読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

 

 

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む”作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。

相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

 

【今回の相談】いらないものを捨てたあと、後悔してしまうのはなぜ?

 

いらないものを処分したあとに、そういうものに限ってあとで捨てたことを後悔するのはなぜでしょうか?

この前も溜まっていた紙袋を捨てたあと、やっぱり収納に使えばよかったと後悔しました。

(PN.袋いらずのカンガルーさん)

 

【作者さんの回答】所有の概念がない恐竜が遠吠えをするから

 

あるところにとても大きな恐竜がいました。

かれは目につくものをなんでも食べてしまうため、周りの動物からいつも恐れられていました。

「自分らだって食べられてしまうかもしれない!」

そう恐怖して、かれが姿を見せるとみんな一目散に逃げてしまうのです。

「さぁ、今日はなにを食べようかな……」

かれはみんなが逃げだして誰もいなくなったところで、優雅に食事をします。そのへんに落ちているものや、捨てられたものだって食べてしまうのです。

「きみ、落ちているものを勝手に食べちゃだめだよ」

「えっ、だれ?」

恐竜は驚きました。いままで自分に話しかける動物なんてまったくいなかったのです。生まれて初めて話しかけられました。声のするほうを見ると、一羽の鳥がいました。

鳥が恐竜に話しかけることができたのは、かれが翼を持っているからです。なにかあったらすぐ空に逃げればよかったのです。

「それはだれかのものかもしれないよ」

「だれかのもの……?」

かれには所有の概念がありませんでした。なぜなら、みんなかれの前からいなくなるので、だれかがなにかを所有しているところを見たことなかったのです。

鳥は恐竜に所有の概念を教えてあげました。「物」には所有者がいる場合があって、その場合は勝手に使ったり持っていったりしちゃだめなんだよ、と。

「へぇ、そういう概念は初めて知ったなぁ」

恐竜は初めてふれる概念に痛く感心しました。

そのとき、恐竜の足もとには紙袋がありました。袋いらずのカンガルーさんが捨てた紙袋です。

「これもだれかのものなのかな」

「そうかもしれない。持ち主がいるかどうか、聞いてみたほうがいいよ」

恐竜は丘のうえに登ると、大きな声でさけびました。なにしろ体が大きいので、声も大きいです。その声は大陸も海も、どんどん超えていきます。

その声は紙袋を捨てた袋いらずのカンガルーさんの家にも届きました。そして、紙袋を持っていたことを思い出し、「ああ、あの紙袋があったら整理に使えたのに」と後悔したのです。

袋いらずのカンガルーさんだけではありません。だれかが「あぁ、あれ捨てなきゃよかった」と思いつくときは、恐竜が丘のうえから叫んでいるのです。

 

【編集部より】

あのー、恐竜ってもう絶滅しましたよね。それと恐竜が進化したのが鳥って聞いたことがあるような……。

袋いらずのカンガルーさん、捨てたものに限ってあとで必要になって後悔するのではなくて、あとで必要になったものだけ捨てたことを思い出しているのではないでしょうか。

もし丘のうえで恐竜が叫んでいたら、うるさくてしょうがありません。すぐに耳をふさぎましょう。

 

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。

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