浦和レッズ。前評判はけっして悪くなかった。6位だった昨季の成績を上回ることは確実。優勝争いにも加わるのではないかーーとする声も少なくなかった。ところが蓋を開けてみると、磐田戦(3月19日)まで6戦して1勝1分け4敗。14位に沈んでいた。他チームとの消化試合数との兼ね合いでいくと、ヴィッセル神戸と最下位を争う関係にあった。上位を争うと思われたJリーグを代表する2大金満クラブが、スタートダッシュに失敗する姿は、弱小クラブのサポーターにはさぞ滑稽に映ったに違いない。

 神戸が7戦目に当たる清水エスパルス戦に引き分けるや、三浦淳寛監督をスパッと解任したのに対し、浦和は磐田に4-1で勝利を収めることができた。両金満クラブの明暗は分かれる格好になった。浦和のロドリゲス監督は、神戸で起きた監督解任劇を見て、さぞや肝を冷やしたに違いない。

 それまで6試合して得点は5。1試合1点に満たなかったチームが4点も奪えた理由を考えたとき、磐田があまり強くないという話を除けば、まず挙げられるのが、開始8分に挙げた犬飼智也の先制ヘッドになる。それまで交代出場が多かった選手を、頭から使ったロドリゲス采配が冴えた瞬間でもあった。

 しかしこの試合の真打ちは、後半頭からJリーグ初出場を飾ったダビィド・モーベルグになる。スパルタ・プラハからやってきた左利きの右ウイング。スウェーデン代表歴のある28歳だ。パッと見て、驚いたのはわずか3回というそのキャップ数だ。これほどの選手がわずか3回とは。スウェーデン代表って、そんなに強かったっけ。日本代表なら文句なしのレギュラーだと、驚いていると、いきなり右からカットインして、挨拶代わりのシュートを放つのだった。

 そして開始3分、右サイドで競り合いから相手ボールを奪うと、モーベルグはそのまま直進。3人のディフェンダーに囲まれても、鮮やかなシュートを苦もなく叩き込んだのだ。Jリーグで久々に見る高級感溢れるプレーだった。フェイントを交えながらカットインしていく滑らかなフォーム。推進力の高いドリブル。そのまま繰り出された矢のようなシュート。絵になるアクションとはこのことである。Jリーグナンバーワンプレーヤーの称号を即座に与えたくなった。

 Jリーグの場合、外国人選手と言えば、ブラジル人選手が7、8割方を占める。スウェーデン人選手は見慣れない存在だ。その分だけ新鮮に映るのかもしれないが、Jリーグに欠けているパーツであることは確かだ。その滑らかなドリブルから想起する選手はミカエル・ラウドルップだ。褒めすぎを承知で言えば、だが、そんな気分にさせるほど、モーベルグのドリブル&シュートは衝撃的だった。

 浦和レッズに課せられた使命を再認識することになった。浦和ファンだけを満足させるサッカーではダメなのだ。フォルランに始まり、ポドルスキー、イニエスタを次々と獲得した神戸がそうであったように、全国のファンにアピールするサッカーを目指すべきなのだ。何と言ってもスタジアムがデカい。観衆をたっぷり収容できる舞台を備えている。予算もそれなりにあるはずだ。目指すべきはJリーグの盟主の座であり、世界とも戦えるクラブ。浦和のファン以外も憧れるようなクラブだ。

 問われているのは、埼玉スタジアムに、浦和サポーター及び対戦相手のサポーター以外のファンをどれほど呼び込めるか、である。Jリーグのスタンドは、ホームとアウェーのサポーターでほぼ占められている。盛り上がっているかに見えるが、関心を寄せているのは当事者のみ。どちらのファンでもない第3者にとって、観戦の動機が低い状態にある。

 Jリーグの初期はそうではなかった。チーム数が少なかったこともあるが、一流の外国人選手が披露する一流のプレーを見るために、スタジアムに足を運ぶ人が多くを占めた。