い。都内某所の寿司屋で美味そうに寿司をつまむ。堀江さんは「宇宙へいかに安価に人を送るか?」というプロジェクトに注力していると私は聞いていたので、私は宇宙旅行に関しての話を始めた。しかし堀江さんの知識は私のそれを遥かに凌駕し、正直私は自分の知識のあまりの貧弱さを恥じ入るしかなかった。その他、携帯端末の将来の話、米国の検索サイトが今後どうなってゆくのか等の話をどんどん進めて行く。呆然としている間に3時間が経過していた。・・・頭のキレが半端でない。古い価値観が用無しになればすぐ変えようという気持ちに揺らぎはない。意外と爽やかで正直で老獪な感じは全くない。テレビ報道で見ていた突然、悪役に激変した様子とはかなり違った。「新しいビジネスと社会の改革とその発展」の事しか頭にない男・・・というイメージだった。それはバラエティ番組に芸人に突っ込まれて笑っているイメージとも違う。・・・食事を終え堀江さんは「じゃあまたやりましょう。」と去って行く。見送りながら、私はただ呆然としていた。全く今まで会ったことが無い類型の人物だった。
その後、私自身もテレビ局からIT企業に移動し堀江さんの情報が散発的に入ってきても、一回だけの会談ではその実像を図りかねていた。出版された本もちらほら見たがどれも芯を食っていない様に思えた。やっぱり一緒に仕事の一つでもやらないとわからないのかなどと考えていた。・・・この本を読むまでは。
これはもちろん本の宣伝をするための記事ではない。ただ堀江貴文という人物の実像に近づくには、私には最適な本だと思う。「堀江貴文・我が闘争」(幻冬舎)。幼少時代から、既成概念を疑う勉強嫌いの少年は九州で卑屈な時代を過ごす。ある熱心な学習塾の先生によって彼の卓越した頭脳が動き出す、名門校に入学するもパソコンに熱中、受験勉強を全くしなかったが、ある日東大をめざし6か月だけ猛勉強。東大入学。麻雀漬けの日々。パソコンのアルバイト。学生起業。会社が大きくなって行く過程、信頼できない人間を入社させた自分の甘さ…シンプルに飾ることなく正直に、最後の自分の出所後の生活まで一気に書いている。この本では彼のその時その時の堀江さんの心情がとても生々しく刻印されている。「人間・堀江貴文」はその時、何を思ったのかを感じることができる。
この本で、これまでの堀江さんの取った行動の裏側と行動動機が分かる様な気がした。端正な顔をした堀江さんだが、既得権益者に対する対抗心、納得いかないもの、改善されない物には闘争して行く気持ちには今でも変化がないようだ。もちろんその後やり方は変わったであろうが。
そして私はテレビ局で仕事をしていたので以下の文章が正直ショッキングだった。フジテレビ買収の時に感じた事について語った文章である。 テレビ局で働く人間に対し
「自分はこれだけのことをやっているのだから、会社は守ってくれて当然だ。会社で決められた通りの仕事をしていれば、自分の生活は保障される。
・・・・高度成長期ならいざ知らず、この現代において(テレビ局)はどう考えればそんなお気楽でいられるのか、(中略)彼ら社員はせっかく勉強していい会社に入って、いい会社に就職したのだから、後は真面目に働けば一生安泰だと思っているのだ。(中略)実のところ自分たちだけは大丈夫だと思っているのではないだろうか。そんなはずはない。テレビ局だって新聞社だって、経営状態が悪くなれば当然倒産するのだ。」
もちろん、フジテレビ買収に失敗した堀江さんの文章だから、というのもあるが、テレビ屋であった私にはかなり衝撃的な文章であった。
最後の章に堀江さんが東大駒場寮にいた頃、居酒屋で先輩や友人達に向かって吐き捨てた言葉が出てくる。
「人の気持ちなんて、わかるはずないじゃないですか!」
・・・・
堀江さんは今なら、こんな風に言うと書いてある。
「人の気持ちはわからないです。でも出来る限り分かろうとします。」
・・・彼もこの試練を受けて、だいぶ変化を遂げた様だ。
日本は改革者に厳しい国である。アメリカのシリコンバレーやマサチューセッツ工科大学に行けば50メートルおきに堀江さんの様な人物に出会う様な気がするが、どうであろうか。(了)
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