※この記事は2010年11月23日にBLOGOSで公開されたものです

　東京都は12月定例会に向けて、漫画やアニメの規制を強化した、都青少年健全育成条例の改正案を提出した。６月議会では、１８歳未満のキャラクターを「非実在青少年」という文言を新たに出して、非実在青少年の性描写を規制した内容だったが、最大会派の民主党などの反対で否決となっていた。今回の条例改正案では、年齢設定を外したことで、より規制範囲が拡大している。

東京都青少年健全育例条例の現行規定と旧改正案、新改正案の対照表

　【第七条二　図書類等の販売及び発行の自主規制】

　この条文は、出版社等が青少年に販売や閲覧をさせないための自主規制を定めたものです。

　現行では、「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあるもの」が該当している。旧改正案では、これに加えて、「年齢又は服装、所持品、学年、背景そのほかの人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」とした上で、「（非実在青少年を）相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」としていた。

　しかし、新改正案では、「漫画、アニメーションその他の画像（実写を除く。）で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」とした。

　何が変わったのかといえば、まず「年齢」要件が外れました。ということは、漫画やアニメ、ゲームのキャラクターであれば、設定年齢が何歳であっても対象になるのです。そして、新たな言葉として、「刑罰法規に触れる」ということが出て来た。実社会ならまだしも、漫画やアニメ、ゲームの中で、そうした場面はいくらでも想定できます。

　これは「人妻」ものや「女子アナ」ものを想定しているのかもしれない。東京都が７２カ所で、「青少年に見せたくない漫画」として、これらの漫画をもって説明したとされることから、年齢に関係ない規定を設けた可能性もあるだろう。

　しかも、「婚姻が禁止されている近親者間」の性描写も規制されることになります。物語の設定上、その間柄が曖昧である作品もあります。または、作品によっては、たとえば、登場する兄妹は、実は血がつながっていないといったものもあります。しかもそれは連載が進まないと分からないものもあります。

　たとえば、親子間の性的虐待を描いた漫画はどうなるのでしょうか。ストーリーの一部には、加害者側の心情として「賛美し又は誇張する」表現が出てくるかもしれませんが、何をもって「不当」とするのでしょうか。

　虐待の悲惨さを訴える漫画もありますが、見つかって子どもが救われるストーリーもあるでしょうが、見つけられなくて子どもがひどいトラウマを抱え、時には命を落とすという設定の漫画があるかもしれません。それは「不当に賛美し又は誇張する」ことになるのでしょうか。

【第八条二　不健全な図書類等の指定】

　この条文は、知事が「不健全図書」に指定する基準を定めたものです。もし、指定された場合は、第九条で、「青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない」とされています。　旧改正案では、「第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるとみとめられるもの」を新設していた。

　新改正案では、「第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるとみとめられるもの」としている。

　しかし、なぜ、ここで「社会規範に反する」を残したのか。「社会規範に反する性交又は性交類似行為」とは何なのか。そして、「不当に賛美し又は誇張」を「著しく」とは、どの程度なのか。何を想定したものなのか、はっきりしない。

【第九条の三　表示図書類に関する勧告等】

　現行では、不健全図書指定されたものが定期刊行物だった場合は、表示図書類とするように、自主規制団体又は図書類発行業者に勧告ができる、としている。

　旧改正案と新改正案ともに、勧告の方法を具体的に明示した。

　１）不健全指定を受けて起算して過去一年間に勧告を受けていない場合はその一年間に、また、勧告を受けている場合はその勧告を受けた日の翌日までの間に不健全指定を六回受けたものまたはその属する自主規制団体に対して、必要な措置をとるべきことを勧告する。

　２）その勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、その勧告を受けた翌日から六月以内に不健全図書指定を受けた場合は、公表することができる。

　３）知事は、勧告を受けた者に対しては、意見を述べたり、証拠を提示する機会を与えなければならない。

　これまでは単に「勧告できる」だったが、一度不健全指定を受けたが、何度も繰り返した場合は「勧告」できると、勧告の仕方を具体的に明示している。この項目単独で見た場合は、勧告の方法の明示をしていることは評価できなくもない。しかし、この条例案は、一括で提出されているため、この条項だけを持って、改正案を判断することはできない。

　ただ、この場合、「公表」とは何をさすのか。現在でも「不健全指定」の図書類は公表されているが、どのような方法を指しているのか。