初夏を感じる「トマトの冷製パスタ」をつくるコツ
夏にうれしい冷製パスタ。パスタ同士がくっつかないよう、トマトをすりおろした(同書より)
カブは皮をつけたまま調理するとジューシーに仕上がる、アスパラガスをゆでる際の塩分は2%がいいなど、試作を繰り返すことでロジカルにおいしさを追求する料理家・樋口直哉さん。今回は新刊『もっとおいしく作れたら』から一部抜粋、この季節に食べたくなる、本当においしいトマトの冷製パスタを紹介します。
今から20年以上前の話である。夏の暑い日。あるイタリア人シェフが来日し、昼食に蕎麦店を訪れた。
「麺が冷たい!」そこでざる蕎麦を見た彼は驚いた。イタリアでは冷水でパスタを締めたりしない。
帰国した彼は細いパスタをゆでてから蕎麦と同じように冷水で締め、オリーブオイルを絡め、上にキャビアをのせた。これが冷製パスタの生まれた瞬間だ。その料理は 「キャビアの冷製カッぺリーニ」という名前でメニューに加えられた。
「トマトの冷製パスタ」はこうして生まれた
それからまた時が過ぎた。そして、イタリア人シェフの店に今度は1人の日本人料理人が訪れる。
冷製パスタを知った彼は日本に帰ると、自分なりの冷製パスタをつくってみることにした。主役には高価なキャビアではなく、上質なトマトを選んだ。今ではお馴染みとなった「トマトの冷製パスタ」はこうして生まれた。
今回はトマトを使った冷製パスタを考えた。冷たいパスタは歴史が浅いため、決定版のレシピはまだない。ふつうのつくり方は小さく切ったトマトとオリーブオイル、ビネガー、塩、胡椒(好みでニンニク少量)を混ぜあわせた冷たいトマトソースを、同じく冷たくしたパスタで和える、というもの。
気になっていたのはオイルの量である。
ソースをパスタ全体に絡まるくらいまでオイルで伸ばすとすると結構な油の量になる。イタリア人なら気にならないのかもしれないが、カロリーを考えるとオイルは控えたい。しかし、単純に少なくするとパスタがくっついて固まってしまう。
たどり着いた答えは「トマトをすりおろす」という方法だった。
はじめはトマトをミキサーにかけてみたが、風味が弱くなってしまう。どうやら空気が入ることで、味が薄まるらしい。そこで、おろし金を使ってすりおろしてみたら、うまくいった。
ところでイタリア人は冷たいパスタを日常的には食べない。だから、イタリア料理愛好家のなかには冷製パスタに眉をひそめる人もいる。
でも、暑い日本にはぴったりだ。日本にはもともとざる蕎麦もあるし、ご飯を氷水で洗い、冷たい出汁や煎茶をかける料理もある。日本人は冷たい料理に抵抗がないのだ。
イタリアでも冷製パスタを食べるように
もっともイタリアでも最近は少しずつ冷製パスタを食べる機会が増えている、とも聞く。原因はこのところ毎年のように続く異常気象だ。
暑い夏は冷たい飲みものをがぶ飲みせずに、トマトのすりおろしのようなもので水分を摂りたい。日本の夏も毎年、暑くなっている。これから先、気候がどうなるかは誰にもわからないけれど、とりあえず今は涼しい料理で夏を越えよう。
トマトをすりおろしてつくる初夏の冷製パスタ(同書より)
トマトをすりおろしてつくる初夏の冷製パスタ
■材料(2人分)
トマト 2個(1個半はソースとして、残りはトッピングに)
オリーブオイル 大さじ1
塩(A) 小さじ1/2
きゅうり 1本
黄色ピーマン 小1個
小玉スイカ 1/4個
オリーブオイル 大さじ1
ワインビネガー 小さじ1
塩(B) 小さじ1/4
カッぺリーニ 100g
水 1.5ℓ
塩 22.5g(大さじ1+小さじ1/2くらい)※ゆでる際に入れる
■つくり方
1 トマト1個半は皮ごとおろし金でおろし、オリーブオイルと塩(A)を加える。冷蔵庫で冷やしておく。
2 きゅうり、黄色ピーマン、小玉スイカ、残りのトマトは7〜8mm角に切り、オリーブオイル、ワインビネガー、塩(B)で和えてトッピングとする。
3 鍋に塩分濃度2%の湯を沸かし、カッぺリーニを2分間ゆでる。ゆで上がったらザルにあげて冷水にとり、キッチンペーパーで水気を切る。
4 1のソースで3のカッぺリーニを和え、器に盛り付ける。2のトッピングをのせたらできあがり。
(樋口 直哉 : 作家・料理家)