※この記事は2011年01月05日にBLOGOSで公開されたものです

　横浜市の飲食店が、ネットを通じて販売したおせち料理が、ネットに掲載された見本の写真とまったく違うとして、飲食店に苦情が相次いだという。(*1)


　この問題。元は、クチコミグルメサイトの「食べログ」に投稿された、見本の写真とまったく違うしょぼいおせちの写真が最初であった。

　スッカスカのおせち画像の面白さは強力で、私も最初に見た瞬間に「しょぼっ！」と思い笑ってしまったが、逆に言えば「１万円で買ったおせちがしょぼかった」という、買ってしまった人は気の毒だけれども、はた目で見る分には、ちょっと面白いだけのネタであった。

　少なくともその時点で自分が読んだ内容としては、既にその記事の投稿者は飲食店に電話し、謝罪を受け、返金したいとの提示を受けていたという。投稿者も、当初は怒ってはいたが、謝罪などの誠実であったと評価している。

　ところが、この話がネットで広まるにつれ、これを単純に面白がっていたネットユーザーたちより、「50％引きとか言っている共同購入サイト自体が信用できない」や「この業者が面白いから叩きたい」という、本来の文脈を拡大解釈した問題意識を持つネットユーザーが、多くを占めるようになってきてしまった。

　ついには、この業者の納品書を漁ったらしい、真偽不明な画像をアップロードするネットユーザーまで登場し、悪乗りに歯止めがかからなくなってしまっていた。

　このニュース(*1)は、そんなタイミングで報じられたものである。


　既に解決したに等しい問題をほじくり返し、該当の業者を一方的に叩こうとするネットでのバッシングは、行きすぎであると思う。

　だが、私はそのことよりも、そうした騒ぎからマスメディアがニュースを切り出して、そのままストレートニュースの体を装って、なんの注釈もなく報道してしまった行為に対して、情けなさを感じてしまった。


　そもそも、通信販売において「カタログの見た目と現物が大きく違う」ということは、よくある話である。

　今回は共同購入サイトであったが、ネット上の通販サイトでは「訳あり品」として通常の品よりも安く設定された商品が人気だが、元々の定価が実体に見合っておらず、安い品を訳あり品と偽って、お得感を煽っているということもある。

　では、今回のおせちの事例が、そうした他の通販問題と比べて、取り立てて報じるだけのニュースバリューを持っているかといえば、私はそうは思わない。

　このニュースを報じるのであれば、その他の「カタログと現物が違う事例」や「訳あり品の問題」などを併記して、通信販売全般に、そうしたリスクが付きまとっていると、視聴者に提示する。もしくはネット上での炎上事例として報じるべきだったのではないか。


　先月、消費者庁はこんにゃく入りゼリーに対して「ゼリーの大きさを直径１センチ以内にするか、飲み込めない大きさに」という、極めて馬鹿げた指標を示した。(*2)

　モチやパン、ご飯などでも窒息事故が起きる事例があるにも関わらず、コンニャクゼリーだけを危険性の高い商品であるかのように取り上げ、リスクを極限まで大きく見積もり、問題の根本的な解決を煽り続けた結果、このような冗談のような指標を許すハメになった。

　今回の問題も、それと同じことである。１つの問題をフレーミングし、そこに過剰な批判を加えれば、問題の大枠は見えなくなってしまう。そこから得られる結論は、的を外したものにしかなりえない。

　もし、このまま事態が進めば「一度こうした問題を起こした店は廃業しろ」「それを宣伝する業者も潰れろ」といった、むちゃくちゃな意見を許すことになることになるかもしれない。

　そしてこれを「ゼリーの大きさ１センチ」な消費者庁が真に受ければ、どんな馬鹿げた「ネット通販規制法案」が飛び出すか分かったものではない。


　今のマスメディアが、個人のブロガーなどに勝る部分は、専門家に話を聞いたり、取材によって裏を取ったりして、独自の分析を加えることができる部分である。

　それによって、一方的な物事の見方を開放し、広い視座で問題を読み解くような材料を視聴者に提示することこそ、マスメディアにおけるジャーナリズムというものではないか。

　そうした役割を忘れ、ネット上の騒ぎをストレートニュースとして報じてしまうことは、マスメディアとしての役割放棄に等しい。

　マスメディアが近視眼的にしか社会を見なくなったらおしまいである。

*1：ネット販売おせち 苦情で返金（NHK）http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110103/k10013172511000.html
*2：こんにゃくゼリー、１ｃｍ以下か一口以上に（読売新聞）http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101222-OYT1T00380.htm

■プロフィール：
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。