逮捕される子供を、起業家精神あふれる大人へと成長させるために - 赤木智弘
※この記事は2015年05月23日にBLOGOSで公開されたものです
浅草の三社祭でドローンを飛ばすとして、祭りの主催者に警備強化をさせたとして、威力業務妨害の疑いで15歳の少年が逮捕された。少年は9日には長野県善光寺で御開帳をドローンと使ってネット中継、墜落させて騒動を起こし、14日には国会議事堂付近で、19日にはJR有楽町駅付近でドローンを飛ばそうとして、警察に注意を受けており、その様子を自らネット中継していた。
今回の逮捕はこうした度重なる騒動の末の逮捕であり、ドローン云々というよりは「官邸のドローン騒ぎに便乗した愉快犯が、度を越したために逮捕された」という評価が関の山だろう。
今回の件が面白いのは、彼が生中継することにこだわり続けた理由である。
彼はいわゆる「生主」つまり、ニコニコ動画やツイキャスなどで生放送をする人であり、事件に用いたドローンやPCなども、彼の放送を見た人からのお金で購入していたという。(*1)
ネット上にまとめられた彼の情報(*2)を見るに、彼は以前から無許可や迷惑な生放送をしては、警察に通報されることを繰り返しており、今年の2月はじめに、家族によってPC等の配信機材を破壊されている。こうしたドタバタが一部の好事家に面白がられていたようだ。
彼が多くの人に知られるきっかけになったのは、今年の2月に発生した川崎市での中1殺害事件だ。この時に鼻の部分にマスクをして、被害者宅前に報道陣に混じって配信をしていたのが彼である。これがマスコミでニュースとして扱われ、彼は多くの人に知られる生主となった。
彼は生放送を繰り返す中で、グッズの販売や金銭的支援を募っていた。2月に家族によってPCが捨てられても、彼のファンがお金を振り込むなどしており、生放送が終わることはなかった。(*3)
彼の家族は、PCを捨てたり、小遣いを与えないなどと罰を与えていたようだが、結局はそれが彼を生放送に固執させる結果となったのだろう。彼は学校を退学になり、家族に疎まれ、社会から排除されつつあったから、生放送の向こうとのファンとの関係性を保つことに躍起になっていたに違いない。そのことから、過激な放送はで支持を得ていた彼は、次々に過激な放送を続けるしか無かったのである。
これに対して「自己顕示欲や承認欲求を満たすためだけにやっていたのだろう」と批判することは簡単である。
しかし、実態としては彼がしていたのは「仕事」である。
彼は家族からの小遣いに頼らなくても、自分の生放送を続ける事ができるだけの収入を得られる仕事をしていた。そこには確実に成功の余地があったのだ。
彼にお金を与えて面白がっていた「子供を金で操る悪い大人」たちが問題だという声もある。しかし僕は、そうとも言い切れないと考える。
相撲で言えば「タニマチ」、女子高生で言えば「パパ」、一般的な言葉で言えば「パトロン」といった、金を持った個人が、他者に個人的に金を与えて、何らかのサービスを受けるという関係性は、資本主義社会においては必ず存在する分配の一形態である。
私たちは仕事というと、つい「会社から与えられた仕事をして、お金を受け取ること」というBtoCモデルを当たり前のものとして考えるが、こうした個人間によるCtoCモデルの分配というのも昔から当たり前に行われてきたのである。ネットの放送などを通してユーザーからお金を得るというビジネスモデルは、CtoCと極めて親和性の高く、少年はこれを利用したに過ぎない。
これは日頃から新自由主義者が翼賛する「個人による起業精神」に他ならないのではないかと、僕は思う。
「貧乏人は起業しろ」「生活保護の世話になろうなんて思うな」「リスクを負うものがだけが多額の報酬を得るべきだ」などと言っている連中が、この少年を批難するのは卑怯である。彼はネットを通して収入を得ることに成功していたのである。彼はまさに正しい意味合いでの「仕事」をしていたのだ。その事自体は、今の日本社会においては、賛美されることであり、批難されるべきことではないはずだ。
さて、ネット起業家として成功の道を歩みつつあった彼が失敗をした。
なぜ失敗したかといえば、彼が明確に「起業」の意図を持っていなかったからだ。
彼の仕事は極めて子供じみていた。そしてそれは同時に、彼の行動を面白がる大人も子供じみていたし、彼からPCや小遣いを取り上げた彼の親も子供じみていた。周囲に大人がいなかったのだ。
周囲のに大人がいれば、彼に教えるべきだったのは「周囲に迷惑をかけるな」ということではなく、こうした子どもじみた配信を、しっかりとした仕事に変化させるにはどうするべきかを教えることができたはずなのだ。
例えば、環境保護団体を名乗る過激な団体がある。彼らは偏見丸出しで差別的な活動をしながらも、多くのスポンサーを得て多額の資金を手にしている。窃盗をした犯罪者だって、こうした団体では事務局長として、ふかふかの椅子に座って高給なスーツ姿で公衆の面前で環境保護を語り、偉そうにできるのである。
同じように、反差別を名乗ったり、逆に民族差別を煽ったりする団体も、さまざまなスポンサーからその活動を支えてもらっている。
彼も過激な配信を続けるのであれば、そうした団体に習って過激さを仕事に変換し、逮捕程度ではビクともしない、それどころか普通なら逮捕されるようなことをしても、行政や警察からお目こぼししてもらえるような権力を持つ会社をつくり上げるべきなのである。それこそが起業家精神であり、今の日本社会が求めている人材である。
仕事と犯罪は紙一重だ。今回の逮捕に懲りず、彼には起業家精神を貫いてほしい。そしてやがては秒速で1億円を稼げるようになって、逮捕で彼をバカにした人たちに一泡吹かせてやって欲しい。がんばれ!
*1:逮捕の少年 ドローンで撮影の動画配信で金得たか NHKニュース
*2:未成年者の本名らしき情報が掲載されているために、URLは記載しません。
*3:ドローン少年に「25万円支援した」 ファン名乗る男性、資金の流れを捜査 警視庁(産経ニュース)