※この記事は2010年10月01日にBLOGOSで公開されたものです

　大阪市内の府立高校で、家庭科を教える女性教諭が作ったホウ酸団子を「特製クッキー」と言ったところ、生徒が食べてしまったという事件。
　この一報を見聞きしたときには、被害にあってしまった女子高生には申し訳ないが「被害に遭ったのは可哀想だけど、勝手に取って食うのはないよな。ちょっと意地汚いんじゃないの？」ぐらいの感想を持っていた。
　しかし、実はこの女性教諭が、直接女子生徒にホウ酸団子を手渡していたということらしい。しかも、この事実を、校長が知りながら、報告をしなかったという。(*1)

　この事実が発覚したことにより、事件はその意味を一変させた。
　直接手渡されたのであれば、ホウ酸団子を女子高生が口にしたのも当たり前である。クッキーと言われて手渡されれば「食べていいよ」という意思表示だと、女子高生が感じたとしても、なんら不思議ではない。
　家庭科の教諭が作った「特製クッキー」を、生徒は喜んで口にしただろう。そしてその結果、女子生徒は毒物を食べさせられることになってしまった。
　これはもはや、当初に女性教諭の反省の弁として報じられた「言葉遣い」などという単純な問題ではない。
　今後、女子生徒は、ありとあらゆる食べ物を勧められる場で、毒物を口にさせられた記憶と戦わなければならないことになる。それは一生彼女にまとわりつく、恐ろしい記憶となるだろう。
　記事の中で校長は「「記事に出ると本人や保護者に負担になると考えた」と述べ、学校の責任が小さくなるよう事実と異なる説明をした」ということだが、結局は自らの保身なのか、女性教諭を守るためかは知らないが、その罪を女子生徒に押し付けようとしただけではないか。

　ただ、１つだけ引っかかった部分があるとすれば、別の記事(*2)によると「21日の朝に起きたこの事件に対して、校長は当日の午後に府教委に報告書を提出している。当日の事件をすぐに文章にして提出するというのは、少々早すぎるような気がする。事実確認は、その場にいた人の話を総合して考える必要があり、その判断はそんなに簡単なものではないはずだ。
　21日の午後に教頭によって校長に伝えられた真実は、報告書に記載されないまま府教委に虚偽の事実が伝えられ、それがマスコミに流れ、さも女子生徒が、ホウ酸団子を勝手にとって食べたかのような記事になった。
　その時点で、被害に遭った女子生徒は、毒物を食べさせられた揚げ句、勝手にホウ酸団子を口にした行為の軽率さまでを押し付けられることになった。一方、女性教諭は「単に、軽率な冗談を言ってしまった教諭」として扱われた。
　このように女子生徒を貶める報じられ方をされてしまうことに、半日程度で報告書をまとめなければならなかった校長は、想像を巡らす余裕もなかったのかもしれない。
　学校は社会の公器であり、そこで発生した事件は、当然マスコミに報じられる。ならば、このような事件が起きたときにメディアで報じられることを前提とした、報告の仕方を教員も学んでおくべきだろう。
　また、結局この報告を鵜呑みにし、十分な事実確認を行えなかった府教委、そしてそのまま報じたマスコミもまた、何の責任も負っていないとは、私には思えないのである。

*1：ホウ酸団子、実は生徒に教諭手渡し　校長、うその説明（朝日新聞）http://www.asahi.com/national/update/0927/OSK201009270097.html
*2：「自分で食べた」と校長が虚偽報告　生徒がホウ酸団子誤って食べた問題（産経新聞）http://sankei.jp.msn.com/life/education/100927/edc1009272109003-n1.htm