※この記事は2015年05月16日にBLOGOSで公開されたものです

政府は、5月14日午後に開かれた臨時閣議で、安全保障法制の関連法案を閣議決定した。この法案には、集団的自衛権の行使を容認する内容が盛り込まれていることから、官邸前では「閣議決定撤回」を求める市民や学生らによる抗議行動が行われた。夜19時には、ツイッターの呼びかけで集まったという学生らにマイクが手渡され、3時間以上にわたり首相官邸に向かって抗議を訴えた。(取材:岸田浩和)




「たくさんの人が声を上げることが重要」

夕方18時、首相官邸前。事前に告知された抗議行動の開始時刻には、すでに100名以上の人たちが集まっていた。午前中から行われていた別の抗議活動に参加し、合流してきた人たちもいる。


呼びかけ人の一人”火焔瓶テツ”こと加室徹さん(45)がマイクを持ち、仲間の打ち鳴らすドラムに合わせて「戦争法案、勝手に決めるな!」とかけ声を上げている。

「(問題なのは)国民が無関心なのではなく、誤った方向の関心が作られていることだ」と話す加室さんは、「中国や北朝鮮の脅威が過剰にあおられ、改憲が正当化されたり、他国の起こした中東の戦争に加わることが平和のためだと語られる風潮が怖ろしい」と強調した。

今回のような抗議行動やデモについて、”一部の人が集まって騒いでいるだけ”と捉える風潮があることに対して、加室さんは「僕は主催者ではなく、単なる呼びかけ人。きっかけを作っただけで、主役はここに足を運んでくれた参加者です」と話し、「たくさんの人が、いろんなところで声を上げることが重要」との持論を述べた。


19時前になると参加者の数が一気に増え、集まった人垣の長さは、総理官邸前の交差点を先頭に100m以上伸びた。学生や仕事帰りの社会人の姿も目立つ。参加者は500名近くにふくれあがった。

「大人があきらめずに行動するところを見てもらいたい」

途中からマイクを託され抗議の声を上げていた、大学4年生の奥田愛基さん(22)は、当日の朝のニュースで安保法案の閣議決定を知ったという。

奥田さんは「これだけ重要な内容の法案が、十分な議論もなく臨時閣議で決定してしまうのは異常。このまま、強行採決に持ち込まれて、法案が施行されるのであれば、近代国家としてはあり得ない状況ではないか」と強い憤りと不安を感じたという。すぐさまツイッターで抗議行動への参加を呼びかけ、結果的に20名近くの大学生が駆けつけた。

最近の学生は、政治に無関心だという指摘に対し「僕は、そうは感じない」と奥田さん。「”戦争はイヤだ”とか、”なんだか今の政府はおかしいんじゃないか”と危機感を持つ周囲の声は想像以上に多いし、いくら後方支援とは言え、自国に関係のない戦争に参加することは良くない、と言うのが本音」と話す。「たとえ学生の10人に2~3人しか、この問題に関心を持っていなかったとしても、全体の数を考えれば数十万人単位になる。いまは全員が参加する学生運動のようなムーブメントがないから可視化されていないだけ」との考えを語った。

親子で駆けつけたという40代の主婦は「国民への説明や話し合いの場を設けず、事後報告のような進め方で法案をごり押ししようとする政府の姿勢が許せないと思った」と憤る。ピンク色の台紙に「平和がいいね」と書かれたプラカードを持つ子どもの肩に手を置き「ここで声を上げたからと言って、今日すぐに何かが変わるわけではないが、親や大人があきらめずに行動するところを子どもにも見てもらいたくて、一緒に来たんですよ」と話してくれた。

22時、奥田愛基さんが再びマイクを手にした。「僕たちの世代になって、自由とか民主主義について真剣に考えないといけなくなったのは残念なことかもしれないが、この権利を使わない手はないでしょう」と話し、「安倍首相は解釈改憲のときに”最高責任者は私だ”と言いましたが、この国の主権はわれわれ国民にあります。我々にこそ、この国が歩む道や方向を決める権利があります」と力を込めた。

「この法案は、これから衆議院の特別委員会で審議と採決が行われた後に、参議院でも同じことが行われ、7月中の法案成立が計画されています。何度でも官邸前に押しかけ、声を上げ、この法案の成立を止めましょう」と訴えると、周囲から大きな拍手と歓声が上がった。
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